第二十三話 始めての装備新調はだれでもテンションが上がる
宿屋から一番近い食堂へやって来たライトとリースは、テーブル席に向かい合わせで座る。回りを見ると客はあまり居ないが、ライト達にとっては好都合だ。
二人は朝食を店員の一人に頼むと、会話を始める。
「さて、まずは何から話すべきか」
「とりあえず今日の予定でいいんじゃないかな。光一……おっと、ここではライトだったね」
リースは、ついいつもの調子でライトの本名を話してしまい、それを訂正しながら話を進める。
「私としては、特に行きたいところとかは、今のところ無いんだよね。何か面白そうな事があればそこに行ってもいいんだけど」
「そう言われると、俺も中々返答に困るな。俺も今日は特別な用事はないしな」
これからの予定をどうするかを話すために来たのだが、二人の話はいきなり止まってしまう。ライトとしては、リースの希望を聞こうかと思っていたので、何もないと言われてしまえば予定は無くなってしまう。
ライトがこれからの予定を考え、リースが回りの様子を興味深そうに眺めていると、先程の店員が二人の注文の品を運んでくる。ライトは彼女に代金を渡すと、料理を受けとってリースと自身の前に置く。
ライトは、ハムと野菜と玉子がそれぞれ入ったサンドイッチと烏龍茶を。リースはライトのよりも野菜と玉子の比率が高いサンドイッチとアイスティーを。
ライトは、片手でサンドイッチをつまみながらこれからの事を考えていた。そして、
「とりあえず、これ食べたら装備品でも見に行かないか。リースはまだ装備とか無いんだろ」
「そうだね、私はまだ召喚された時のままだから装備品とか全部最低限のものしかないんだよね」
そんなありきたりな意見しか出なかったが、リースは特に不満は無いらしい。そう、両手でサンドイッチの両端を摘まみながらリースは返答する。
元々軽い朝食だったので、食べ終えるのにもそれほど時間はかからず、二人は食堂を出る。
そして、予定通り武器屋へと向かう途中で、ライトは一つ思い出したように気づく。
「そういえば、リースはどんな感じの攻撃手段なんだ?」
「ああ、まだ伝えてなかったね。えーと……はい、これが私のステータスだよ」
それは、リースの戦闘スタイルについてだ。そもそも何で攻撃するのかが分からなければ、武器の買いようがない。その事を話すと、リースは自身のステータス画面を開いて、ライトに見せる。
「これは……魔法主体か。それなら杖や魔術書あたりだな」
「いやー、ここに召喚されるのに手一杯でステータスとかは決められなかったんだよね。でも、どうやら神としてのイメージからか、こんな構成になってね」
リースのステータスは、職業は魔法使い。スキルに至っては、五つ決められる内の四つが魔法のスキルという完全に魔法特化の構成となっていた。
リース曰く、自身でステータスを決めることはできなかったようで、これは召喚された時に決められた構成らしい。
そんな事を話していると、武器屋へと到着する。店内を見ると客はおらず、経営は心配になるが品物選びはゆっくりとできそうな雰囲気が漂っている。
「着いたぞ、リース。非常識なくらい高くなければ、何でもいいから好きなの選んでいいぞ」
「お、太っ腹だね。やっぱり一人身だと貯蓄はしやすいのかな」
「……間違ってはないから否定できんな。俺も見たいものがあるから、何か欲しいものが有ったら言ってくれ」
そう言って、リースは杖等が置いてあるコーナーへ。ライトはナイフが置いてあるコーナーへと向かう。
(うーむ、十本で三百Gか。特段高い訳じゃないが……)
ライトが眺めていたのは、投げナイフの棚。スキルの一つである『投げ』は今のところは、拾った石を投げてモンスターの気を引く事に使ったり、モンスターを投げ落としたりして使っているのだが、
(もう少し遠距離の火力が欲しいな)
いかんせん投擲目的で使うと威力が低い。それはスキルのlevelが低いせいもあるが、武器が悪いというところが大きい。さすがに拾った石では、モンスター相手にロクなダメージは期待できない。なので、まともな投擲武器を探しに来ていたのだが、まだ微妙なものが多い。
(まあ、まだゲームも序盤だしそう贅沢言ってられないか)
しかし、それでも石よりはマシと割りきって、ライトらその投げナイフセットを三つほど購入する。もし、生産職の知り合いがいるならもっとまともな装備を作ってくれるのかも知れないが、無い物ねだりをしても仕方がない。
自分の欲しいものは手に入ったので、リースの方はどうなっているか、ライトが杖のコーナーへと向かうと。
「うーん、どっちにしようかなー」
杖を手に持って、色々と見比べているリースの後ろ姿を発見する。ライトは声をかけようかと思ったが、熱心に見ているようなので、声をかけずに待っていようと思っていると。
「……」
リースが手の中の杖をしばらく見つめると、ふと思い出したような顔をする。
「確か、人間界では¨魔法少女¨って文化があるんだっけ」
(随分と片寄ってないか、その情報源。)
リースの一人言に、脳内で突っ込みをいれながら、もう少し他のコーナーでも見ていようと、ライトが移動しようとしたその時。
「私、魔法少女にへーんしーん。って……ね」
リースがまるでアニメの変身シーンのようなポーズを決めて、その場で半回転。
先程までライトはリースの後方に居た。そして、今リースは半回転をした。これが意味することは、
「あ……」
「…………」
丁度リースがポーズを決めた瞬間に、ライトと向かい合うことになると言うことだ。
二人の間に、何とも言えない無言の時間がしばらく流れたのち。
「それ、買うか」
「……うん」
そう短い会話をして、杖を買うと二人は武器屋を後にした。
「いやー、リースもあんなお茶目な面があるとはな」
「しょうがないじゃないか、私は人間界の事にずっと興味があって、その上あんな物を渡されたら、そりゃポーズくらい決めたくなるのが人間ってものじゃないか」
「リースは人間じゃないだろうに」
「おっと、これは一本とられたかな」
あのあと、二人は防具屋にも足を運び、しっかりと装備を整えた上で、今は町の外へと向かっていた。
「ま、色々あったけど、次はレベリングといきますか」
「そうだね。私も闘いなんて久しぶりだし、頑張らせてもらおうかな」
二人はそう言うと、町と外を区切る門をくぐりフィールドへと出るのであった。
ここしばらく忙しくて更新が滞ってしまいまってしました、すみません。
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