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第四十二話 説明

 You winの文字が表示されたウィンドウを閉じると、キアンがライトに詰め寄り、さらに背伸びまでしてライトに顔を近づけてくる。


「ライトさん、最後のは一体なんだったんですか! あんな二人になるスキルやアーツなんて聞いたこと無いですよ!」


 キアンは、驚愕半分好奇心半分といった顔をしており、ライトは頬のあたりを人差し指でかきながら、


(うーむ、分身について教えてもいいものか。別に、ばれたところで他人がそう簡単に真似できる代物ではないと思うんだが)


 そう考えを巡らす。ライトの分身に対する情報は、今のところかなり少ない。それに、分身はライトの主力の一つでもある。が、それは自身操作という能力があってこそである。

 なので、ライトとしては別に広まってしまったところで、恐らく真似をされる危険性は低いと考えていた。

 それならば、目の前のキアンに話しても大した問題はないだろう。


「分かった分かった。教えてやるから一旦離れろ」


「あ、ごめんなさい。つい興奮しちゃって」


 ライトは、キアンに離れるように諭すと、再度喫茶店の中にへと入る。

 カランコロンと、ドアを開いた際に鳴るベルを聞きながら五人はまた先程の席に座る。


「さて、先ずはどこから話そうか」


 やや温くなった烏龍茶に口をつけ、一息いれてからライトはどこから話すのかを悩んだが、


「そうだな。最初に、お前らは今のところどこまで攻略が進んだんだ?」


「えっと、最近第二の町に入ったばかりです」

「はい、ようやくボスゴブリンを倒したところです」

「そのタイミングで、¨もう第二のボスを倒した¨なんて事が言われれば、そりゃ気になって野次馬になるわよ」


 キアン達の攻略状況を聞いて、どこから話すのかの指針を決める。


「なら話は早いな。俺の使ったスキルは、第二の町で就ける中位職のスキルだ。大通りを通れば、そのうちに転職案内みたいな店があるから、それを使うといい」


「中位職……話には聞いていましたが、やはり下位の職よりもかなり強いのですね」


 中位職の説明を受けて、キアン達は納得したような声を上げた。

 だが、ここでミリィが口を挟む。


「あれ? 先程の闘いをみた感じですと、ライトさんの分身は随分と強力なスキルみたいですけど、攻略組や他の人が使っているのを聞いたこと無いですね」

「そうね、私も聞いたこと無いわ」


 それは至極当然の疑問であった。

 攻略組というのは、今や少しづつ大きな組織として勢力を伸ばしている。掲示板でも完全に攻略組ばかりのスレが立っている程だ。

 さらに、生産職のプレイヤーを引き入れたり、ボスを倒すのに不安なプレイヤーに、報酬をもらう代わりにボスを倒す。という事まで行っている。

 それほどまでに攻略に熱心な攻略組が、分身という強力なスキルを放っておくか? それがミリィの疑問の内容であった。

 その質問に、ライトはまた烏龍茶を一口飲み、説明するための良い例えを探す。


「そうだな。まず初めに言っておくが、このスキルは生半可な事じゃただの死にスキルになるぞ」


「え?」


「例えるなら……いきなり視界が二つに増えて闘えるか? という話だな。無理ならこの職に就くのは、止めた方がいい」

「そうだね、自分が二つのゲームを同時にできる。ぐらいの能力が無いなら、止めておいた方が無難かもね」


 分身。このスキルは発動すれば単純に手数を増やせるのもそうだが、使い捨ての斥候(せっこう)としても使える。

 しかし、それでも今まで一つの視界で生活していたものが、二つの視界で戦闘しろなどというのは無茶というものだ。

 そんな事ができるのは、余程の天才か、ライトのように自身操作のような異能を持っていなければ不可能だ。


「そうか……確かに分身ということは色々増える分けか……」


 キアンは、そんな事を呟きながら目の前のライトを見る。今は何かメモをしているようで、下を向いている彼によると、分身をしながら戦闘をこなすのは、常人では無理といった説明を受けた。

 なら、目の前の彼は一体どんな存在なのか。今思い返してみれば、初めて彼に会った時は、このデスゲームの中にも関わらず、涼しい顔をしてソロでの活動に加え、夜にフィールドに出る。と言った常人ならざる行動をしていた。


(ライトさん……あなたは一体何なんですか)


 それを感じたとき、キアンは目の前のライトが自分とは違う¨何か¨なのではないかと考えてしまう。

 それからは、ミリィとティファが色々と質問をしていたが、キアンの頭の中にはライトの事で一杯だった。


「さて、そろそろ俺は店を出るとしよう」


「ありがとうございました、ライトさん」

「色々教えてくれてありがとね。あと、次に会った時は私ともPVPしましょ」


 席を立ち、明らかに自分達が注文した金よりも多く、キアン達の分までの料金をテーブルに置くと、ライトは店をでようとする。


「え? あ、ああ。いいですよライトさん! ここは僕達が出しますから」


「気にするなよ。それに、丁度臨時収入の当てもあるんだ。こんなとこで金を使うくらいなら、自分等の装備にでも当てな」


 そう言い残すと、ライトは喫茶店から出ていってしまう。


(ライトさん、ありがとうございます。次はきっと勝ってみせますよ)


 店の外を歩いていくライトの背中を見ながら、キアンはそう強く誓うのであった。


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