第四十五話 情報リークの結果
ライトが攻略組に情報を売ってから三日後。
「フォレス!」
「破岩!」
黄色く光を纏った剣の一撃と、岩すら断つような勢いで降り下ろされた刀の一太刀により、黒狼は倒れる。
「ふう、やっと倒せたか」
剣を振るった男。セイクは、消えていく黒狼を見ながらそう呟く。黒狼を倒した余韻に浸るかのように、光の粒子を眺めていると、
「おーい、セイクー。やったな!」
「これで次の街に行けますわね」
「そうね……この調子で次もいこ」
後ろから仲間達の呼ぶ声が聞こえる。ケンは、減ったHPを回復するために、後ろに下がっていたが、今はもう心配は要らないほどに回復していた。
「それじゃあ、次の街に転移するぞ」
自身の呼び掛けに、皆が頷いた事を確認すると、セイクは『カンフ』への転移を始める。一瞬の浮遊感の後、セイク達はヨーロッパ風の街中にへと転移していた。
町中には、まだまだプレイヤーは少ないようだが、それでもある程度の人数は見てとれた。
「おー、ここが第三の街か。やっぱ前の街よりは発展してんだな」
「そうですわね、昔見たフランスの街並みにそっくりですわ」
「……とりあえず素材を換金したい」
シェミルの提案により、まずは黒狼の素材を換金しようと、セイク達は素材を買い取ってくれそうな場所にへと歩を進める。
「ねえ、セイク。こんなに早く第二のボスを倒せたのって……」
「ああ、やっぱりあの情報のおかげだろうな」
その道中。セイクの隣を歩くリンが、そう話しかけてくる。その内容は、この攻略スピードの事である。
今まで通りなら、これだけの人数が第二の街に来るのには、まだ時間がかかっただろう。しかし、今回は攻略組から流された情報により、各人が犠牲無しに対策を立てることができた。
実際、第一のボス攻略の際には、攻略組から何組みかの犠牲が出ている。攻略組ですら、安全な攻略の為の情報収集にそれなりに時間と犠牲がかかるのだ。そのはずが、今回は犠牲無しに直ぐに情報がリークされた。
ボスの見た目に、攻撃パターン、その中でもあの遠吠えについての情報は重宝された。あの、回避や防御が難しい麻痺付きの攻撃は、もし知らなければ盾役が麻痺を起こし、そこから戦線が崩壊してもおかしくはない攻撃である。
それが何の苦労も無しに、その情報を手にいれられたのなら、対処をする事は用意だ。盾役に麻痺回復のアイテムをありったけ持たせたり、回復役に対麻痺の処置を覚えさせたりなどだ。
「? 攻略ギルド……こんなの会ったか?」
先を歩いていたケンが、ふとそんな事を言った。彼の目線の先を見ると、『攻略ギルド』と書かれた看板と盾と剣をあしらった絵が見える。
「冒険者ギルドとは違うみたいだし、何だろうな?」
「入って見れば分かる……」
「そうですわね、まずは入ってみましょう」
少々謎のギルドであったが、五人は顔を見合わせると、とりあえず入ってみよう。と言う結論に落ち着いたようで、セイクが先頭をきってドアを開ける。すると、
「これは……」
「プレイヤーしか居ないな」
そこに広がっていたのは、ケンが漏らしたように、プレイヤーしか居ない光景であった。ここで、一つセイク達は疑問に思った。今までの街中の店と言うものは、全てNPCが管理していた。しかし、この攻略ギルドでは、カウンターにいるらしき人すらも、NPCではなくプレイヤーなのだ。
「攻略ギルドは初めてかい?」
頭に浮かんだ疑問に、セイク達が足を止められていると、一人の男が声を書けてきた。
「あ、はい、俺達さっきこの街に来たばかりで……」
男の問いかけにケンが答えると、男は丁寧にここについて話してくれた。ここは攻略組が新たに作ったギルドであり、第三の街からは金を出せばこのように、ギルドを作る事もできるらしい。
今のところは、生産職の攻略組の為の素材買い取りや、臨時パーティーの依頼等を受けているらしい。
そこまで説明したところで、男は自身のパーティーメンバーに呼ばれどこかに言ってしまった。
「へー、流石第三の街。金がかかるとはいえ、やれることも増えているんだな」
思わずそう漏れたほど、第三の街での自由度は上がっている。自分らのギルドを持てれば、依頼を出すなどして効率的に素材を集めたり、攻略を進めたりとできる事が増えるだろう。
「素材買い取りやってくれるみたいだし、ここでやっていかない? もしかしたら何か作ってくれるかも」
「……賛成」
「異論無しですわ」
素材を買い取ってもらう、という最初の目標が思わぬところで達成できそうになり、セイク達にそれに反対しようという意は無い。
「はぁーあ。もう少しお金出せばNPCを雇えるのにー」
「もう少し我慢しろ。後二、三日もすれば一体ぐらい雇えるだろ」
「そうそう、この素材上げるから元気出してネ、エイミーちゃん」
買い取りカウンターと書かれた場所にへと移動すると、眼鏡の男と元気の良さそうな少女の二人がカウンターに突っ伏す少女と話していた。
「俺はもう行くぞ、もう少し頑張ってな」
「じゃあネー」
二人は間もなく席を外し、セイク達がカウンターの少女の元にへと進む。
「むー、私だってもっといい素材使って生産やりたいのにー」
カウンターの少女は、そう呟きながらむくれていたが、セイク達を見て、
「何? 買い取りの依頼?」
「ええ、黒狼の素材を」
「黒狼!」
最初はめんどくさそうな雰囲気が漂っていたが、セイクがそう言った瞬間。少女、エイミーは身を乗り出す勢いで話す。
「やっったー、久しぶりにボス素材を使えるー。いやー、いい素材は他の人にとられて、最近しょっぱい素材しか使えなかったんだよね」
「あの……買い取りは……」
「はいはい! 黒狼の素材全部とその他でこちらになります!」
先程までの気だるげな動作はどこえやら、エイミーは機敏に見積もりを終えると、Gの入った袋をセイクに手渡し、奥にへと行ってしまった。
「なんていうか……凄かったね」
「そうだな……あの人も、これも」
右手の重さを感じながら、セイク達は誰も居なくなったカウンターでその後ろ姿を眺めるのであった。