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第二百三話 温泉街

「見事! ここまで満足したのは久方ぶりだ。これならば人間族といえどこの先へ進む資格はあるだろう」


 裏我はセイクの一撃こそ相殺に成功したが、聖櫃コミュニオンを破りながらも直進してくる赤黒い一撃まで対処が回らず、首を狙うその一撃を大太刀から片手を外して無理やり受ける。当然、受け止めきれるわけもないが、直撃を避けるように体を動かすだけの時間は稼げる。

 

「それはそうとして、その腕は大丈夫なんですか?」

「当然だ、鬼族の回復力を舐める出ないぞ。この程度二日もあれば完全に戻る。回復魔法を使えば明日だな」

「自然治癒で二日って……鬼族ってのは本当に規格外ね」


 裏我の右腕はぷらりと垂れ、繋がっているだけの状態にしか見えないがそれを自然治癒であっさりと治してまうというのだから基本的な体のスペックが人間族とは大きく違うのだろう。かつての戦争でも人外側が勝ったというのも納得の違いだ。


「それではこれが約束の証だ」


 勝利を祝い、ケンたちがセイクとリンの周りに集まって来たタイミングで、裏我は懐から二つの木札を出す。五の文字が淡く刻まれていたそれは、まさしく第五の試練を二人で突破したという証拠である。


「すまぬが、そちらの者たちの試練は腕がこれなのでな。後日とさせてくれ」

「おう、今度は俺が挑戦するからな」


 裏我はケンもまた第五の試練に挑戦するだけの実力があることを感じ取っていたが、今すぐに本気で戦えないことを詫びる。ケンとしても、あれだけの闘いを見た後に本気で闘ってくれないのはスッキリとしないのでその申し出を断る道理はない。




「それで? これからどうするの」

「少なくとも数日後にここに戻ってくるのは確定として、四の街と三の街の観光しないか」

「さんせーい」

「わたくしも賛成ですわ。試練ばかりで後半はあまり見て回れてませんもの」

「俺たち近接組は温泉街にもいけてないしな」


 魔法の試練を受けていたシェミルやフェニックス、フェディアは試練の地で大量の水を使うことが多く、その関係で温泉街にに足を運ぶことも多かったが、近接組は宿の温泉に浸かるのがせいぜいであったのだ。






「あー、戦闘の後の風呂は染みる…………」

「今度は俺が挑戦するからな、その時は付き合えよ」

「分かってるって…………」

「おい、溶けてるぞ」


 温泉巡りとしていつもと違うところに泊まったついでに、まず温泉に浸かったセイクたち。男湯ではセイクとケンの二人しかいない温泉を独り占めであった、龍鬼の証が四以上でないと入れない旅館というだけあってそうそう来れる者がいないのだろう。



「わー! 広ーい」

「こっちの温泉はいつものところより魔力が多いですわね」

「その割に人もいなくて快適ね」


 女湯の方では、試練で激流の湯の中にいた後衛組はいい湯にゆったりと浸かりリラックスしていた一方で、


「り、リンさん…………何かついてますか?」

「いや別に(何だか成長しているような)」 


 風呂に浸かりながら体育座りをしていたリンの視線が、自分に注がれているのを感じたフェディアは何の気もなしに聞き返すがリンはさらに膝を抱え込むように座ってしまう。


「おー広ーい!」

「走ったら危ないよ」

「大丈夫大丈夫」


 リンたちがそうして風呂を楽しんでいたところで、ガラリと女湯の扉が開いた。妖精が飛び出し、白髪の女性がそれをたしなめるように話し、さらに一歩下がって背の高い女性型の自動人形オートマトンが続く。


「あー!! フェディアじゃない!」

「と、トイニちゃん!? なんでここに!?」


 トイニは洗い場の場所に溜められたお湯に手を入れると、魔力でその湯を操り一気に全身に被り体の汚れを落とすとすぐに温泉に飛び込んだ。


「飛び込んだら危ないよ、トイニ」

「ごめんごめん、久しぶりに合えたからつい…………それよりもフェディア、いつこっちに来たの?」


 すぐに体を洗ったトイニとは違い、桶からお湯を掬いながら注意するリースと「洗いますよ」と提案するミユ。体を洗われるリースはまるでどこかのお姫様か、女神様のような高貴な人だなと会話が盛り上がるフェディアとトイニを視界の片隅に納めながらシェミルは思っていた。


「隣、失礼するよ」

「あ、ども」


 風呂のへり横向きにもたれていたシェミルであったが、急に話されて生返事になってしまったがリースは特に気にしている様子もなく横に座り、それから遅れるようにしてミユも湯船に入ってきた。


(そういえば、私この人のこと全然知らないのよね)


 シェミルこと山崎詞乃とライトこと谷中光一とは小学校からのつきあいである。セイクやリン、ケンを加えた五人で話す機会はそれなりにあり、友人としての谷中光一はそこそこ知っている気でいた。なんとなく一歩引いたような態度をとり、この世界に来たタイミングでこちらを生かすためだと言って離れていった。

 あの時は序盤の街で細々と一人生きると思っていたが、蓋を開けてみればトップクラスのパーティーであるセイクたちと肩を並べるほどに実力をつけていた。


「初めましてですわね、私はフェニックス。あなたはセイクさんとよく一緒にいる方ですよね」

「自己紹介がまだだったね、私はリース。なんて言ったらいいか難しいけど…………ライトの召喚獣とでもいえば近いかな?」


 シェミルたちを一通り見渡し、顎に人差し指を当てて少しばかり考えた後リースは薄く笑いながらそう告げるのであった。

  

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