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第百九十九話 裏我両牙

 獅子目が渡した証は他の住民もっている龍鬼の証のなかでも、町の有力者である獅子目の家が発行した特別性である。本気ではないにしろ、自分と互角以上に戦えるライトならこの証を持つだけの力があると判断したので、自分の権限で出せるなかでも最高ランクの証をライトに渡したのだ。

 獅子目、九重、裏我うらがの三つの家が先の戦争で活躍し、いまでは町の政治の実権を握る御三家として君臨しており、龍鬼の試練について実験を強く握っているのは裏我家であるものの他の家でも許可書の発行はできるのである。


「最後の確認だが、本当に受けるのだな」

「もちろん。ここまで来て引き返すやつはいないだろう?」

「我の記憶では、少なくとも四件はこの段階でおじけづいたやつがいるぞ」


 龍鬼の試練を受けたいとライトが言うと、半日後にこの場所に行けと言われ、その場所に行ってみるとそこには獅子目を超えるほどの巨体にそれと同等ほどの刃を持つ大太刀を持った浅黒い肌をした大鬼が立っていた。


「試練の内容は単純明快、この我を倒しその実力を認めさせてみよ」

「いいね、そういうの分かりやすくて」


 目の前の大鬼の気配はただ強大なだけでなく、その上で経験を積んだことから来る自身があるといったものであった。鬼と戦った経験は獅子目と初めて出会ったあれ以来であったが、あの時はあくまで喧嘩の延長であったが、目の前にいる大鬼は最初からこちらを殺す気で相対している。

 

「フンッ!! ほう……貴様、忍者か」

「一応な」


 最初に動いたのは大鬼こと、裏我両牙うらがりょうがであった。その身の丈ほどのある大太刀を一気に振り下ろし、地面がえぐれて土煙が上がる。土煙を切り裂き本体含む四体のライトが現れ、裏我の四方から魂喰らい(ソウルイーター)を構え迫る。視界不良のなかカウンター気味に攻めに転じたというのに、裏我は振り下ろした大太刀を即座に引き戻すと前方から迫るライト三人の斬撃を防ぐが、背中から迫る分身の一撃はまともに喰らってしまう。

 

「ずいぶんと軽い一撃だな。久方ぶりの挑戦だ、遠慮はいらんぞ!」

(別に遠慮しているつもりはないんだけどな)


 裏我からすれば、目の前のライトは同じ御三家から四の位を名乗ることが許された人族という特異な存在。それがまさか、子供に叩かれたかのような軽い一撃であるとは露にも思っていないのである。ライトは剛拳を含む強化系のアーツも発動しているが、それでもこの差である。


(確かに速さと見切りの良さは認めるが……これが獅子目家が認めた人族か? あのじゃじゃ馬娘がまたわがままでも通したか)


 裏我は先の大戦でも新米ながら戦いを生き延び、今は政治を主戦場としている裏我家でも戦いを貫くために強者を求め龍鬼の試練の総監督としての道を選んだほどである。もちろん戦争では忍術を使う者と戦った経験もあり、自分よりも力強い相手も、速い相手とも戦っている。

 そうだというのに、目の前相手は速度こそ先の大戦でもそうそう見ないほどなのはいいものの、力に関しては悪い意味で見たことがないほどだ。


(なーに、速度で追いつけないのならそれなりの闘い方がある。そういうのと我は戦ってきた)


 獅子目の一人娘で、力や潜在能力こそ鬼族の中でも屈指と言われているが大戦が終わったせいで実戦経験のないじゃじゃ馬娘。裏我の知る獅子目はそういう娘であり、普段から刺激に飢えた彼女はこの人族と少しばかり闘ったところでその珍しさと身のこなしだけで証を発行させてしまったのだろう。

 裏我としても強者の人族と戦うのは久しぶりで、楽しみにしていたところがあったのだがこれでは期待外れかもしれないなと小さくため息をつきながら前に出る。


 致命判定が出そうなものだけは、念のためしっかりと防ぎながらじりじりと距離を詰める。周りは高い岩場に囲まれ、天然の円形リングといったこのフィールドでは、裏我が両手を広げて構え、その向こうへ通り抜けようとすれば、必ず裏我の攻撃範囲内を通る必要がある。


(手の届く場所にさえ来れば、いつか攻撃は当たる。こちらは何百と切り裂かれても平気だが、あの人族はそうもいくまい)


 裏我はこの短い戦闘時間でライトの戦力を徐々に暴いていく。速度に対してパラメータを極振りした結果、力と防御が著しく弱いということも感覚から理解していた。つまり、相手の移動範囲を狭め、極度の緊張にさらし続けることでこちらはたった数撃、下手すれば一撃当てればいいだけのこと。

 どんなに熟練の者だとしても、基本的に集中力というものはそこまで長く続かない。そして、集中が乱れた時にこそ手癖が出るものであり、それを見極めて攻撃を当ててしまえばいい。


(こちらが圧倒的に有利である点を使い、その有利を活かしながら戦う。それが定石なのを俺は知っている)


 裏我はその剛力を持って、大太刀を振るい躱されたとしても地形を削りライトが動きやすい平地を徐々に少なくしていく。

 しかし、ライトもデコボコ程度の悪路なら平地とそこまで変わらない速度走ることはできる。だが、どうしても大きく隆起したような場所や、凹んだ場所では一度地に足を付けて方向転換の必要がある。


「ここだッァ!!」


 ライトの速さは素のステータスの高さに支えられており、普段の移動は普通に走る及び、ステップなどのキャンセルランクの低いアーツで小刻みに移動している。つまり、長距離を一瞬で移動しているわけではなく、一歩で移動できる距離を高速で移動しているにすぎない。そして、その一歩の場所を地形

を変えることで制限した裏我は、制限した地点に大太刀で一気に薙ぐ。


(予想ではこれで決めるつもりなんだが……)


 裏我の手には確かに手ごたえはある。ライトの速度に対応するために、速度と範囲を重視した振りであったが貧弱なライトをしとめるには十分な威力があると確信していた。だが、


「大丈夫ですか、ご主人様(マスター)

「ああ、ベストタイミングだ」


 裏我の大太刀は、いつの間にか広げられていた巻物の上に立つ緑の長髪を持った自動人形オートマトンが構えるブレードに受け止められていた。

 

「ほう……思ったよりは楽しめそうだのぉ!!」


 裏我はやや下がってしまった気持ちを鼓舞するように声を張り上げ、大太刀を握る力をさらに強め口角を引き上げるのであった。












 








  





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