第二十四話 二人での戦闘
「この町から行けるフィールドは、林道からの森と山道の二通りがあるが、リースはどっちがいい?」
「うーん、理由は無いけどその二つなら森かな」
「じゃあそうするとしよう」
町の門をくぐったリースとライトは、そう言って行き先を決めると、林道の方へ歩いていく。
日が木々によって遮られ、やや薄暗い林道を二人が歩いていると、急にライトが手でリースに止まるよう指示する。
「……敵だ、俺が引き付けるから合図したら攻撃を頼む」
「OK、ライト。頼んだよ」
二人の数メートルほど先に居たのは、手に短い剣を持ったコボルトが一体。どうやらまだこちらの事を見つけていないようで、ある程度歩いては辺りを見回すという行動を繰り返している。
(分身、隠身)
ライトは分身を使い二人に別れてから、隠身を使い自身を見つかりづらくすると、片方がコボルトに気づかれないよう近づく。そして、
(スラッシュ)
初級のアーツであるスラッシュを発動。これでコボルトもライトの存在に気づき、手にした剣をライトに向けて振り回す。
それをライトは後ろに下がってよける。すると、その攻撃後の隙を付くように、
「スラッシュ」
「ギィ!」
もう一人のライトが後ろから無防備な背中にスラッシュを叩き込む。コボルトは前と後ろからの敵に対して、剣をやたらめったに振り回すことで対処しようとしたが、
「今だ」
その言葉と共にライトが右手を上げると、飛んできた火球にコボルトは包まれて光の粒子となって消えていった。
経験値や金のドロップメッセージが標示される中、二人のライトの方に後方に居たリースが歩いてくる。
「タイミングばっちりだったな」
「まあ、ライトが引き付けていてくれたからね。こっちも時間かけて用意ができたし」
こうして、ライトが敵を引き付けて、リースが魔法で止めを指すといった戦法で、二人はどんどん森の奥へと進んでいく。
その戦闘も、リースという仲間が加わったおかげで色々と試せることが増えた。例えば、
「ふむ、結構ダメージを減らせるものなんだな。こいつは買って良かったな。おーい、リース。回復頼む」
「りょーかい。それにしても、防具の調子を確かめるためだけにわざと攻撃を受けるとはね」
「そりゃあ、どれくらい軽減できるのか知りたいじゃないか。それに、ここらのモンスターの攻撃ならまず当たらんからな、安心して調べられる」
コボルトの斬撃を、ライトはわざと腕で受ける。が、ライトの防御力の割りにHPは減っていない。それは、ここに来る前に新しく購入した籠手のおかげである。そして、攻撃を受けたことで減らせれたHPは、リースが回復魔法を使うことで回復させる。
現状ライトはHPポーションを殆ど持っていない。保険として店売りのポーションを二本と、初期装備分が二本有るだけである。(初期装備のポーションは三本あるが、ライトはその内の一本をキアンへと使っている)
そのため、このようなHPを削るようなことは積極的にやろうとはしなかったし、そこまで必要性がないと判断していた。しかし、リースが回復魔法を使用できると分かった今、こうしてそこまで必要性が高くは無かった寄り道もできるようになった。
こういった寄り道もしながら進んでいると、リースのMPが枯渇する。ライトは、回りを見渡して見える範囲にモンスターがいないことを確認すると、
「少し休憩するか。時間に余裕はある」
「そうしてくれるとありがたいね。MPが無いと私はお荷物になっちゃうし」
そう言って二人はその場に腰を下ろして休憩する。AWOでは、腰を下ろして休憩すると、ただ立っているよりもMPの自然回復速度が上がるという仕様になっている。(ちなみに、睡眠は休憩より早く回復する)
そのペースなら、リースのMPは一時間弱で全快するので、二人は今までは緊張をほぐすように休憩を始める。
「ねぇ、ライト。今晩の夕食はどうするんだい?」
「この前いい食堂を見つけてな。美味い鶏肉と茶をだす店だ」
「おおっ、それは期待しておこうかな」
そんなたわいもない話をして、三十分が経過したころだろうか。ライトの耳がふと何かの足音を捉える。リースに警戒するよう言うと、ライトは小刀を抜いて戦闘体勢をとる。
ガザガサと林が揺れる音と、枝を踏み折る音がだんだんと近づいていき。
「あ? 何だ……プレイヤーか」
「珍しいねー、俺たち以外のプレイヤーなんて」
「仕方がないだろ、攻略組ぐらいしかまだこっちにはこれてないんだから」
「そーそー」
現れたのは四人の男達。装備はよいものを着けているのがはたから見ただけで分かる。そう、これがいわゆる攻略組と言われているプレイヤー達である。
その四人がライトの前に現れてから、少しだけ遅れてもう一人が林から姿を現す。
「もう、ボクを置いてかないでよー。ちょっと採取してただけで置いてくなんて酷いんじゃないカナ」
その、武器らしい武器を持たない少女。彼女は仲間達にそう言うと、ふとライトの方を見る。
「あ」
「あ、ライトじゃないカナ。久しぶりー」
久しぶりと言ってライトにその少女は手を振る。
そう、前にライトが酒に酔って吹っ掛けたPVPで倒した少女、ロロナがそこにいた。
この前の日曜に日刊VRランキングに載りました
これも皆さんがこの作品を読んでくだっているおかげです
これからも頑張りますので、どうかよろしくお願いします