第四十四話
時刻は夕暮れ時、少しづつ太陽が沈もうとしていた。ライトは、赤い夕焼けを見ながら、辺りを見渡す。ざっと見たところ他のプレイヤーは見えない。どうやら新しいスキルに夢中になっていたようで、もう他のプレイヤーは全て街に帰ってしまっていた。
「そろそろ帰るか……」
そう小さく呟いて、街に帰ろうと振り返ったその時、ライトの足元からカチリと言う音が鳴った。
「…………不味い」
それは、稀にフィールドで確認する事のできる罠の中でも、ポピュラーかつトップクラスの死因を誇っているもので、ライトが踏みつけた足元からベルのような警告音が鳴り響く。そして、それに引き付けられるように、周辺にいたモンスターは一斉にライトにターゲットを向ける。
そう、この罠は召集音系罠、作動すると周辺のモンスターを呼び寄せるという数々のゲームでもお馴染みの仕掛けである。
周りのモンスター達の地響きのような足音を聞いて、ライトはその場から疾風のように駆け出す。
「クソ……ッ!」
一直線に街に戻ろうと、後ろを振り替えるが、後ろからはモンスターが大群でやって来ていた。流石にそれを正面突破することは難しい。後ろからは大群、そうなれば、ライトの逃げ道はもうさらに奥にへと行くことしか残っていなかった。
幸いにも高いAGIのお陰で追い付かれることは無いものの、振り切るのには時間がかかりそうだ。
「ブモォーーー!!」
「邪魔だ!」
アラームの効果は周りのモンスター全体に及ぶ、大多数は後ろから来ているのものの、前からでもモンスターはやって来る。ライトは、前から突進してくるクレイジーボア二匹を、
(ステップ、ハイステップ、ジャンプ!)
走りがダッシュになった際に覚えた移動アーツ¨ハイステップ¨とジャンプをチェインして飛び越える。さらに、空中でナイフを二本ボア二体の目にへと投げる。勿論倒せはしないが、ある程度の足止めにはなる。
いつ終わりが来るか分からない地獄の鬼ごっこ、もうそれを三十分はたとうとしていたその時、
(しめた、森だ! 森なら少し姿をくらましてから隠身使えば撒けるかもしれない)
フィールドが草原から森にへと変わった。これは今のライトにとってはかなり有利に働く。現状少しづつとはいえモンスターの大群との距離は広がっていっている。ならば、一度身を隠してから気配を消すアーツの隠身を使えば、モンスター達の追跡から逃れられるかもしれない。
そんな希望を孕んだ作戦を考え付いたライトは、まずは身を隠す為に、さらに速度を上げる。
「へっ…………?」
一つ誤算が有るとすれば、この森の直線距離は以外と短く、森を抜けると………………大きな崖となっている事だろうか。
思い切り加速していたライトは、当然止まれる筈もなく崖下にへと転落していく。
「ちっ……って、おわっ!」
崖に落ちる最中、ライトは何とか崖にナイフを突き立てて落下速度を抑えようとする。その時に、ふと上を見ると、そこには自身を追ってきていたモンスター達が滝のように落ちていくのが見えた。
これだけの質量に押し潰されれば、確実に死んでしまう。かといって普通に落ちればそれはそれで死んでしまう。この絶望的な状況の中、ライトは
「集中」
空中で集中を発動。今からライトは、人の限界に近いレベルでの集中力を発揮する。
(状況を整理しろ、今何をすれば助かる? 俺ならその答えを出せる筈だ)
極限の集中の中で、引き伸ばされた体感時間を使ってライトは、高速で思考を行う。そして、
「答えは……こいつだ!!」
ライトはそう叫びながら、崖の壁を足で蹴ることで崖から離れる。これにより、ライトはモンスターの下敷きになる軌道からは外れた。しかし、まだ落下の問題は残っている。
「分身」
ライトはそこで分身を出現させると、分身の腕に足を乗せ、一気に分身が本体を打ち上げる。一度では全てのモンスターの群れを越えることはできなかったが、
「もう一丁!」
もう一度先程の手順を繰り返す。ただし、今回はやや崖の方向にへと本体を打ち上げ、見事モンスターの群れを越える。
あわよくば、もとの場所に戻れるかと思ったが、流石にそこまではできず、ライトは落下してしまう。が、崖にナイフを突き立てることで、最終的には死なない程度の速度で降りる事に成功する。
「ふう、死ぬかと思った」
何気にデスゲームになってから一番死にそうになった事を、何とか切り抜けた安堵感からか、かかないはずの額の汗を拭う仕草までしてしまう。
「さてと、これからどうしますかね」
何とか切り抜けたものの、既に時刻は夜。とりあえず安全な場所にでも行きたいと思い、ライトは辺りを崖づたいに散策する。すると、
「洞窟か、もしかしたら何かあるかもな」
崖の横にできた穴が洞窟となっているのを見つける。中々に広く、モンスターの気配は無い。とりあえず休めそうだとライトは中に入る。すると、
「誰!」
洞窟の中から声が聞こえた。その声とほぼ同時に、少しづつその声の主の足音は近づいてくる。しかし、ライトはその場を離れようとはしない。何故なら
「誰……エ? どうしてライトがここに?」
「そりゃこっちのセリフだ、ロロナ」
その声の主は、攻略組の舞踏家として有名で、かつてライトが戦った事もある少女、ロロナのものだったのだから。
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