第五十四話 鍛治依頼
(うーむ、どっちに行くべきか)
次の日、ライトは宿屋に併設された食堂で朝食をとりながら、武器のことについて考えを巡らす。昨日の襲撃者との戦闘で、ついに鉄のナイフが修復不可能な程に壊れてしまったのだ。
それなりにメンテナンスはしていたものの、所詮は店売りの品。連日の使用に重ね、あのオーク達との闘いや、崖に突き刺したりなどの無茶な使用に耐えられなくなるのは必然だろう。
なので、新しいナイフを新調しようとしているのだが、そのナイフを適当な店売りで済ますか、それとも攻略組ギルドに掛け合うかどうか。という事でライトは頭を悩ましているのであった。
(先にギルドに行くか、もしぼったくられそうなら店売りで済まそう)
食後の烏龍茶を飲み干し、そう結論付けたライトは攻略ギルドの方にへと向かう。徒歩で数分もしない内に、攻略組ギルドには着いた。中に入ると数々のプレイヤー達が談笑したり、攻略情報を話し合うのが見えた。
ライトは、¨買い取り¨¨武器関連¨¨その他¨等と書かれた受付の内の武器関連にへと向かう。買い取りの列は数人程並んでいたのが見えたが、こちらの窓口は閑古鳥が鳴いていたお陰ですんなりと通る事ができた。
「むー、何? 買い取りなら隣だよー」
(プレイヤー?)
そこに居たのは白い髪を肩まで伸ばしたおかっぱ少女。少女は、かなり暇そうに机に突っ伏しており、窓口に来たライトを買い取り窓口を間違えた客とでも思っているようである。
「いや、俺は買い取りじゃなくて武器の制作を依頼したくて……」
「制作! ホントに!」
ライトが言葉を言い切る前に、その少女は顔を勢い良く上げながら叫ぶ。カウンターから体を乗りだすのを制止すると、少女は取り繕うように笑った。
「アハハ。ごめんなさい、久しぶりの鍛治依頼だったもので」
「まあいいが、依頼はしてもいいのかい?」
「勿論! 何が望み? 武器? 防具? それとも道具?」
「武器だな、短刀を頼みたい。素材はこれでいいかな」
ライトはそう言って、ナイトメアを含むオークの素材データを少女に見せる。少女はその素材を見て、
「……これって! 最新素材じゃない!」
そう驚きの声を上げる。現在、あの崖を降りた所まで行けるプレイヤーは極一部しか居ない。正攻法で降りるためには暗い洞窟内を進む必要があり、暗がりでの戦闘に慣れないものは苦戦を強いられる。そのため、まだ攻略組の中でもそこまで余裕をもって進めるものは極一部しかいないのだ。そんな所の素材を大量に持ってきたとなれば、少女が声を上げるのも無理はないだろう。
「それで? 受けてくれるのか、くれないのか」
「う、受ける受ける。お金は……そうだね、このぐらいかな」
「随分安いな、もう少し高いと思ったが」
「こんないい素材をいっぱい持ってきてくれたんだもん。このぐらいはサービスするよ」
そう言って少女が提示した金額は、ライトが予め掲示板で調べていた相場よりもかなり安くかった。素材持ち込みとは言え、破格の安さにライトは二つ返事で了承する。
「どのくらいで出来るんだ」
「そうだねぇ……明日にはできるかな」
「早くないか? てっきりもう少し時間がかかるかと思ったんだが」
「いやー、お恥ずかしながら客足が無くてね。お陰でNPCも雇えず仕舞い。でも、時間はたっぷりあるから多分明日までにはしあがるよ」
「そうか、じゃあそれで頼む。特に急いではないから、その分じっくりやってくれ」
ライトはメニューを開き、Gを具現化してカウンターに置く。少女はその金額が合っていることを確かめると、素材を閉まってすぐに店の奥に引っ込んでしまった。
「あーあ、どうするかな」
攻略ギルドから出た後、手持ちぶさたになったライトは掲示板でも見ようとメニューを開く。すると、気づいていなかったが少し前に送られた未読メッセージを見つけた。
「?」
差出人は、ライトに忍者の職業を与えた老NPCから。要件はというと、
「忍術を教えるだって?」
そう言った旨のメッセージが書かれていた。送られてからニ日程経過しているが、行かないわけにもいかないだろう。
それに、今のライトは暇をもて余している。となれば、行かないという選択肢はない。
「さて、ちょいと久しぶりかな。第二の町にいくのも」
そう独り言を呟き、ライトはポータルのある広場に向かって歩き始めるのであった。