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第三十七話 最速討伐

 朝、窓から差し込む朝日を受けて、ライトは宿屋のベッドから体を起こす。そして、大きく伸びをしてから立ち上がる。


「あー、よく眠れた。こんなスッキリ起きれたのなんて久しぶりだな」


 窓から外を見ながら、ライトの口から自然とそんな言葉が漏れる。

 ここしばらくの間、ライトはまるで死の恐怖から逃れようと、無茶な戦闘を繰り返していたが、昨日リースとの会話で肩の荷が降りた。

 今では、そんな強迫行為に走る気も収まり、久しぶりに熟睡ができたという訳である。


(さて……と、頭痛は無いな、他に不調なところもない)


 ライトは、今まで重く圧迫感のあった頭痛が収まっているのを確認すると、


「行くか」


 装備を整え、宿屋から移動する。

 今回の狩り先は、森の方のフィールド。ただ、何時ものような狩りではない。

 今日のライトは、極力消耗を避けるように進み、基本的にはモンスターをやり過ごす。

 そんな、普段ではとらない戦術を使いながらライトが目指した目的地はというと、


「やっと着いた。……前見たときと変わらないな」


 急に木々が開けた場所に、二本の無骨な石柱が立っていた場所。人の入った形跡はほぼなく、手付かずのままで放置されているそこは、紛れもなくボスフィールドにへと繋がる石柱であった。




 

 石柱を潜った先は、第一のボスと闘ったフィールドと酷似していた。

 円形に開けた森の空間の中心に、一匹の狼が立っている。その黒い体毛は、他の色を感じさせない。

 ボスゴブリンにも負けないほどの体躯を持ち、真っ直ぐにライトの方を向いたそれは、端からみれば黒い塊が赤い瞳でこちらを見ているように見えただろう。


「ウォオーーーン!」


 黒い狼は、大きな遠吠えを一つすると、ライトの方を見据える。その目は、目の前の相手を敵と認識した目であった。

 黒狼。それがこの、第二のボスの名であった。


「分身……さて、どのくらいの者か試させて貰おうか」


 対するライトは、小手調べとして、分身と二人で両手に持てるだけの投げナイフを構えると、一気に投げる。

 数十にも及ぶナイフは、寸分の狂いもなく黒狼に向かうが、それを意にも介さず黒狼はライトに向けて突進してくる。


(中々厄介だな、普通に投てきしたところで効果は薄いな)


 黒狼の突進を横に避けながら、ライトは分析を始める。投げナイフの投てきは、その殆どが黒狼の毛皮に弾かれ落ちてしまった。ライトは、自身のSTRの無さに歯噛みしたが、直ぐに気持ちを切り替え、目の前の相手を倒す手段を考える。


「グルル……ガァ!」


 体当たりでは効果が薄いと感じたのか、黒狼は戦法を体当たりから噛みつきや引っ掻きを中心にライトにへと襲いかかる。

 自身よりも高い位置にある頭部から迫り来る噛みつき、常人なら少しは萎縮してもおかしくはないが、


「硬!」


 ライトは、硬を使って拳を強化すると、黒狼の顎を打ち上げることで無理矢理口を閉じさせて対処する。

 ダメージこそ少ないものの、攻撃を中断させた事が黒狼の感にさわったのか、ライトに向けて更に敵意をむき出しにして襲いかかろうとしたその瞬間。


「ギャウ!!?」


「ふむ、目なら多少は有効みたいだな」


 横から分身の投げたナイフが飛来する。ただ投げられただけなら、黒狼の毛皮はあっさりとはじき返しただろう。

 しかし、今回投げられたナイフは、性格に黒狼の眼球にへと刺さった。それにより、黒狼は怯み隙を晒してしまう。

 もちろん、そんな隙を見逃すライトではない。


「「ステップ、スラント!」」


 二人のライトは、左右からステップを使って接近すると同時にスラントをチェイン。ちょうど黒狼を通り抜けるような斬撃の軌跡を描く。

 そうして、戦闘を自身の有利に進めてきたライト出会ったが、闘いはじめてから結構な時間が経過し、黒狼のHPがあとゲージ一本となった時。


「グルル…………ワォオーーーーーン!!!!」


 黒狼が吼えた。それに呼応するように全身の毛皮が逆立ち、さらに体躯が一回り大きくなる。


「第二ラウンドの開始ってとこかね……面白い。もっと楽しませてくれよ?」


 SPの回復を促すポーションを飲みながら、ライトはそう呟く。そして、飲み終えるとビンを何処かに投げ捨てると同時に、銅のナイフを取り出す。

 二刀流。つい先日ライトが思い付いた新たな戦闘技法。集中(コンストレイション)の出力をもう少し上げながら、ライトは目の前の黒狼を見据える。


 ライトと黒狼が駆け出したのは同時であった。ライトは、黒狼の噛みつきを左右どちらかの武器で受け流し、空いたもう片方の武器で黒狼を切る。

 分身の方は、体術を使い本体のサポートを担当する。時には足を払い、またある時はアーツを使って黒狼をよろめかせる等の援護を行う。

 分身とのコンビネーションにより、黒狼のHPも残り僅かとなり、あと少しで倒せる。そんな考えが頭をよぎった。しかし、


「オォオーーーーーーーン!!!」

「ッ!!」


 黒狼が吠えた。それもただの遠吠えではない、


(しまっ! 麻痺っちまった!)


 ほんの一瞬、ライトの動きが停止させれらる。どうやらあの遠吠えには麻痺効果があるようで、今までどんな攻撃も紙一重で避けるか受け流していたライトの動きが止まってしまう。

 その隙をつくように、黒狼は今までで一番大きく口を開く。

 麻痺は一瞬だったものの、もう避けたり受け流したりするには遅い。黒狼の噛みつきが、ライトを直撃しようとしたその時。


「ガッ!」


 黒狼が硬直した。しかも、ライトに噛みつきは当たっていない。よく見ると、黒狼の口が刀を縦に入れられ閉じられないようにされている。

 そう、ライトは噛みつかれる直前に、小刀を縦にして黒狼の口に突っ込むと、ロングエッジのアーツを発動。それにより、小刀が黒狼の大きな口を閉じさせないようにつっかえ棒の役割を果たしたのだ。


「口、閉じやがれ!!!」


 さらに、黒狼の動きが止まったと思えば、上から分身が蹴りのアーツ、弧脚を使って黒狼の上顎部分を思い切り蹴る。

 それにより、無理矢理に口を閉じさせられれば、


「グ、ギャウ!!」


 当然ロングエッジにより刀身を伸ばされた小刀が、黒狼の口を貫通する。

 上顎から貫通した刃が顔を出し、ふらふらと弱々しい足取りになる黒狼。しかし、まだそのHPはゼロになってはいない。

 足がふらつこうと、満足に口が閉じれなくなろうと、まだ黒狼に闘う意思は残っている。

 黒狼が、もう一度あの遠吠えを繰り出そうと、大きく息を吸った。その瞬間、 


「中々楽しかったぞ。まだまだだけどな」

「!?」


 ライトはナイフを掴む。それは、少し前に分身が黒狼に向かって投げつけたナイフ。

 それは、未だ黒狼の目に刺さったままであり、普通の投てき武器では無いことが分かる。(通常の投てき武器は、投げてからしばらくすると消える)


 そう、これは投げナイフではない、銅のナイフである。だからこそ、あの黒狼の防御を貫き刺さる事が出来たのだ。

 そして、ライトは黒狼の目に刺さったままの銅のナイフを握ると、


「こいつで、終わりだな」


 残る全てのSPを使ってロングエッジを発動。それにより、黒狼は体を一直線に貫通させられて、絶命する。

 

 黒狼が光となって消えた後、その場に残ったのはライトただ一人。これにより、最も早く第二のボスを攻略し、第三の町に足を踏み入れる第一人者となったのは、攻略組の誰でもなく、ソロプレイヤーであるライトとなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライト、第二のボス討伐おめでとー!٩(*'ω'*)۶ しかも攻略組より早くソロでなんて、めちゃくちゃすごい!!トッププレイヤーですね!! 分身との連携もばっちりだし、リースのおかげでいい…
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