第三十九話 寝具と寝起きの関係は深い
時計の短針と長針が七と十二をちょうど指した時、ライトはゆっくりと体を起こす。奮発し、良い宿をとったおかげで目覚めは良い。首と肩を回して、スッキリと目を覚まさせると
「口寄せ、リース」
ライトは、再使用時間が経過しているのを確認し、口寄せを使う。
一瞬、強い光が起こり、それが収まると、光の中心であった場所にリースが立っていた。
「やあライト、おはよう。一昨日ぶりだね」
「ああ、おはようリース。俺は今から朝食を食べに行くが、一緒に来ないか」
「そうだね、またお金を出してもらうのは気が引けるけど、それでもいいのなら」
「じゃあ決まりだな」
二人は部屋から出ると、この宿屋の一階兼食堂にへと向かう。他の宿よりも少し値が張る分、味は保証する。と、ここの店主が昨夜話していたのを思い出しながら、ライトはリースと向かい合わせに座る。
ライトとリースは、貸し切り状態の食堂で、運ばれたきた食事を食べる。朝食の内容は、バケットに入ったパンがいくつかと野菜のスープにサラダ、ベーコンに卵とこのAWOでは豪華に位置する内容であった。
「それで、今日はどうする気なのさ」
「とりえず、一旦第一の町に戻ろうと考えている。ちょいと騒ぎになってるようでな、見てみたいんだ」
¨じゃ、それに賛成¨と、ジャムを塗ったパンを口に運びながらリースは答える。
二人は、たわいもない話をしながら二十分程の時間をかけて食事をとると、席を立つ。ライトは、席に二人分の料金を置き、先に外にへと出たリースを追う。
「悪いね、出して貰っちゃって」
「女神様に金出してもらうなんて恐れ多いっての、ここは男に奢らせてくれよ、リース」
食堂の外に出ると、周りの景色を見つめながらリースがライトの事を待っていた。ヨーロッパ風の町並みと、青目白髪の少女という光景に、少しだけ見とれてしまっていたのは、ライトだけの秘密である。
ポータルにへと着くまでの間、二人は横並びで色レンガの床を歩く。人の多い町では、横並びで歩くなどはそうそうできないのだが、プレイヤーがライトしかいない今だからこそできた事である。
コツコツと、靴がリズムを刻む音が響く。ただ、昨日とは違って、ライトの足音よりも小さな音も同時にコツコツと響く。
まるで二人だけの演奏会のようにしばらく足音を響かせると、ポータルにへと到着する。
「へー、これがポータルかぁ。どんな感じで移動するのかな」
「そういえば、リースはポータル使ったことが無いのか」
ポータルを使おうと、ライトがメニュー画面を開こうとした時、リースがそんな事を話す。思い返せば、始めてリースを口寄せしたのは第二の町であり、それからは一度町に移動してから呼び出していた。だから、リースはポータルを使った事がなかったのだ。
「ポータルは、近くでメニューを開けば移動の項目が出るんだ。そして、それをタップすれば一瞬で町から町へ移動できる。移動の感じは……そうだな、一瞬浮かび上がったような感じかな」
ライトは、ポータルの使い方を説明しながら、自身のメニュー画面を開いて見せる。そして、リースが使い方を理解したのを確認すると、
「じゃあ、行くか」
「そうだね」
二人同時に第一の町の項目をタップした。