第二十七話 悪夢
ライトとリースの二人が食事を終えて、一度酒場の外へ出たその時、リースの体が段々と透けていってしまう。
「おっと、そろそろ時間かな。しばらくはこっちに来られなくなっちゃうけど、頑張ってね」
「ああ、また呼び出せるように成ったら直ぐに呼び出すよ」
¨それじゃあね¨と小さく言ったのを最後にリースの姿は消える。
リースは、元々忍者の固有スキルである口寄せに介入してこちらの世界に来ている。つまり、根幹はあくまで口寄せのスキルなのだ。基本的に召喚系統のスキルやアーツには時間制限と再使用までの空き時間がある。
なので、時間制限が来てしまったリースは一度口寄せを解除しなければならず、さらには、再使用までの時間を待たなければ呼び出すことができない。
再度呼び出す為には、いまのところほぼ一日の空き時間がある。レベルが上がればその時間は短縮されるかもしれないが、現状待つしか道はない。
夜、食事も終わり一人となったライトは、
「やることないし……とっとと寝るか」
明日に備えて足早に宿屋へと向かうのであった。適当に近場の宿屋を選ぶと、料金を払ってから部屋に入りベットに横になる。第一の町よりは、いくばくか柔らかいベットの感触を感じながらライトは目を閉じ意識を闇に落とす。
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辺り一面が木々に覆われた森、見通しは悪く方向感覚が薄れてしまうような風景。
そんな中をライトは歩いていた、いつから歩いていたかは分からず、何のために歩いていたかも分からない。
「ッ!!!」
瞬間。ライトを刺すような頭痛が襲う。思わず手で顔を覆いその場でうずくまってしまう。動きたくないほどの激痛だったが、
「誰だ!」
後ろに謎の気配を感じ腰の小刀を抜いて切りかかる。
しかし、後ろにいた黒いローブを着た男にそれは通じず、幻影のように通り過ぎるのみ。
「だ、誰だ!」
「誰だって? 君もよく知ってるだろ、僕だよ僕。神様の一人さ」
黒いローブに嫌でも記憶に焼き付いた声。そこにいたのは、この事態を引き起こした存在である悪神の仲間が立っていた。
「残念ながら、もう時間切れ (タイムリミット)さ。中々頑張ったみたいだけどね」
辺りを見渡すと、いつの間にか森から水平線まで何もない辺り一面が黒い空間に変わっていた。
そこにいるのは、ライトと悪神の仲間のみ。彼はライトに向けて手を伸ばすと、
「ーーーーそんな君には、努力賞として安かな死を送ろう」
そう言って、ゆっくりとライトの顔へと触れる。
凄まじい圧力と、果てしない黒い何かを感じーーーーーーーーーーーー
「…………ハッ!」
そこでライトは目を覚ました。
「夢か……クソッ、目覚めの悪い……」
悪夢を見たことによる目覚めの悪さと、汗をかき服が肌に張り付いたような不快感が同時にライトを襲う。
(死……か。一度死んだとはいえ慣れそうもないな)
あんな悪夢を見た原因は、恐らく『死』を意識したせいだろう。確かにライトは、いや、光一は一度死んだことがある。一度死にながら、リースのおかげで生き返り、こうして神の従者としての力も手にいれた。
それでも、やはり『死』というものは慣れることは無い。もしかしたら何十何百と繰り返せば慣れるのかもしれないが、そんな事は想像もできない。
まだまだ時間はある。焦って死んだらもともこもない。そう自身に言い聞かせることで、ライトは荒い呼吸を静める。そして、
「あー、なんかムカムカしてきた。……ちと気分転換でもするか」
未だぐるぐると心に渦巻く、重い気持ちを晴らす為に気分転換と称して、武器をメニューから実体化させると装備し、町の外へと赴くのであった。
第二の町での夜のフィールドは静かだった。暗視スキルのおかげで視界には苦労しないが、それ以上に不気味なほど静かなフィールドであった。
それもその筈。第一の町ならともかく、まだこちらの町に来ているプレイヤー数は少なく、その中で暗視持ちとなるとさらに少ない。もっと言うなら、このデスゲームとなった状況で夜のフィールドに出ること事態が少数派なのだ。
それらの要因が重なり、現状このフィールドにいるプレイヤーはライト一人であった。
ライトは林道の方を選択すると、ゆっくりと中へ入る。分身も出し、視界を増やすことで昼よりも警戒は強める。
そのおかげもあってか、それからしばらく狩りを続けていたが、ライトの体に傷は見えない。
(やはり、夜と昼じゃモンスターの種類も少し違うな)
そう考えながら、ライトはまた現れた狼型のモンスター『ナイトウルフ』を二人がかりで倒す。夜だけあって、多少は耐久力が高いモンスターであったが、攻撃を全て避けるか受けられてしまえばモンスターに勝ち目はないだろう。
そろそろ帰ろうか。そう思って、道を引き返そうとしたその時。
「グルルルルルルル」
ライトの目の前に現れたのは、昼間にも出てきたコボルト。それはいきなり手に持った剣を振るうが、ライトはなんなく木の上に避ける。
「なんだコイツ? デカイ……それに色が違うな」
木の上からコボルトの全容を見たライトが思った感想は、それだった。そのコボルトは、通常の物よりも体調は二倍近く大きく、さらには茶色かった毛並みは黒く染まっていた。
夜にも何匹かのコボルトを倒しはしたが、こんな色や体躯はしていなかった。詳しいことはよく分からなかったが、確かなことが一つ。
「コイツは……中々強そうだ。丁度いい。雑魚ばかりで退屈だったんでな、少しは楽しませてくれよ!」
この夜のフィールドで、ボスを除けば一番強いモンスターはコイツだということだ。それをライトは感じていた。
だからこそ、楽しそうな笑みを浮かべて、木からそのコボルト目掛けて飛び降りたのであった。