第四十九話 夜戦
(……ん?)
パンのみの簡素な夕食を終えてから、二十分程の時間が立った頃。ライトは、洞窟の外を眺めながら休んでいたが、ふと自身の肩に何かが寄りかかるのを感じた。
「っ!」
目線だけを動かして、その正体を探ると、案の定隣に座っていたロロナが、こちらに寄りかかりながら寝息を立てていた。ライトは、寄りかかる彼女を起こそうと、肩に手を伸ばすが、寸前で手を止める。
(……無理もないか、こんなところに一人で四時間も居たんだ、疲れていても無理はない)
こんな誰も居らず、暗い場所に四時間。しかも、もし何かに襲われてやられてしまえば、記憶を失ってしまう。そんな極限状態の中で、知り合いに会えたのだ、安心してしまうのも無理はないだろう。
そう考え、ライトは無理にロロナを起こそうとはせず、そのまま寝かせておくことにした。
(とはいっても……少々気恥ずかしいがな)
ちらりと、自身の肩に寄りかかるロロナに視線を向けると、すぅすぅと寝息を立てながら無防備に眠るロロナの姿が目に入った。それを見て、自身の顔が赤くなるのを感じながら、取り繕うように視線を洞窟の外にへと戻す。
ライトが、そんな悶々とした考えを巡らしながら、二、三十分が立とうかと言ったその時、ガサリと近くの茂みが揺れた。
「ブフォォ……」
森の茂みの奥から出てきたのは、計三体の豚を擬人化したようなモンスターであるオーク達。無骨な棍棒を手にし、低い鳴き声を上げながらこちらを見据える。どうやら、しっかりとマークされたらしく、大人しくやり過ごす。という選択肢は取れそうもない。
「やれやれ」
ライトは、一つため息をつくと、立ち上がりながらゆっくりとロロナの頭を下ろし、変装用に使った帽子を枕代わりに添える。
「ーーリース」
「はいよ、この子を守れば良いんだね」
「すまん、この埋め合わせは後で必ずする」
「別にいいさ、従者の頼みを、ポンと聞いて上げるくらいの器なら私にだってあるよ」
オーク達に向き直りながら、ライトはリースを口寄せする。頼んだのは寝ていて無防備なロロナの護衛。彼女が手に持った杖を振るうと、杖を中心に二人を守るように半球形のバリアが展開させる。
「さて……と、待たせたなオーク共。こっちも早々に済ませたいんでな、手早く行くぞ」
リースがバリアを張ったのを確認すると、並列思考と集中を使った上でライトは分身を発動。計三人となったライト達は、ナイフと小刀を手に一気に駆ける。
(ステップ、ハイステップ、スラント!)
まだ少しばかりはあったオークとの距離を、二つの移動系アーツをチェインすることで、最速で詰める。さらに、発動時の速度が威力に加算されるという性質のスラントを締めに持ってくることで、非力なライトでもオークの皮膚にそれなりの傷を残すことが出来た。
勿論、オークもただ黙ってやられる訳ではない。しかし、鈍重な動きから高威力の打撃を放つオークでは、AGI重視のライトは捉えられない。
「ブギィィィィィィ!!」
全く攻撃の当たらないライトに腹を立てたのか、オークはやたら滅多に手にした棍棒を振り回す。空振りした棍棒が地面にめり込んだ跡から察するに、食らえば軽々とHPゲージをかっさらっていっても可笑しくない一撃。それがまるで空爆のように降り注ぐ、しかし、
「よっと」
それら全てを、棍棒の射程距離内にいながら、集中による先読みと反応だけで回避していく。
さらに、ライトは投げナイフを一本取り出すと、オークの眉間に向けて投げる。しかし、それは刺さりはしたものの、厚い脂肪に阻まれ殆ど聞いている様子は見えない。だが、
「せい、やっ!」
「ブギッ!」
自分に向けて勢いよく降られる棍棒、それに合わせるようにライトはオークの懐に潜り込む。そして、そのままの勢いを利用して背負いでオークを投げる。当然相手に受け身を取らせる気など全く無く、顔から落ちるように投げる。それにより、眉間のナイフが自身の体重と投げの勢いで一気に押し込まれ、オークのHPは完全に潰えた。
「ざっとこんなもんか」
本体であるライトが、背負いでオークの一体を倒していた頃、他の二体も疾脚とナイフによる戦術や、二刀流を使ってそれぞれの戦闘を終わらせていた。
「え?」
そして、その時丁度起きたロロナが、すっとんきょうな声を上げたのは言うまでもない。