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第二百一話

(こやつ…………本当にっ!?)


 裏我の脳裏に嫌なイメージを浮かんだ時から三時間近い時が経とうとしていた。龍鬼解放の力はすでに切れているが、それでも裏我の技量によって致命傷になりそうな攻撃はすべて防ぎここまで生き残っていた。

 逆に言ってしまえば裏我相手に三時間以上、一、二撃掠れば終わりという状況でライトが生き残っているということでもある。


 確かにライトの速度は速いが、それが一般的なスキル頼りであれば対応できる。ここまで翻弄されているのは、


(この緩急が捉えられぬ……)


 ステップからハイステップに繋ぐ一般的な動きからさらにもう一度ステップに繋ぐというキャンセルランクを無視した動きのせいである。

 ライトの持つ切り札の一つと言ってもいい縮地無響を使われては、そう簡単に捉えることはできない。魔力や脳の問題で過剰集中(オーバーコンストレイション)ではなく集中(コンストレイション)を使い縮地ではなくハイステップまでで移動系スキルは抑えているが、それでもその動きを捉えるは初見ではほぼ不可能なレベルであった。


(かくなる上は…………)


 裏我が僅かに唇を噛み、目の前のライトから意識が逸れる。意図して意識を反らしたわけではない、目の前の闘いからほんの少しでも意識を変えてしまうような何かが彼の中にあった。

 龍鬼の力を使ったはずの裏我の左手が、無意識に自身の胸に伸びる。その瞬間、


(馬鹿者! たかが試練でそこまで許可をしてはおらぬわ!!)

(っ! …………すみません、殿)


 裏我の脳内に怒号が響いた。低く威圧感のある声で、歴戦の戦士である裏我ですらその迫力にやや気圧されてしまうほどであった。脳内で響くその声を聞いた彼は、


「……試練はここまでだ」

「あ?」


 大太刀を地面に突き刺すと、両手を組んでセイクに背を向けたまま絞り出すように告げた。その口の端と固く組んだ腕の端が震えているのを見ると、本心からの中止でないことは一目で分かった。


「これ以上は殿に止めらてしまった…………これだけのことができるのなら、この資格を持つには相応しいだろう」


 そう言って裏我は懐から出した木札を取り出し背中越しにライトに投げ渡すと、大太刀をもう片手の方で引き抜く。その顔は様々な感情を押し殺し、厳しい顔をすることで殿への不満を押しとどめているようなものであった。


「ま、こっちとしては別にいいが」

「……恩に着る」


 裏我の心情を察したライトは縮地無響を解き、魂喰らい(ソウルイーター)を背中の鞘に納める。縮地無響は一戦闘にほぼ一度しか使えない以上、裏牙相手に有効な札を自ら放棄したライトも戦闘の意思が削がれてしまったと暗に言っているようなものである。


 どうしようもないほどの戦闘狂(バトルジャンキー)である意識はないが、それでもギリギリを攻め戦闘スタイルをリスクとリターンを考えて改良していくというのはライトの好きなプレイスタイルの一つでもあった。今回の縮地無響を前回のように過剰集中(オーバーコンストレイション)で運用するのではなく、集中(コンストレイション)単体で運用できるようにと試行錯誤していたのだ。

 縮地無響を使わなくてもいいような相手では、このような策を練る前に戦闘が終わってしまう。だからこそ、裏我のような強者との戦闘でありながら試練という命の危険がないという絶好のチャンスであるのを潰されるのはあまりいい気分ではない。


(無理言っても戦闘づづけられそうにないし、ここはこれで手打ちにするのが最善かね)


 そう思いながら、ライトは五と書かれた木札を懐にしまいその場を後にするのであった。


「やりましたね、ご主人様(マスター)

「ああ、ミユも助かった。前衛まかせっきりでごめんな」

「いえ、ご主人様(マスター)のお役に立てて光栄です。それでは私は戻って回復に努めて参りますね」


 そう言ってミユは巻物の中に入って消える。いくらサポートしているとはいえ、自動人形オートマトンである彼女が裏我相手に前衛の役をこなすのはなかなかキツイものがあったのだろう。表情にこそ出していないが、足や魔力の流れは震えて疲労しているのが分かる。



「おっ、終わったんだ」

「遅いよー私ふやちゃうかと思ったんだから」


 試練会場から出ると、リースとトイニの二人が浴衣に着替えた姿で出迎える。時間がかかることを見越して、この町の温泉巡りでもしていたのだろう。トイニが持っているラムネとリースの持っている温泉まんじゅうのロゴが若干ちがうことからも判断できる。


「それで、試練の方は?」

「落ちると思うか?」

「まっさか」


 "一応聞いただけだよ"とリースは付け加え、ライトたちはまた人外の民衆の波の中に飲まれていくのであった。















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