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第二百四話 リースとリン

 ”召喚獣”という言葉に、シェミルはどう返していいのか返答に詰まる。同じく話を聞いていたフェニックスもそれを聞いて、チラリと視線をトイニとシェミルの方に移している。


(ここまで受け答えのハッキリした召喚獣なんて、今のところ例はないですわよね……)

(でも、妖精の仲間だと思えば)


 そもそも召喚獣というのは、召喚士(サモナー)という(ジョブ)が専門とする、非常に知能の高い獣を使役し続けるというものであり、リースのように人形の召喚獣というのは珍しい。

 他の魔法系の(ジョブ)が召喚獣を使えないこともないが、それはゴーレム等をその都度召喚し、簡単な命令をこなした後は崩壊してしまう、というのが現状の召喚獣であった。


 つまるところ、外見が人間と変わらず、長い間出しっぱなしでいられるリースという召喚獣は召喚士(サモナー)のものでも魔法系のものでもないという異質な存在であるのだ。シェミルたちの持つ知識で、一番近いのはトイニやシェミルといった妖精である。


「それでは、貴方もリースさんと同じ存在なのですか?」


 次にフェニックスが視線を移したのは、リースの横に座り目を閉じていたミユであった。


「私ですか。私の名前はミユ、ご主人様(マスター)からこの体を貰った自動人形オートマトンです」

「「お、自動人形オートマトン!?」」

「それって凄いの?」


 シェミルとフェニックスの二人が驚きで声を大きくしたのが気になったのか、少し離れたところで様子を見ていたリンも湯をかき分けるように近づいてきた。


自動人形オートマトンの技術は、今のところ召喚獣よりも活発に研究が進んでいますわ」

「いわばパーティーメンバーの上限に引っかからない戦力が増えるみたいなものだからね」


 二人の説明を聞いてそういう分野の話は、苦手でさっぱりだと感じていたリンでもイメージができた。フェディアのような一部妖精は非常に強力な戦力でありながら、まるでパーティーメンバーのように意思の疎通もできる。これは連携などにおいて非常に大きい要素であり、魔法以外のステータスがかなり弱くとも十分にお釣りがくる。

 ただ、妖精はあくまで魔法職であり、生来の筋力の低さなどのせいで前衛はとてもではないが任せられない。そんな中、注目を浴びたのが自動人形オートマトンである。この技術が発見された当初は攻略組の受付が24時間にするのが精一杯で、その受け答えも事前に打ち込んだものしかできないというものであった。


 それでも、攻略組含む生産職たちはこの技術に大きな可能性を感じ、今では簡単なコミュニケーションと同時にパーティの荷物持ちを任せることができるまでになっていた。


「というのが今の自動人形オートマトンの技術ですわ」

「へー、確かに荷物持つのって結構面倒だしそこを軽減できるだけでもいいわね」


 このゲームでは、アイテムボックスの上限数もあるが、それよりも深刻なのは重量制限と呼ばれるものであり、アイテムボックス内の重量とプレイヤーのSTRの値を参照して重量が一定値を超えると動きにペナルティがつくのだ。回復アイテムや戦利品を持ちすぎて満足に動けないというのは、初心者のパーティーではよくあることであり、熟練のパーティーでもアイテム量に任せてひたすらに攻略を進めることがきない要因でもあった。たとえ戦闘ができなくともそれを解決できるとなれば、今まで以上に攻略はやりやすくなるだろう。


「あれ? 確かこの子って大会で闘ってなかった?」

「……だから驚いていたんですの」

「そう、少なくとも攻略組の私たちが知る限り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 リンの記憶では自らを自動人形オートマトンを名乗るミユは、先のdecided strongestの決勝でセイクを相手に時間を稼ぐことができるほどには高い実力を持つ。そこまで高い実力を持つとなれば、自動人形オートマトンの分野に激震が走るだろう。


「そ、それで、いったいどうやってそれだけの出力を!」


 自動人形オートマトンの分野の界隈にも積極的に顔を出しているフェニックスは、ミユの手をとりその秘密を聞き出そうと迫る。ミユはいきなり手を取られたことには特に驚いてはいないようだが、返答には困っているようで助けを求めるようにリースの方に視線を移す。


「すまないね、そればっかりは企業秘密ってやつさ。そもそも、かなり偶然に頼ったものだから話しても完全再現は難しいだろうね」

「それでも……っ」

「ま、どっちにしろこの子のご主人様(マスター)はライトだ。どうしても聞きたいならライトに頼むんだね」


 そう言われてしまうとフェニックスは黙るしかなくなってしまう。そもそも、戦闘におけるあれこれは生活の種になることから、パーティメンバーやギルドメンバー以外には教えないというのも一般的だ。むしろここまで教えてくれただけ親切な方なのだ。


「その辺は勝手に教えられないけど……その代わりにちょっといいかな」

「な、何よ?」


 リースはリンに近づくと、左手を掴み右手をリンの胸の中心に軽く添える。いきなりの行動にうろたえているリンを無視して、リースは目を閉じると何か小さく呟き目を閉じて集中しているようだ。時間にして数分ほど経った後、リースはその手を離した。


「これでまあ大丈夫だと思うよ。これからは戦士の特訓の後にも、魔りょ……MPの回復をするようにするといい。この地域の温泉にゆっくり浸かったりしながらね」


 その言葉の意味が最初は分からなかったが、すぐに直感する。


(あれ……なんだろ、この感じ)


 まるでところどころ歪んでいた模型が、ピッタリと修正されたような雰囲気。体の調子が上がっているのが手に取るようにわかる。


(この人、いったい何者?)


 またフェニックスたちと談笑を始めてしまったリースを見て、そのような疑問を浮かべることしかリンはできないのであった。



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