第三話 動き出す物語
次に光一が気がついた時には、辺り一面真っ白な空間に立っており、服装も粗めの布の上下になっていた。光一が辺りを見回そうと、その場でぐるりと一回転をすると、
『こんばんわ。AWOの世界へようこそ、光一様』
いつの間にか、元の場所に女性型NPCのが立っていた。このNPCは、最初の設定をサポートするであり、
『それでは、最初の職業をお一つ。それと、スキル五つを設定して下さいませ』
そんな定型文と共に、光一の目の前にディスプレイが出現する。ディスプレイの上部には、各種職業の文字。その下には、多数のスキルが一覧となって書かれている。
光一は、先程AWOについて調べたついでに決めていた職業と、スキルを五つ設定する。
『はい、設定完了しました。次はステータスの割り振りです。初期値にプラスして、十ポイント分、自由にステータスを上げられます』
無機質な声での説明を受けて、光一は事前に考えていた通りにステータスを割り振る。上げられるステータスは、STR(筋力)、INT(知力)、DEX(器用)、VIT(耐久)、AGI(敏捷)の五つ。その内二つを光一は上げる。
『それでは、最後に貴方のユーザーネームを決めて下さい』
ここで光一の手が止まった、ユーザーネームを事前に決めるのをすっかり忘れていたのだ。
(名前か、適当に英語にでもしておけばいいだろ)
そんな簡単な理由から、光一はディスプレイに『ライト』と入力し、終了のボタンをタッチする。
『これにて初期設定は完了しました。では、AWOの世界へどうぞ』
ガイドのNPCがそう言うと、次の瞬間には光一は移動していた。
周りを見渡すと、少し古いヨーロッパの町並みのような光景が広がっていた。光一は、しばしそのあまりにリアルな光景に、言葉も出ずにボーッとしてしまう。
(おっと、呆けてる場合じゃないな。初期装備は……よし、あるな)
光一は気を取り直すと、事前に説明書に書いてあった通りに指を自身の視界左端にある小さなマークに合わせる。すると、空中に画面が浮かび上がり、そこに自身のステータスが表示される。
『 Name ライト
Job 盗賊 Weapon ウッドナイフ
STR 10
AGI 18
VIT 10
DEX 12
INT 10 』
これが今の光一のステータスである。戦法は、高いAGIを生かしての高速戦闘。最悪逃げてでも生存率を上げる、というステータスになっている。
光一は、腰に装備されたウッドナイフの感触を確かめながら、腕試しとばかりに町の外へ歩を進める。東側の門から出た町の外は辺り一面の草原で、遠目には敵モンスターの姿も見える。
(まずは、アーツとやらを試してみるか)
「隠身」
そう光一が呟くと、光一の体は周りの保護色のように変化していく。これはアーツと呼ばれ、プレイヤーがAWOで能動的に使える特殊な技能である。アーツは大きく分けて二種あり、剣のスキルを持っていると発動できるスラッシュのような、スキルに依存するアーツ。もう一つは光一の職業、盗賊を持っていると発動できる隠身のような、職業に依存するアーツ。
この二つを組み合わせながら闘うのが、このAWOの醍醐味の一つでもある。
光一は隠身を使い小鬼のような外見の敵、ゴブリンへ後ろから近づくと、その首もとにウッドナイフを突き立てる。
「グギャ!」
ゴブリンはそんな悲鳴を上げながら、光一を敵と認識する。ゴブリンは、拳を振りかぶり光一へ攻撃しようとしたが、
「遅い」
光一はその攻撃をあっさりと避け、ゴブリンの横をすり抜け様にもう一撃を加える。それでゴブリンは瀕死らしく、既にフラフラと足元はおぼつかない。光一は最後にもう一撃を加えると、ゴブリンは光の粒子となって消える。
視界の上部に、小さく『経験値 五を得ました』の文字に加えて、少量のゲーム内通貨であるGを得たことがメッセージとして流れる。
光一が、AWO初戦闘を勝利で飾ったその時。
「!?」
突如、浮遊感を感じたと思うと、光一は最初にログインした町の広場へ転移させられていた。周りを見ると、光一と同じようにいきなり転移させられたらしく、困惑した表情の人々がいた。
『やあ、君達。集まって貰って悪いね。ちょっと重要なお知らせがあってね』
皆が広場から離れようとした時、突如空中に黒いローブで全身を覆った人物が現れる。
人々が口々に呟く、¨お前が集めたんだろ¨の声を無視してその謎の人物は口を開く。その口から出た言葉は、
『このゲームは、ただ今から脱出不可能になりました』
人々が文句を言っていた口を、一瞬にして閉じさせる。いや、塞がらなくさせるには充分であった。