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第二百話 山塊荒衝(さんからんしょう)

 自動人形オートマトンであるミユは、エリアボスであるマウンテンゴーレムのコアを贅沢に使った存在である。土属性の精霊である彼女は、宝石で作られたコアを持つことにより土属性に限り妖精クラスの能力を発揮でき、近接戦闘に至ってはトイニやフェディアの力を優に超える存在である。

 特にこの朧町に来てからは、土壌が肥沃であることから土属性の魔力が含まれたものに触れるないし接種を続けた結果、その出力は初めて自動人形オートマトンの外郭を手に入れた時よりも高くなっている。


「貴様カラクリか! その割には力があるが、まだ足りん!」



 裏我の大太刀を両手に生成したブレードで受け止めるミユ。一瞬耐えるが、力の差は歴然で裏我は刃を合わせた状態でさらに力を込めて一気に潰しにかかる。


「土遁、地盤隆起じばりゅうき

「ぬおっ!?」


 裏我がさらに軸足に力を込めた瞬間、周りの地面が歪み裏我は一瞬バランスを崩す。しかし、ミユの方はその地面の隆起が分かっていたとばかりに体勢を直し、そのままの勢いで裏我の横を通り抜けるように切りつけ離脱する。


「弧月斬」

「スラント」

錐通きりどおし

「ぬぅ……」 

 

 ミユと入れ替わりに分身のライトが一気に拳と魂喰らい(ソウルイーター)で裏我に攻め入る。大太刀という武器の特性こそあれ、裏我自身そういった相手との戦闘経験は多いと自負していた。相手が人間族というのもあり、油断と驕りもあったのだろう。それでも、


(ここまで一度たりとも、惜しいと呼べる攻撃すらないか……) 


 ミユの方はともかく、ライトの方に攻撃が当たる気がしないというのは異常である。全ての攻撃をかわされ、裏我がライトの動きを予測して大太刀を振るったとしても圧倒的な速度によって、強引に加速して避けられてしまう。

 最初は大したことのないと思っていた攻撃も、小刀の攻撃を受け続けて気が付いたが、


(あの武器、気力を吸収する妖刀だな……体力はともかくなかなかに面倒だ)


 魂喰らい(ソウルイーター)により削られている気力(MPやSP)により、裏我の予想よりも戦況はライトの方に傾いていた。戦士である裏我も肉体の強化や大技にはそれらを使う。最初は防御のために特別な技がいる力でもなく、防御に関しても素の一撃で片が付くと高を括っていた。


「貴様をただの人族と侮っていたことを認めよう……ならばここからは全力で押して参る!!

!」

ご主人様(マスター)……」

「ああ、ここからが本番だな」


 大太刀を握る手を再度強め、裏我の気合いを込めた大声と共に纏う雰囲気が変わる。先程までのあくまで試練を担当するだけの存在で、鬼族という圧倒的な力を使いライトのことを下に見ていたことから、対等な戦士として闘うことを決めたのだ。


「龍鬼、解放!!」


 その叫び声と共に、裏我が胸の中心を掴むようなしぐさをすると目で見て分かる程に裏我の動きが変わった。速度はもちろん、大太刀を振るう力も強化されており、地面に向けて空振りするだけで大きく地面がえぐれ地形が変わる。

 大太刀を振るう速度だけを見れば、ライトにも追いつきうるそれを裏我の力で振り回すとなれば、ミユでもまともに受けるのは難しい。これが、裏我がこの人外が治める町で高い地位を持つ代わりにこの場所を守るため、そしてより高みへと至るために望んだ力。


(この力、使うのは久しぶりだが龍玉の力はやはり莫大であるな)


 その力の源は、この町のトップによると龍玉により溜められた力を塊として分け与えているというものらしい。この塊を与えられているのは、この町でも特段高い地位におり、特別な能力を求められる存在だけである。裏我もその一人としてその力を持っており、龍鬼解放をキーワードとして使用することができるのだ。


「ミユ!」


 ライトがミユに向けて叫ぶと、ミユは一気に距離を引いてライトの背後にまで下がる。今の裏我の速度であれば、この距離を詰めるのは容易であるが、ライトの分身たちが体を張って僅かながら時間を稼ぎ、ライトは印を完成させ、それと同時にミユが地面に両手をついて土地の精霊に力を注ぐ。


「土遁、山塊荒衝さんからんしょう!!!」

大地激震(ボーデンベーレン)!」


 ライトの土遁スキルはレベルこそ高いが、INTのステータスが低いため術のレベルの割に規模や威力も低い。それをミユが同時に魔法を使うことで補い、ライトだけでは使えない大規模な術を発動したのだ。  


「ぬっ、おおおっっ!!」


 大地が隆起し、岩石と土でできた弾丸と槍が地面から飛び出し裏我を襲う。龍鬼の力により強化された力を十分に振るい、向かってくる槍を砕き、受け、しのぎ切る。


「ふ、ははは!!! 面白いぞ! これで貴様の切り札は終わりか?」


 莫大な力というものは長く続くものではない、裏我はそのことを先の大戦でよく知っている。喰らっている最中は長く感じた山塊荒衝さんからんしょうも、数分と持たずにその効力は切れる。裏我の体に少なからずダメージは与えたが、それでも倒すには全く足りない。


「いや……()()()()()()()()

「なぬ!?」

 

 ライトが裏我の後方から錐通きりどおし螺極らきょくを直撃させ、体勢を崩させ追撃の蹴りを入れる。いくらライトの速度が速いとはいえ、これまでの高速移動では裏我を驚かせるものでもなく、ここまで体勢を崩すこともなかっただろう。その理由は、ライトが裏我の後方にあった隆起した土壁から出現したということだ。

 土中遊泳、ライトが持つスキルであり単純に土の中を普段と同じように移動ができるというというものである。


(これは……さっきの派手な術はこの地形を作るためかっ!)


 山塊荒衝さんからんしょうを凌ぐために裏我が強化された力で大太刀を振り回したのも手伝って、周りの地形は大きく変わっている。裏我の背丈より高く隆起した場所に、一気に凹んだ場所が出現している。これまで二次元的であったライトの高速移動が、より一段上のレベルに引きあがったのだ。

 さらに、このミユも大地の精霊であることから最高速はライト程ではないが、滑らかに大地から力を得ながらの土中遊泳が可能である。裏我の攻撃を耐えてるのが難しいという弱点もカバーしている。


「しかし……これではまた撫でるような一撃ばかりだな。それでは我を倒し切るのは難しいのではないか?」


 問いかける裏我の頬に一筋の汗が流れた。


(これだけの高速戦闘、どこかで必ずほころびが出る……)

「どこかで集中力が切れて隙晒すとでも考えてる顔だな」

「っ!?」


 図星を突かれて裏我の表情が僅かに固まった。そう、裏我の常識では極限の集中力が求められる戦闘において、一度もミスをしないというのは考えにくい。そもそも一般的に集中力はそう長く持たない。それでも、集中力が切れ多少ミスしたところでそれをカバーできるように闘い方を練っている自負ある。

 そのような戦闘方式こそが最善であり、目の前のライトのように全ての攻撃を避け捌くなど理想論でありどこかで破綻する。それが当たり前だと思って闘ってきた。


「どうした? ()()()()()()()()()()()()()()

「ぐっ、ぬっっう!?」


 裏我の一番のミスは、ライトの集中力について過小評価しすぎたところだろう。いくら莫大な力でも永遠に続くものはない。裏我が龍鬼の力を使ってから、普段であれば余裕で戦闘が終わっているだけの時間が経過している。

 既にその出力は下降の一途を辿っており、HPはまだ七割近く残っているというのに裏我は目の前の一撃入れれば容易に倒せる相手に勝てないと、そのイメージが明確に脳裏に浮かぶのであった。


 


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