第三十三話 もう一つの視点
ライトが、ボスゴブリンを最初に討伐した少し後の頃。
「おりゃ!」
ケンが、手に持った大斧で三匹のゴブリンからの攻撃を防ぐ。そして、ケンが足止めをしている隙に、リンとセイクの二人が後ろから剣を振るう。
それであっさりと一匹のHPは尽きる。さらに、
『…………ファイヤーボール!』
『…………ウォーターボール!』
フェニックスとシェミルの二人が、魔法を使って残りの二匹へ攻撃を加える。
ケンが敵の注意を引き、セイクとリンが近接でシェミルとフェニックスが魔法による遠距離攻撃で闘う。この戦法で、セイク達は安定した戦闘を行っていた。
計五匹のゴブリンとの戦闘をほぼ無傷で終えたセイク達は、第一のフィールドの奥に来ていた。
そこには、重々しい雰囲気を醸し出す二本の石柱があった。そう、セイク達は今回ボス討伐へと乗り込むのである。
「いよいよだな。皆、準備はいいか」
石柱前で、そうセイクがパーティメンバーに声をかけると、
「ああ、準備万端だぜ」
「こっちも大丈夫よ」
ケンとリンの二人は、HPポーションを飲み干しながら答える。
「ええ、大丈夫ですわよ」
「……大丈夫」
シェミルとフェニックスの二人も、休むことでMPを全快させてからそう答える。
「よし……いくぞ!」
セイクが戦闘となり、五人は石柱の間を通り抜ける。一瞬の浮遊感を感じたのもつかの間、次の瞬間には先程までとは違う場所にへと転移させられる。
円形に開いた森の中、その中心に
「ギャギャギャギャ!」
自身の身の丈ほどはあろうかという巨大な棍棒を構えるモンスター、ボスゴブリンが立っていた。さらに、その傍らには三体のゴブリンが取り巻きとして立っている。
「タウント!」
「こっちだ、デカブツ!」
ケンは、挑発のアーツである『タウント』を発動し、ボスと取り巻きの注目を自身に向けさせる。さらに、セイクもその隣に剣を構えて陣取る。
今回は、ケンとセイクがその高いHPとVITを生かしてモンスターのターゲットを取り、リンがその隙に近接戦闘で相手のHPを削る。そして、三人でシェミルとフェニックスの詠唱時間を稼ぎつつ削っていく。それが作戦であった。
『オラァッ! どうした、こっち見やがれ!』
ケンが一際大きな声を上げて、切れかけていたタウントをかけ直す。取り巻きはその声に反応するように、ケンの方にへと一斉に向かっていく。
すると、そこに割り込むようにセイクが入り、
「サークルスイング!」
長剣のアーツである『サークルスイング』を発動。円の軌跡を描いた剣に、一気に三体のゴブリンが光の粒子となって消える。
「ギィーー!!!!」
不快になるような高い鳴き声と共に、ボスゴブリンがケンとセイクに向けて突進する。
ケンの挑発アーツに加え、セイクの三体同時討伐で一気にボスゴブリンからのヘイトが貯まってしまったようである。
巨大な棍棒を構えて、猛然と突進するボスゴブリン。セイクへとその棍棒を上段に構え、降り下ろそうとする。が、
「隙だらけよ、『斬鉄』」
後ろからリンが剣のアーツ『斬鉄』を使って、無防備な背中に強烈な一太刀を加える。
ボスゴブリンは、棍棒を振り回してリンを追い払おうとしたが、既にリンは一太刀浴びせた後は、遠くに離れたいた。
「任せたわよ、二人とも!」
その呼び掛けに呼応するように、シェミルとフェニックスの二人は杖の先をボスゴブリンにへと向ける。そして、
『風の刃よ、つむじとなりて敵を裂け! ウインドスレイス!』
その詠唱と共に、シェミルの杖の先が緑に光ったと思えば、ボスゴブリンの足元からつむじ風が起こる。ただ、それはただのつむじ風ではなく、風の刃によって作られたつむじ風であり、ボスゴブリンは風の刃によって大量の傷を付けられる。
やっとのことで、風の刃の猛攻に耐えたボスゴブリンであったが、セイク達パーティの魔法使いは一人ではない。
『燃え盛りし炎よ、炎柱に形を変えて敵を焼き尽くせ! フレイムピラー!』
一瞬、ちらりと火の粉が舞ったと思えば、次の瞬間にはボスゴブリンを貫くように炎柱が立つ。
ボスゴブリンのHPは一気に削れ、見た目は黒焦げと酷い有り様であった。
しかし、
「ギィ、ガァーーーー!!!!!」
まだギリギリのところで死んではいなかった。与えられたダメージ量から、一番の攻撃対象をフェニックスにへと移したボスゴブリンは、彼女にへと向かって突撃する。
フェニックスは、魔法職である。同じくシェミルもそうだが、こんな二人がボスからの一撃をまともに食らえば、一撃で倒されてもおかしくはない。
ただ、
「シェミル達に、手ェ出すな!」
それを許すセイクではない。
セイクは、ボスゴブリンの後ろに追い付くと、上段に構える剣が目映く光り、
「フォルク!!」
一気にそれをふりおろす。光を伴う軌跡を描いた剣にボスゴブリンは両断されて、今度こそ完全に倒される。
これにて、十五分ほど続いたセイク達初のボス戦は戦いは幕を閉じた。