第三十六話 神様は知っている
いつものようにソロでの戦闘を続けていたライトであったが、休憩中にふとスキル取得欄を見ると、興味深い項目を見つける。
(即死回避か、中々使えそうなスキルじゃないか? 幸いにもスキル枠はまだ余ってる。……取ってみるかな)
ライトが見つけたスキルは、
【即死回避】
自身のHPがゼロになる攻撃を受けたときに発動、その戦闘中に一度だけHP一で耐えることが出来る。
と書かれた代物であり、その内容に引かれた。
ライトはVITのステータスを殆ど上げていないため、仮に少し強めの攻撃を食らえば、それだけで死にかねない。ただ、このスキルがあれば一度だけとは言え万が一に備えることが出来るだろう。
さらに、レベルアップの恩恵として今のライトは、スキルをセットできる枠が二つほど余っていた。
今のライトのレベルは三十九。AWOでは三十レベルを越えると、次のレベルアップに必要な経験値が、まるで指数関数グラフのように増えていく。
この条件でこの短期間の内にこんなにもレベルを上げられたのは、連日遅くまで狩りを続けていたおかげである。さらに、レベルが上がっていたのでスキル取得に必要なポイントにも余裕がある。
(よし、取ってみるか。とりあえずマイナスにはならないだろう)
少々安易だが、ライトは【即死回避】の項目をタップし、そのスキルを習得する。
「何々、新しいスキルでも取ったの?」
「ああ、ちょっと保険用のスキルを一つ取ったんだ」
スキル習得の演出として、ライトの回りを光が覆ったのを見て、休憩中のリースがそう聞いてくる。
「あ、もうMP回復したよ。次行こうか?」
「そうだな、今度は南の方に進んでみるか」
二人は、そんな会話をしながら森を南へと進む。その道中で二匹のウルフを見つけ、リースは杖を構える。すると、ライトは一度リースを制止すると、
「ここは俺に任せてくれ、少し試したい事がある」
「さっきのスキルかい?」
「半分正解、残りは見れば分かるさ」
「……分かったよ。多分無いだろうけど、危なくなったら言ってよ」
「分かってるって」
そう言って小刀を手にウルフの前にと躍り出る。
ウルフは、いきなり現れた敵に少し怯んだように見えたが、直ぐに二匹同時に襲いかかる。ライトは、右から迫るウルフを小刀で切りつけて牽制する。
そして、左から迫り来るウルフは、¨銅のナイフ¨で切りつけた。
「推測は当たったみたいだな。さて、もう少し実践に付き合ってもらうぞ、犬っころ」
右手と左手に、逆手で握った小刀とナイフを持ってライトは言う。その数分後には、通常よりも圧倒的に早くHPを削り取られたウルフの死体が二匹分転がる事となった。
「へー、二刀流ってやつだね。かなりの殲滅スピードだったんじゃないかな」
「ま、これを刀と呼べるかは疑問だが、二刀流だな。ちょうどスキル枠に空きがあったから試してみたんだ」
今回ライトが空いたスキル枠に入れたのは、即死回避と¨ナイフ¨のスキル。このAWOでは、対応するスキルをセットしなければ、その行動によるダメージは与えられない。
これは、裏を返せば同じようなスキルを二つ持っていれば、その効果が重複しうるという事である。
ライトはこれを利用した。ナイフのスキルをセットすることにより、小刀のスキルとナイフのスキルが重複。よって、片手には小刀を、もう片手にはナイフという二刀流が可能になったのだ。
その日の夜、リースとライトは町で宿をとり部屋で休んでいた。あと数十分でリースの顕現時間は切れる。
それを待とうと、ライトは、ベッドに腰かけるリースを横目に、椅子に座りながら暫しの休息を取っていた。
「ん、そろそろかな」
「もうそんな時間なのか、じゃあ、また二日後にな」
「そうだね。また次に呼ばれるのを楽しみにしてるよ」
リースが、ふと残り時間を伝えると、彼女の体は光となり消えていく。そして、完全に光になったのを確認すると、
「……行くか」
ライトは、身を翻して部屋の外へと出ようとする。目的は、もちろん戦闘である。
酷使された頭に鞭を打ちながら、外へ出ようと、ライトが一歩踏み出した瞬間、
「おわっ!?」
急に背中側の服を捕まれて、引っ張られた。
全く警戒していなかったのもあり、ライトはバランスを崩して後ろに倒れてしまう。
だが、幸いにも後ろにはベッドが有ったため、背中を打ち付けることは回避できた。
そして、この状況を作り出した原因は、
「や、どこ行くんだい」
「リ、リース? 何でまだ居るんだ? ……しかも、この姿勢は一体どういうつもりだ」
後ろからリースに引っ張られた事が原因であった。
しかも、リースはちょうど倒れたライトの頭が自身の膝の上に来るように座っており、俗に言う膝枕の姿勢になっていた。
前にも一度だけ、リースに膝枕をされたことはあったが、前は寝ている時にやられており、意識があるままされた今は、より気恥ずかしさをライトは感じてしまう。
「いや、なんか色々悩んでそうだったからさ。私からのカウンセリング見たいなものさ」
「悩んでる? 俺がか」
膝枕された気恥ずかしさからか、ライトは顔を赤くしながら、そうぶっきらぼうに返す。が、
「そうだよ。どうやら随分抱え込んでたみたいだね」
あっさりとその気持ちは看破された。
「ライト……いや、光一。私が言うのもなんだけど、神と関わったおかげで色々悩んでたみたいだね。でも、君一人で抱え込む必要性は無いんだ、まだ時間はある。だから、もう少しゆっくりでもいいんじゃないかな」
「…………」
リースは、ライトの髪に触れながらそう話す。その言葉を聞いて、ライトは黙って聞いていた。リースも、話し終えると無言になってしまう。
「…………」
「…………」
二人の間にしばらく沈黙の時間が続いていたが、
「リース」
それを破ったのはライトであった。ライトは、膝枕をされた状態で、手だけを伸ばしてリースの頭に触れると、
「ありがとな」
そう、短く返す。すると、今度こそ本当にリースの体が光の粒子となっていき、
「どういたしまして」
そう、最後に一言だけ言ってリースは消えた。