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第二百二十一話 水雷丸

 居合を防がれたことに驚くというより、それよりもライトの実力を確かめられたことを喜ぶように笑うと刀を構えなおす。

 

いななけ、水雷丸すいらいまる


 その言葉を合図とばかりに、急雷が放つ圧が引きあがり刀に青白い光が灯る。バチバチとけたたましく鳴くそれは、アーク放電のようにニヤリと笑う彼の顔を照らしていた。


「チッ」

「ずいぶんと脆い分身やなぁ!」


 分身が急雷の斬撃を勢いを殺しながら刀で受けたところでその分身は煙となって消えた。刀を受け止められたのに反応した急雷は、すぐさま刀に魔力を流し雷を纏わせることで分身を電撃で攻撃したのだ。

 

「あんたの短刀はこれで封じたもどうぜんやなぁ」


 煽るように話す急雷の言葉を受けて、ライトは魂喰らい(ソウルイーター)を戻すと素手での構えを取る。


簓木ささらぎ

「へえ、こんな手も持ってたんやな」


 刀に電撃を纏わせた状態で切りかかる急雷、刀で受け止めたところでその電撃は確実にライトを消し飛ばすことが可能であると考えての一撃であったが、ライトはそれを簓木ささらぎを使った手刀で受け流しながら肘を彼の胸元に刺し込む。

 そのままライトは拳一つの隙間もないほどの距離での攻撃を続ける。いくら急雷が近接武器を持っているとはいえ、このレベルの距離では満足に刀を振るうこともできない。それにいくらライトの攻撃が軽くとも、急雷の防御もそこまで高いというわけではない。全身強化した状態での打撃を何度も喰らえば目に見えてHPは減る。


「こりゃ、実力で裏我のおっさんを圧倒したってのも間違いやないみたいやな」

「それを認めたなら、引いてくれるとありがたいんだが」


 そう言い放つライトであったが、ククッと笑うと懐から一枚の木札を取り出す。見た目は龍鬼の証と同じものであるが、それは紫に怪しく光り、


「鬼龍、解放」


 その言葉キーワードと共に強く発光すると急雷に莫大なエネルギーを注入する。


(もう少しポーション用意しておくんだったな)


 MP回復のポーションを飲み干したライトは、便を投げ捨て分身を最大数だすと相手の変化を分析していく。裏我が使っていた強化と似ているがそれよりも禍々しい。


「獅子目流 錐雨きりさめ


 急雷が大きく刀を何度も振るう。ライトを切るためというより、まるででたらめに振っているかのような太刀筋であり、殴られながらも降り続けていたが唐突にそれを止めた。次の瞬間には、バチリと紫の火花が辺りをまばゆく照らし、その光に思わず目を閉じたトイニが目を開けるとそこには急雷しか立っていなかった。


「え、ライト……?」

「おや? こんなんで消し飛んでもうた?」


 一瞬にして辺りを電撃で焼き尽くしたようであるが、地面をよく見ると焦げ跡が付いているのは分身含めライトが立っていた場所だけ。つまり、あれだけの威力の電撃を高速で動くライトにピンポイントで当てるだけの技量があるというわけだ。

 ライトがいなくなったことにより、次はお前だとばかりにリースたちの方に刀を向ける急雷。その瞬間、


「させるかよ」

「まだ生きとったんか、あんさんもしつこいなぁ!」


 地面から飛び出してきたライトが投げナイフで刀を弾き、そのまま掌底を急雷の胸に押し込む。


「なるほど、地面でわいの錐雨きりさめを落としたんやな。それならこれはどうや」


 急雷は左手で顎を触りながら納得したように頷くと、今度は刀を地面に突き刺す。次の瞬間には地面には水が染み出し、乾いた地面に濃い色が付いた場所から尖った水の柱が次々と出現しライトを捉えようと析出する。


 急雷の持つ刀は、水と雷の二つの性質を併せ持つ。通常は相性が悪く共存しない二属性であるが、それを圧倒的な力と才でねじ伏せたからこそ、獅子目家でこれだけの立場に彼は居座っているのである。

 そして、ライトの分身を消し飛ばしたのは魔力が付与された霧をあらかじめ撒いておくことで、対象ターゲットにマーキングをほどこし、そこに向けて最速の電撃を放ったという原理である。


 ライトはそれをギリギリで看過すると、地面に潜ることで付着した霧を落としながらも電撃が通らないようにしたというわけだ。だが、今は安全地帯であった地面も急雷が精製した水で溢れ、水柱の直撃こそ避けていても水滴は体に付着していく。


(こん力、質はともかくやっぱり圧倒的やな)


 急雷は目の前の男、ライトに対して切り札を切ったことを今さらながら良い判断だと感じていた。普段の急雷では、今ほど大規模で力を使うことはできない。それを外部からとはいえ、力を補給してできるのは万能にも感じる力の行使。


(ちょっとヤバいか……)

 

 ライトの速度であれば、自身を襲う水柱を避けること自体は難しくない。だが、一定の水滴がついてからの電撃、全方位から来るそれは防げないことは分身が消えたことで学習済みだ。


(だったら)

「縮地無境」

「それがあんさんの切り札か!」


 ライトも切り札を切った。縮地無境により最高速である縮地を連続で使い、あっという間に水柱を追い越し、その速度は体に付着した水滴すらも振り落としていく。


「だとしても軽いぞ人族!」

「!?」


 急雷が叫ぶと地面が一気に崩れ、互いの足首まで浸かるほどの水が吹き出る。鬼龍解放による大量の力任せに水を生み出すことで、どこに逃げても地面に水があるようにしたのだ。そうなれば、


「逃げるのはそこだよなぁ!」


 逃げるのは水のない空中。いくらライトが空中を足場に移動系アーツを発動できるとはいえ、飛び上がった一瞬は体勢をととのえる隙ができる。


「紫電一閃!」


 刀を居合切りのように振るうと、紫電が走りライトに今度こそ直撃する。”やった”その感情が湧き出た次の瞬間に急雷の目に飛び込んできたのは、


「なっ!?」


 右手に紫電を纏ったライトが自身に向けて突撃してきている光景であった。



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