第三十三話 視界不良
ボスゴブリンを倒したセイク達が、自身らのアイテムボックスにドロップアイテムが入ったのを確認をしたその時。ここにきた際にも味わった、一瞬の浮遊感を再度感じたと思えば、あの二本の石柱の前にへと転移させられていた。
「いやったぜ! ボス討伐完了!」
「これで第二の町に行けるわね」
ケンやリン、さらにはシェミルやフェニックスも、ボス討伐の喜びをその場で噛み締めるようにはしゃぐ。
ひとしきり騒いだところで、
「……ん?」
セイクがある違和感に気づく。それは、
「……やばい。皆、早く戻るぞ! 日が暮れちまう!」
その忠告で、ケン達ははっとした表情を浮かべると、すぐに移動の準備を始める。
そう、思ったよりも移動の時間で時間を食ったせいで、もう少しで日が暮れそうという時間になっていたのだ。
セイク達は、HPかMPポーションを取り出して飲み干し、準備を整えるとすぐに移動を開始する。
実はセイク達に夜の戦闘を行えるスキル持ちは、いない。そのため、ここまで急ぐ必要があるのだ。
一直線に森を抜けようと、セイク達は走る。道中に出会うモンスターは、極力無視する方針だが、どうしても逃げられないのなら速攻で倒しにかかる。
ただ、ここまでやっても、
「……やっべぇ、日が落ちちまった」
「これは、少し不味いかもな」
あと少しが遠かった。地図を見る限り、あと四分の一も進めば森を出られるのだが、ここで日が暮れてしまった。
まだ、なんとか敵の姿は見えるが、遠くない内に完全に日が沈んでしまえば、敵の姿はほぼ見えなくなってしまうだろう。
もしセイクやリンだけなら、日が落ちる前に町へ戻ることができただろう。しかし、それは二人が近接職かつAGIにもステータスをある程度は割り振っているからこそである。
他の三人、特にシェミルとフェニックスの二人は、INTとMPに大きくリソースを割いている為にAGIが低い。
そのため、このような状況になってしまっていると言ってもいいだろう。
そして、さらに悪いことは続く。
「ちくしょう! こんな時にワラワラと出てきやがって!」
「さっさと片付けるぞ! サークルスイング!」
ここでモンスターとの連続エンカウントが起こってしまう。しかも夕方以降から出てくるバットバットというコウモリ型のモンスターが。
このモンスターは、HPや防御力は大したことないものの序盤のモンスターにしては素早い。つまり、シェミルとフェニックスは逃げ切れない。だからこの時間の無いときでも闘わなくてはいけないのだ。
セイク達はSP、MPを気にせず速度重視でモンスターの群れを片付けるが、それでも
「最悪ね……完全に日が暮ちゃった」
「あと少しで町なのだから急ぎましょう。運が良ければ敵と会わずに済むかもしれませんわ」
間に合わなかった。日は完全に落ち、辺りを闇が支配する時間となる。こうなってしまえば、暗視のスキルが無ければほとんど敵を視認する事ができなくなってしまう。
そして、そんな状況に陥ったセイク達に最大の窮地が襲う。
「キィキィギィ!」
「な、なんだ!?」
突如、金切り声と共にケンが襲われ倒される。幸いにもケンはVITに多くステータスを割り振っている為に、致命的なダメージは受けていないが、問題は
「て、敵が……見えない」
この暗闇のせいで敵が全く補足できないという点だ。
さらに、
「おい、セイク! こいつなんか今までのバットとは違うぞ!」
「ああ……そうみたいだな」
この襲ってきたモンスター、それが今までの敵とは明らかに違うという事がさらにセイク達の状況を悪くする。
バットバットよりも速く、強い攻撃。鳴き声からバットバットに近いとは思えるが、明らかに違う相手。
そんな相手に視界不良のなか闘わなくてはならない、そんな状況にセイクは冷や汗が出るような感覚に見舞われる。
『こっちに来やがれ! コウモリ野郎!』
最初に動いたのはケンだった。残り少いSPを振り絞って、タウントを使い自身への注目を集める。当然、モンスターはケンにへと向かう。防御もろくに出来ずに、ケンは攻撃を受ける事になってしまう。
ただ、これでシェミルやフェニックスの魔法職二人が、無抵抗で攻撃を受けるという最悪のシナリオは回避された。
(どうする……視界が悪くて補足は出来ない。かといって逃げることも出来ない……)
セイクがこの窮地に頭を悩ませていると、隣にいたリンが突如ケンの近くに歩み寄ると、目をつぶって剣を構える。
そして、
「セイ!」
掛け声と共に、剣を振るう。すると、その斬撃は見事モンスターに当たる。倒しきるまでとはいかないが、それでも攻撃を当てられた。その事実が今の状況では重要であった。
「セイク、目が駄目なら耳を済ますのよ。相手はコウモリ、そっと耳を済ませば相手の位置は、十分分かるわ」
「! なるほど、さすがリンだな。これで希望が見えてきたぞ」
リンがやった事は単純である。耳を済まして音を便りに攻撃しただけ。常人なら難しい事だが、幼い頃から武術を学んできたリンなら不可能ではない。
さらに、その幼馴染みとして付き合いとはいえ武術を習ってきたセイクも、ケンが敵の注意を引き付けていてくれている今なら、十分に攻撃を当てられる。
攻撃の目処がたち、これならいける。そうセイク達が思ったその時。
「キィーーーーーー!!!!」
「ッ! 耳が……」
「不味い! 耳を封じてきやがった」
敵が一際大きな声を上げる。その、鳴き声は凄まじく、耳を押さえたのにも関わらず、耳鳴りを引き起こして回りの音が聞こえなくなってしまう程だ。
つまり、セイク達はまた攻撃の手段を見失ってしまったという訳だ。
見れば、ケンのHPは既に黄色の域まで減り、そろそろ死が見えてくる程にまで減ってしまっている。
一瞬、不吉な事がセイクの頭をよぎった。その瞬間。
『…………フレイムピラー!』
フェニックスが、残りのMP的に最後となる魔法を打つ。しかし、燃え盛る火の柱はモンスターとは検討違いの方向へと放たれてしまう。この暗闇のなかでは仕方がないことだが、なぜこんな事をしたのか、そんな考えがセイクやリンの頭に浮かんだが。
(ナイスタイミングね、フェニックス)
『………ウインドスレイス!』
シェミルは、フェニックスの意図を分かっていた。シェミルはあのつむじ風の刃を生み出す魔法を使う。
その魔法は、¨フレイムピラーによって辺りが照らされた¨お陰でしっかりとモンスターに命中する。
コウモリ等の空を飛ぶ生き物というものは、風の影響を受けるものが多い。それが前から吹き付ける強風程度なら、大きな問題はないだろう。しかし、いきなり強烈なつむじ風に巻き込まれたらどうだ?
「ギャギャギャギャギャ!?」
コウモリ型のモンスターは、まるで洗濯機にでも放り込まれたようにもみくちゃにされ、地面にへと落下していく。そして、当然そこには、セイク、ケン、リンの三人が待ち受け。
「パワースイング!」
「フォルク!」
「斬鉄!」
三人のうっぷんを晴らすような強烈な一撃を食らい、黒く巨大なコウモリは、HPをゼロにし消えた。
この戦闘を最後に、セイク達は町へ無事に帰還する。
そして、セイクのアイテムボックスには¨ナイトメア¨の名を持つ素材と¨夜の結晶¨が追加されているのであった。
ちなみに、もし視界良好ならセイク達は黒いコウモリ型のモンスター(名前はナイトメアバット)にここまで苦戦しません。
今のライトが闘うと、長期戦の後ほぼ無傷で勝ちます。