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第二百二十四話 龍玉の鼓動

 セイクたちが街を進んでいくも、その道中にかつての活気はない。エネルギーを吸い取られて倒れている人外か暴走した状態でこちらに襲い掛かってくるものばかりであった。


「まるで世紀末みたいだな」

「なんの炎に包まれたんだろうな」


 ただ、フェディアたちの対処法によって暴走市民に関してはかなり手早く無力化できるようになっていた。軽口が話せるくらいには余力を残しながらようやく中心にある城前までついた。


「なにこれ?」

「結界みたいですね……かなり強度高いですよ、これ」

「力押しで破るのは無理そうですわね」


 ただ、門の前まで来たところで先頭を歩いていたリンが、疑問を感じて刀の先を前に軽く突き出すと空いているはずの門だというのに、空中で何かに当たった。それを見たフェディアたちが前に出て空中をペタペタと触ると、確かに壁のような何かがそこにはあった。


「何とかできないのか?」

「やってはみるけど、あんまり期待しないでよね」


 シェミルが杖を取り出し、結界に向かって解析を開始しはじめるがその表情は厳しい。フェディアとフェニックスの二人も始めてはいるが、苦い顔をしているあたりかなり難しいのだろう。

 セイクも魔術の心得がないわけではないが、彼女らのように理論までしっかりしているわけではないのもあってケンやリンと一緒に後ろに下がっていた。


「何か来るぞ!」

「また暴走した人達か?」

「違う! 今までのやつらより強い!」


 空中に紫色の裂け目のようなものが浮かび上がり、そこから一気に数体の獣人が現れた。紫色のオーラを纏う彼らは、シェミルたちの方を向くと生気のない目をしながら襲い掛かってくる。すぐに反応したセイクたちが前に出ることで防ぐ。

 今までの町民が暴走しているようなものではなく、戦闘を生業にするタイプの獣人が暴走したとなればその上昇率は今までの比ではない。


「早く証を!」


 不意打ち気味に襲ってきた獣人に押されるセイクたちを見て、シェミルが叫ぶ。身体能力の向上もこちらに向かってくる暴走も証によってなされているのであれば、それを外してしまえばいいだけのこと。ただ、


「今探してる!」

「こいつら……証が見当たらねぇぞ!」

「何っ!?」


 ケンが叫んだのを聞いてセイクも目の前の相手に目を凝らすが、確かに証のようなものは見当たらない。


「仕方ねぇ! 少々手荒になるけどいいよな!」


 セイクとリンが返答に困っていると、しびれを切らせたケンが大声を挙げて斧を持つ力を強める。もしかしたら操られているだけだとしても、このままやられてしまうくらいなら普通に闘った方がいい。ケンが挑発系のスキルを使い注意をひきつけながら、自身にも強化バフをかけるのを見てリンとセイクも戦闘のために意識を切り替えていく。


 ケンが耐えてセイクとリンが大きな一撃を入れるが、獣人たちがひるんだのも一瞬。すぐにまた襲い掛かってくる。怪我をさせて動きを止めようと考えていたのだが、これでは完全にその命を絶つまで動き続けるかのようであった。


(このまま普通に戦うのは無理だよな……ケンもリンも分かってるみたいだしやるしかない)


 横にいるリンもケンもそれを分かっているようで、二人はさらに強化バフを重ね掛けして完全に目の前の相手を倒そうとしていた瞬間、セイクの後ろから低い声が聞こえてきた。

 

「どうやら下法に身を落としていたのは本当のようだな」

「ワギサリさん? どうしてここに」

「あなたあっちの朧町にいたんじゃ……それにその刀は」


 そこにいたのは人間が住む朧町で会ったワギサリであった。かつてと同じように粗末な着物を着ている彼であったが、記憶と違うのは持っている刀。前に闘った時は柄すら簡素な、大きめのドスのような刀を持っていたはずだ。高価なものではないだろうが、よく手入れされているという印象を受けたそれではなく、さらに一回り大きな全長を持ち紫色と金の意匠が施された刀を持っていた。

 

「話は後だ、そこの男。少しそこのやつらを引き付けておけるか?」


 ワギサリの言葉に困惑しながらも頷いたケンが、挑発スキルを全開で使用することで一気に獣人たちの注意を引き付ける。鋼鉄の信念(アイアンハート)を発動したケンが全身で獣人の攻撃を受け止めたと同時に、ワギサリがその周辺を居合切りで薙いだ。

 糸の切れた人形のように倒れる獣人たちに、仕方ないとばかりに目を背けようとしたセイクであったが、その時獣人たちの胸の辺りからこぶし大の紫色をした球が落ちてくるのに目を取られた。

 

「やはりそうか、こやつら下法の証を直接体に埋め込まれておったわ」

「直接って……それにその技」


 ワギサリが玉を拾い上げると、刀傷のついたそれをセイクたちに投げ渡す。


「ワギサリ、あんたあの時は本気じゃなかったってわけ?」

「そう睨むな。あの時は確かに本気であったさ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()んでな」


 刀を鞘に納め、柄をアピールするように見せるワギサリ。


「なあ、あんたはこの事態について何か知っているのか? そもそも何でこっちに……」

「期待を裏切るようですまんが、わしも完全に事情を知っているわけではない。ただ、盟約と先代の言葉により、()()が力を大きく開放した気配を検知した時、筆頭であるわしはこの刀を持ち戦いに出ることを許可されているというわけだ」


 ワギサリの目には怒りと納得の二つの感情が入り混じったような光があった。


「いまこの刀が感じる龍玉の鼓動は()()()()()()

「ちょ、ちょっと待ってください! 確か龍玉って人間俗と人外たちで一つずつ分けあったものなのですよね……」


 彼の言葉を遮るように、フェディアが声を張る。


「ま、どっちにしろ中に入ってみればわかるんじゃねーか」

「それもそうよね、ここで止まっているより有意義だわ」

「決まり、だな」



@yato_a2さんにロズウェルのイラストを描いていただけました!

彼の底知れない余裕のある感じが表現されていて素敵です、本当にありがとうございました。

挿絵(By みてみん)





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