第二百十五話 反芻
(自動人形に妖精と召喚獣ね、いったいどんな道を歩んで来たらこんな戦法にたどり着くのかしら)
シェミルはリースの説明を受けるまで、ライトはセイクと別れた後にリースというプレイヤーと出会い戦っていたとばかり思っていた。いつかの時にボスのソロ討伐で話題になっていたが、あの当時はまだリースと出会っていないとすれば辻褄は合う。
リースの魔法は高く、攻略組のプレイヤーでも匹敵するほどである。そんな彼女がパーティでトイニやミユのような存在を従えているというのなら、シェミルも納得ができる。しかし、実際にはソロの前衛であるライトがその三体を従えているのは到底理解できるものではなかった。
「ねえ、自動人形って食事とかできるの?」
魔法職ではないリンは凄いということは分かっているが、どこまで凄いのかを完全に理解はしていないようでミユの横に移動するとジロジロと顔を覗き込むように見つめる。
「私は核に魔力が補給されることが食事となるので、魔力の多いものであれば消化吸収が可能です。普段はご主人様から直接触れてもらって魔力を貰っていますが」
「ふーん(柔らかいわね……)」
リンの視線と二の腕へのボディタッチを意にも返さずミユは答える。普段の彼女は魔力補給ではライトに背中に手を置いてもらい、そこから魔力を補給している。さらに大量の魔力が必要な時はポーションなどにも頼るが、契約を結んでいるとご主人様からの魔力を適宜貰わないと調子が出ないと言って、時折補給をしているのだ。
ただ、
「ちょ、直接!?」
「はい、ご主人様は最初、魔力補給ができなかった私を介抱していただいた恩もあります。全身からしっかりと魔力を補給してもらわなければ、ここに私はいなかったでしょう」
ミユの言葉を聞いてリンたちの頭に浮かんだのは、甲斐甲斐しくミユを介抱するライトではなくもっと倒錯的な絵柄。実際は核状態のミユに直接魔力を注いだというだけのことなのだが、特に誤解を解こうとも、誤解されているとも思っていないミユからすればライトの評判に傷がついているとは微塵も思っていないのだ。
「へっくしっ!! …………なんか鼻がむずむずするな」
今のところ影響といえば、どこかの繁華街で人外たちにまぎれながら歩くライトがくしゃみを一つした程度である。
「ちょちょ、トイニちゃん!? 大丈夫?」
まだまだ聞きたいことがあると思っていたところで、少し離れていたところにいるフェディアの大きな声につられてそちらを向くと、顔を赤くしたトイニが風呂場のへりにもたれかかるようにしてダウンしていた。
「はらひれはれ~」
「のぼせてるみたいだね。ミユ、そろそろ上がろうか」
「分かりました」
リースはトイニに近づくと、回復魔法をかけながらミユ湯船を上がる。ミユは手早くトイニをお姫様抱っこで抱え上げる。
「それじゃあ私たちはもう行くよ、じゃあね」
「ねえ、最後に聞くけど、ライトのやつもこの街にいるのよね」
「もちろん、別に探すのは止められてないし会いたければ探すと良いよ」
風呂場を出る直前に、最後にリンの問いに薄く笑いながらリースは答えるのであった。
「どうする? 追いかける?」
「いや、私はまだ入っておくよ。リースさんにも言われたからね」
「私はそろそろ出ます…………このままだと私ものぼせそうですし」
フェディアが出ていくのを見て、リンはちゃぷりとさらに深い場所に移動してゆっくりと深呼吸をしながらリースに言われたことを反芻するのであった。
すみません。切り方の関係でいつもより短いです。