第五十話 VSナイトメアオーク①
「エッ? エッ? なんでリースちゃんがここに……」
目を覚ましたロロナは、そんな事を言いながら、あたふたと周りを見渡す。
「おーい、終わったぞー」
「お疲れー」
彼女が困惑している間にも、ライトとリースの二人はマイペースに話を進める。ライトが、オーク達を倒し終えてこちらに手を振りながら、帰ってこようとしたその時。彼女は、見た。
「…………」
真っ黒な体をした巨大なオークが、ゆっくりとライトの後ろに立ち、手に持った黒い棍棒を振り上げるのを。
「……ッ! ライト! 後ろ!」
(後ろから来てるよ、ライト)
ロロナは叫び、リースは念話でその事をこちらを向いていて、オークに気づいていないライトに伝える。
瞬間。彼が立っていた所は、爆音と共に小規模なクレーターとなっていた。
「ライ……」
「いやー、危なかったな。あんなの食らったらひき肉になりそうだ」
「……ト?」
ロロナは、そのクレーターを見て最悪の予感を感じたが、いつの間にか、目にも止まらぬ速さで隣に移動していたライトを見てほっと安堵する。
「良かった~~」
目の前の彼がミンチにされていないことに、安堵の息を吐きながら、彼女はそう呟く。しかし、まだ状況が好転した訳ではない。オークを見据えながら、ライトは隣のロロナに問いかける。
「おい、ロロナ。やれるか」
「モチロン」
「初めてじゃない? フルパーティーでの戦闘って」
「分身を含めれば、な」
ロロナ、リース、ライトの三人はそれぞれ己の武器を構える。ロロナは両拳につけられた鉄拳を打ち鳴らし、リースは杖の先を敵に向け、ライトは分身と共にナイフと小刀を構える。
「行くぞ」
「うん!」
ゆっくりと、降り下ろした棍棒を再度肩に担ぐ黒いオークに対して、先手必勝とばかりにライトとロロナは駆け出す。
AGIで勝るライトは、両の刃を構え、ステップからハイステップ、そしてスラントのチェインを決めながらオークの後ろに回り込む。そして、ダメージを与えた事により、オークの攻撃対象はライトにへと移る。
オークは右手の棍棒では取り回しが悪いと判断したのか、空いている左手を振るう。ただ腕を振り回すだけでも、この巨大なオークが行えば、十分な脅威となる。が、
「爆散攻!」
「ブモッ!」
オークの背中が爆発した。それにより、オークが怯んだお陰で安全にライトは攻撃を避ける。
ライトの一撃よりも大きくHPを減らされ、よろめくオークの後ろを見れば、正拳突きの姿勢をとっていたロロナの姿がみえる。ライトは、彼女の隣に移動すると、
「いいアーツ持ってるんだな」
「これでも攻略組だヨ。殴りと気功、それに炎付与のスキルの賜物サ」
「なるほど、俺もその辺りのスキル取得を視野にいれようかな」
そんな軽口を叩く。勿論そんな隙を見逃すオークでもなく、体制を建て直すと二人に向けて走り出す。しかし、
「ブモオッ!!!」
今度は上空から飛来した一筋の光が、オークに着弾した瞬間。先程とは比べ物にならない爆発がオークを中心に起こる。
「シューティングメテオ。初めて使ったけど、中々の威力じゃない?」
「中々どころか上々だよ。ナイスアシスト、リース」
メラメラと燃える大地を見て、¨おー¨と感嘆の声を上げるロロナを横に、ライトはリースに賛辞を送る。並の相手ならもうとっくにオーバーキル気味の攻撃。だが、それでも
「ブフゥゥゥゥゥゥゥ…………」
黒く巨大な敵は膝を付かない。それどころか、まだ真っ直ぐとこちらを見据える余力もあるようだ。さらに不味い事に、
「ブッ……モォォォ!!!」
「マズッ! ライト、あれ仲間を呼ぶ声じゃない!」
「ああ、みたいだな……」
巨大なオークは、地響きのような鳴き声を上げたかと思えば、周りの草影からオークが数体現れる。どうやらあの鳴き声は、かつての黒狼が行ったように、仲間を呼び寄せる効果が有るらしい。
「ッ! リースちゃん、後ろ!」
「へっ?」
そして、その呼び寄せられた内の一体の接近に気づかず、背後にオークが立っていることに、リースは気づかなかった。それに、元々魔法職のリースは、ここまで接近を許した時点でもう返す手が無い。彼女がオークが構える棍棒に、叩き潰されそうになった瞬間。
「…………」
ライトの分身がリースを抱えて跳躍することで、間一髪ひき肉にされることは回避する。分身がリースを抱えてきたことで、一時分身を含めた五人は固まる。
「さて、どうする」
「どうするって……ざっと六体は居そうだけド、ライトは何か策があるの?」
「策……か」
ロロナから振られた言葉に、少しライトは詰まる。すると、そこでリースからの念話が来た。
(策は有るんだろ、君が生き残る策なら)
(…………)
その念話に返事は出来なかった。確かに、リースの言うとおりライトとリースが生き残る策ならあるのだ。話は簡単、リースを戻したあと、逃げるか、オーク達が倒れるまでひたすら闘うか。だが、この作戦には一つ欠点がある。
「……」
「ん? どうしたのカナ、ライト」
そう、ロロナが助かる補償はほぼ無いということだ。前者の作戦は、逃げるといってもこの夜道、下手にアラーム系罠を作動させたり、足の速い魔物に出会えばそれだけで致命的な遅れを取られかねない。そうなってしまえば、オーク達の餌食になって終わりだ。さらに言えば、まだ出口が見つかっていないのだ、どこに行くかも分からず闇雲に逃げたところで、やはり捕まるのが落ちだ。
後者の作戦では、単純にロロナの集中が持たない。ということが問題である。ライトなら、自身操作という異能のお陰で数時間、いや、数十時間だろうと集中力を持続させることができる。しかし、ロロナは別だ。今はオークの攻撃を避けているが、普通の人間なら一時間も集中が持てば良い方だ。
(クソ……どうする。流石にロロナを見捨てるのは避けたい。しかし、この数じゃ的が散ってリースの魔法も効果が薄い……いや、待てよ)
「ちょっと策を思い付いた。付き合ってくれるか」
ライトの問に、二人はコクリと頷くことで答える