第五話 元脇役と主人公達
セイク達は、道の中央で目の前の男、ライトの前で立ち止まる。ライトは、現実ではセイク達と同じ学校へ通う同級生だ。この、知り合いが殆どいない状況では、一人の知り合いに会うだけでも心の重みが随分と軽くなる。
「その顔だと、どうやら名前は合ってたみたいだな」
「あ、ああ。この名前は気に入ってるからな」
セイクとライトは、向かい合ったままそんな会話をする。ライトもケンやリンと同じく、セイクとは小学校からの付き合いである。だからこそ、ライトはセイクのゲームでのお気に入りの名前を知っていた、ということである。
「なあ、ライト。さっそくだけど、これからどうするか話さないか。装備を整えるか、金稼ぎに行くかとかさ」
セイクは、安心したような声でライトに話しかける。ケン達もライトに会えたことで、幾分か安心した顔をしていた。
しかし、次にライトが口にした言葉は、
「すまんな、セイク。俺はお前達とは一緒には行けない」
「……え?」
セイクに、そんな間抜けな声を出させる内容であった。
「おい、ちょっと待ってくれよ。行けない? どうして……」
「パーティー人数、忘れてる訳ないよな」
「っ!」
セイクは、一緒に行動することを拒否したライトに、その理由を問い詰めようとしたが、被せるように言われた言葉の返答に詰まる。
このゲーム、AWOでのパーティー人数の上限は『五人』である。それを越えれば、得られる経験値や金が大きく減る上に、敵の能力が大幅に強化されてしまう。そして、今セイク達のパーティー人数は、ぴったり五人。ライトが入る余裕はない。
「で、でも……」
「じゃあ聞くが、お前はパーティーの誰かを見捨てられるのか」
それでも、何とかライトを引き込もうとするセイクに、ライトが言った言葉は、セイクの口を閉ざさせるには充分であった。
セイクがちらりと後ろを見れば、初心者が殆どであり、βテスターの自分がいれば、充分序盤のサポートが出来る。しかし、一人にすれば、このゲームに慣れるのにしばらくの時間がかかるだろう。それは、今の状況では痛いタイムロスとなる。
セイクが言葉に詰まり、頭を悩ましていると、
「それで、アンタはどうするの? アンタも初心者ってことには変わりないんじゃない。その割には落ち着いてるけど」
セイクの後ろにいたリンが、ライトの前へと歩みでる。リンの主張はもっともであり、それに対してライトは、
「俺は大丈夫だ。ソロでやるとして、お前らの誰よりも死なない自信がある」
そう返す。その言葉を受けてリンは、
「ホントに言ってるわけ?」
「この状況で、冗談を言う理由は無いと思うが」
少し苛立ち混じりに答える。それもその筈、今のライトの言葉は、『お前らは俺よりも弱い』と遠回しに言われたようなものだ。幼い頃から家で武術を習っているリンにとっては、その言葉は負けず嫌いな性格に引っ掛かったのだろう。
「それじゃ、証明しなさい。アンタが本当に一人でやれるってことを」
「別にいいが、俺にどうしろと? あまり複雑だったり、時間かかるのは勘弁してほしいね」
「勝負よ、一体一の真剣勝負」
「……それはいいな。単純だ、乗ってやるよ」
リンは、腰の木刀を抜くと、ライトへ突きつけながら言う。セイクは、自分も闘おうと、前へ出ようとしたが、
「セイク、ここは私に譲って。多分、アイツにセイクが勝っても、装備の差とかで言いくるめられると思う。だから、ここは私にやらせて」
そう、リンに制止させられる。セイクはβテストの特典として、装備はワンランク上となり、所持金も優遇されている。だからこそ、ライトと闘い、仮に勝っても装備の差でごねられるかもしれない。
その心配を無くすには、同じく初期装備のケンやリン達の誰かが闘わなくてはならない。シェミルとフェニックスは、遠距離職なので除外すると、残るはケンとリンのどちらかとなる。
そうなれば、やる気もあり、隙も少なく、バランスのよい木刀を使うリンの方が適任となる。
セイクはリンの意思を優先し、ここはリンに任せることにした。セイクはリンに頷くことで、その意思を伝える。
「それじゃ、PVPの申請はこっちから送ろう。ルールは勿論、どちらかのHPが一になるまでな」
「異存はないわ」
お互いに、PVPの内容に同意をすると、二人を囲むように半円場にフィールドが区切られる。このAWOには、PVPの機能もあり、このフィールド内では仮にHPがゼロになるダメージを受けても、HP一で止まるようになっている。
このルールの元、互いにある程度の距離を持ち、武器を構えて向かい合う。
リンは、先程もゴブリンを寄せ付けない剣技を披露した木刀を。ライトは、ウッドナイフを右手に順手の状態で持つ。
「何時でもいいぞ」
その言葉により、ライトVSリンの闘いの火蓋は切られた。