第三十話 ボスゴブリン再び
謎のコボルトとの一戦を終えたその後は、特に何か特別なことがおこる事もなく、一週間が経過しようとしていた頃。
「メッセージ? 誰からだ?」
ライトが朝起きると、メッセージが発信されていた事に気づく。どうやら昨日の深夜に発信されていたらしく、差出人は、ここしばらく会っていなかった男、
「ジェインからか、飲みの誘いかなんかか? ……何々、第一のボス討伐を手伝ってくれ。と」
ジェインからのメッセージであった。内容は、ボス討伐の手伝い要請。
ライトとしても特に断る理由は無かったので、了承のメッセージを手短に送ると、ポータルへと向かうのであった。
「おーい、大将。悪かったないきなり呼び出して。最近、あの酒場に姿を見せないから、呼び出させてもらったぜ」
「別に構わないさ、こっちも暇だったし」
待ち合わせ場所は、第一の町の広場。ライトがポータルを使って第一の町に行くと、既にジェインは来ていたようで、ポータル前で立っていた。
「今回はどうしたんだ? いきなりボス討伐を手伝ってくれなんて」
「いや、俺はソロだからさ。安全策をとりたくて……」
町を出て、ボスの場所に行くまでの道すがにそんな会話が始まる。
二人のレベルは、ライトが三十二、ジェインは二十二と十もの開きがある。しかし、第一のボスの適性レベルは二十である。だから、ジェインはソロ討伐が出来てもおかしくはないのだが、この死ぬと記憶がドロップしてしまうという状況では、もう少し高いレベルでなくては安心できないという風潮が広まっていた。
その為、ジェインはライトに助っ人を頼んだのだ。ジェインはソロプレイヤーであり、職業は盗賊とライトとの接点が多く、仲が良い。
「……それに、もし俺がやられても、大将ならボスを倒せるだろ。だから大将を頼ったんだ」
「それだけ信用されちゃあ裏切れないな。安心しな、お前が倒れてもソロで討伐しといてやるよ」
それに、ソロで第一のボスを倒せる実力があるなら、助っ人としては申し分ない。
「さ、着いたぞ。なんか用意があるなら今のうちにしとけよ」
「おう、大丈夫だ。準備万端だぜ」
そんな会話をしている内に、もう懐かしい雰囲気すら感じる二本の石柱がある場所へとたどり着く。
ライトは、ジェインに最後の確認をとると二人同時に石柱の間を潜る。
その瞬間、木々が生い茂りながらも明るかった森から、薄暗く、開けた森のフィールドへと二人は転移させられる。
「分身……さて、作戦は道中話した通りだ」
「オッケー! いくぜ大将!」
ライトは、分身を発動すると並列思考を使って、分身をボスゴブリンへと突撃させる。
今回の作戦は単純だ、ライトの分身がボスを引き付けて、その間に攻撃を仕掛けるといったものだ。
二人は、隠身を使いボスの後ろからこっそりと近づく。ボスは正面の分身にかかりきりで、全く気づく様子はない。
「せいッ!」
「オラァ!」
ライトはステップからのスラントのコンボを、ジェインはステップからツイストという、突き刺しのアーツを繰り出す。
当然ボスは、後ろの二人を何とかしようと棍棒を振るったが、ライトが投げナイフを目に投てきしたせいで怯んでしまう。
その隙に二人は後ろに下がり、さらに分身は無防備に背中を晒すボスに連撃を浴びせる。ただ、
「うーむ、少し火力不足か?」
「そりゃ、短剣と小刀じゃ火力は悩ましいだろ。それとも、大将は火力不足を解消する策でもあるのか?」
やはり火力不足は感じる。二人の武器は、近接職でも特に火力のない職であり、火力がなければ当然討伐に必要な時間も伸びる。
そうなれば、無限に近しい集中力をもつライトはともかく、ジェインは集中を切らすことも在るだろう。それを解決するには、火力を用意すれば良いのだが、ライトが高い火力を出す手段はない。
「俺には高火力は出せん……が、火力を出せる奴を呼び出す事なら出来るぞ」
「? どういう事だ、大将?」
「こういう事だ、口寄せ『リース』!」
ライトがそう言いながら、地面に手を置くと一瞬の強い光と共に、杖を持った少女リースが現れる。
「早速だが、火力は任せたぞ。リース」
「いきなりだね、でも魔法ならお任せあれ。」
『炎よ刃となりて敵を裂け、フレイムサイス!』
リースは、呼び出されたと同時に魔法を行使する。そして、詠唱が終わると杖の先から出た炎の刃は、ボスゴブリンへ向かい飛び直撃する。
その威力は、ライト達の攻撃よりも余程強く、火力面での心配は減ったことを意味していた。
「おい、大将! なんだこの女、聞いてないぞ!」
「話は後だ! まずはさっさとこいつを倒すぞ!」
「了解!」
新たにリースを加えて、三人はボスへと向かう。そのHPゲージの減る速度は、最初よりも上がり、もう二人の勝利は動くことはなかった。
すみません、今週は忙しくて更新が遅くなります。