第二十一話 食事
行きは新たなスキルやアーツを試していたために、ゆっくりとした道のりであったが、それが終わった今は関係ない。
下手に夜になってしまうの面倒と考えたライトは、アーツも使いながら最速で町への帰り道を急ぐ。道中の敵はなるべく無視し、どうしても闘わなくては行けない場合は、分身とのコンビネーションを生かして速攻で倒す。
そのかいあって、夜になる少し前に町の門を潜ることに成功する。
「あー、疲れた。こういう時は、なにか旨い物でも食いたいな」
町に戻った達成感を味わうよりも先に、どっと押し寄せた疲労と空腹を何とかする為に、ライトは今夜の宿と食堂を探す。プレイヤーがあまり居ないせいで、少しばかり見つけるのに時間がかかってしまうが、二十分もすると明るいが店内から漏れている酒場を発見する。
映画等の創作物でしか見たことのなかったウェスタンドアを開き中に入ると、酒場特有の酒とつまみの匂いがライトの鼻孔をくすぐる。
第一の町ほど繁盛してはいなかったが、そのおかげで一人できたライトもあまり浮くことはなかった。ライトはカウンター席に一人座ると、グラスを磨いていた店主に話しかける。
「マスター、できるだけ旨いオススメを一つと、あれば烏龍茶を。値段は気にしない」
ライトがそう話すと、店主は小さく頷くことで返答して、手に持ったグラスに烏龍茶を注ぐとライトの前へと置く。そして、すぐにキッチンの方へと行ってしまう。
「ここは烏龍茶が有るのか。ダメ元でも言ってみるものだな」
そう嬉しそうに呟きながら、ライトさ烏龍茶に口をつける。
ライトは以外と茶が好きであり、それもそれなりに安い烏龍茶や麦茶をガブガブと飲むことが。現実世界でも毎日のようにコンビニの烏龍茶を飲んでいた。
そのため、最初の町では烏龍茶が無いことを少し残念に思っていたが、この町でもしかしたらにかけて烏龍茶が出てきたのは割りと喜ばしい事なのである。
「……どうぞ、ロックバードのチキンステーキと野菜スープです」
「マスター、烏龍茶をもう一杯頼む」
久しぶりの烏龍茶を懐かしんでいると、店主が料理をライトの前に運ぶ。その時に、追加の烏龍茶を頼みながら、ライトは店主に料理を渡すと料理を食べ始める。
目を引くのは、やはり中央に置かれたチキンステーキだろう。熱々の鉄板におかれて、その熱気が食欲をそそる香りと共にライトの鼻孔をくすぐる。
ライトはフォークとナイフをとると、早速そのチキンステーキに刃をたてて、まず一口。
(……ロックバードか、ややあっさりしてるけど、パサついてる訳じゃないな。元々こういう肉質かもしれんが、旨いな)
肉を咀嚼しながら、ライトはそんな感想を抱いた。ロックバードの肉は、確かにややあっさりめで例えるなら鳥のむね肉に近い感じかする。しかし、決してパサついてる訳ではなく、塩コショウだけのシンプルな味付けも相まって、食べやすい肉という感想が一番だろう。
(……これは、ソースか。次はこれをかけるとしよう)
次にライトが手を伸ばしたのは、備え付けられたステーキ用のソース。茶褐色のソースをステーキ一面にかけて、白みがかった
肉を茶褐に染め上げるのを見届けると、ライトはその肉を切り分けて一口。
(こっちも旨いな。さっきのシンプルな味付けも旨かったけど、ソースで少し濃くなった味もまた良し)
ソースによって加えられた味が、またあっさりめの肉と愛称がよく、味が濃くなった筈の肉をライトはどんどん口に運んでいく。
(おっと、スープもあるんだったな。肉が旨すぎて忘れるところだったぜ)
肉が三分の二ほど無くなったところで、ライトはスープの存在を思い出す。
肉の味を消すために、ライトは烏龍茶に口をつける。烏龍茶の仄かな苦味がやや甘かったソースの味を消していきながら、肉でやや脂っこかった口内も爽やかになる。
そして、口のなかをリセットしてから。ライトは、スプーンですくってスープを口にする。
(……ふむ、旨い。具は殆どないが、野菜が溶けるほど煮てるって訳か)
そのスープは殆ど具はなく、あっても野菜クズぐらいしか入ってはいなかったが、口にいれた瞬間野菜の旨味を感じる味であった。
野菜スープを飲み込み、喉に熱い物が落ちるのを感じながらライトは次のスープをすくう。
肉、烏龍茶、スープとシンプルかつ旨味が大きい組み合わせをライトは満腹になるまで堪能するのであった。
「あー、腹、いっぱいだ。さすが第二の町、最初の町より飯もグレードアップしてるんだな」
宿をとったライトは、自室のベッドに横になると、自身の腹部をさすりながらそう呟く。
脱出不可能となったAWOでは、未だ娯楽らしい娯楽は少ない。だからこそ食への比重は上がっており、満足のいく味の食事を思う存分楽しんだライトは、そのまま眠気に身を任せて瞼を下ろしていく。
(……明日の事は……明日考えるか……今はこの気持ちを壊したく……ない)
最後にそう考えて、ライトは完全に眠りにつく。
ーーーーー眠りついた瞬間、自身の左手に浮かぶ光に気づくことなく。