第二話 異世界と元の世界と違和感の原因
光一は、座ったまま椅子を横にスライドさせて、リースにパソコンの画面が見やすいように移動すると、話を続ける。
「ちょっとこの画面を見てくれ」
「えーと、これはAWOのサイトかな」
「そうだ、ご丁寧にVRの理論まで簡単とはいえ書いてある」
光一がリースに見せたのは、AWOのサイト。そこにはVRの理論も簡単に書いてあり、その内容を端的に言うなら。
ヘルメット型のハード『パルスギア』を被ることにより、首から下への神経の電気信号を遮断。さらに、五感に対応する偽の信号をパルスギアから発信することにより、リアルな世界を再現可能とする。
そのような内容が数行に渡り書かれ、最後にはゲームのプレイ動画へのリンクが貼られていた。
その内容をリースが読み終えるのを待って、光一は話を再開する。
「それで、一応この理論に筋は通っているんじゃないかな?」
「ああ、俺も詳しいわけじゃないが、多分この理論はあってるんだろうよ。だけど、それを実現できるほど俺の世界の科学技術は発展してはいないんだ」
かなり省いているとはいえ、光一からしてみればこの理論に穴は見えない。しかし、光一がいた世界で一般人が持てる最新機械など、精々スマートフォンが限界だった。
だからこそ、VRを実現したゲーム。しかも一般人が手に入れることができる筈は無かった。この自身の記憶と相反する現実の原因を探るべく、光一はリースを呼び出した。
「そうだね。確かに光一の世界では、まだここまでの技術は無かった」
「じゃあこの事態はどう説明する?」
「説明か……これを言うと身内の恥を晒すみたいで、あまり話したくはないんだけど。まあ仕方ないか、光一も全くの無関係って訳じゃないし」
「俺が無関係じゃないだと……?」
リースの口から出た衝撃的な言葉に、光一は自身の記憶を探って今回の事態と関係ありそうな出来事を探っていると、一つの事が引っ掛かった。
「まさか……こいつが原因か?」
「三割正解。原因というより要因の一つだね」
光一が取り出したのは、手のひらサイズの黒い箱。それは、スマートフォンの普及ですっかり見なくなったガラケーのようであった。しかし、光一がそれを開くと空中に緑色のディスプレイが浮かび上がる。まるでSF映画にでも出てきそうなそれは、一高校生の光一が持てるものではない。
では、なぜそんな物を光一は持っているのか。
「なぜ、世界の技術を越えたものが、世間一般に受け入れられているのか。だったね、それは簡単さ。光一の行った異世界、¨そことこの世界が少しばかり融合した¨のさ」
リースの口から出た言葉に、光一は少し絶句してしまっていた。確かに、光一が一度転移させられた異世界は科学技術が発達しており、VR技術も一般に広く普及しているほどだった。
しかし、技術に置いては理由ができたとしても、それにより出てきたもう一つ謎。『なぜ、この世界と異世界が融合してしまったのか』という謎が残る。
「もう一つ、この世界が融合した原因だけど。光一が前に倒した神の従者は覚えてる?」
「ああ……倒したって言っても搦め手使ってだがな」
「そいつの担当の神は、どうやらさらに高位の神への反逆を企てていたみたいでね。もちろん神罰を受けて、コキュートスで凍漬けにさせたんだけど」
リースの説明を受けながら、光一は昔リースの言っていた神の従者との戦いを思い出す。その神の従者となった男は、悪神となった神に騙され、操られていた。神からの力を振るい、テロリストのボスとなった男は、魂を糧として力を得ようとした。そして、金と魂の両方を手に入れるために、鳳条グループの一人娘がいる光一達の学校を襲った。
結果として、そのボスは討ち取られて事件は終息した筈だった。
「その悪神を連行する途中、最後の足掻きとばかりに抵抗したみたいでね。しかも散々魂を糧にしてたから、抑えるのも大変だったみたいだよ」
「それで、どうなったんだ。そいつは、こんな事態を引き起こした原因なんだろ」
「そいつの大暴れのお陰で次元が揺れてね。しかも運の悪いことに、それは丁度光一があの世界から帰ってくる時だったんだ。そのせいで世界の相違が少し狂ってね、なんとか被害は最小限にしたけど、これが精一杯だった。これが、この事態の発端であり一部始終さ」
リースの説明を最後まで聞いて、光一はしばし顎に手を当てて考え込むと、
「つまり、もう騒動は終わっていて、あのゲームに特に悪影響はないと」
「つまりはそういう事だね。友人と約束してたんだよね、一緒にやってあげたらいいんじゃないかな? そろそろ時間じゃないの?」
リースの説明を聞く限り、特に危険はなく安全ということも分かった。原因である悪神とやらも神罰を受けたようなので、二次被害の心配も無いだろう。今の時間はサービス開始の二十分前といったところ。そろそろ友人との約束の時間だ。
「そうだな、智也や健二達から誘われてるし、とりあえずやってみるとするよ」
「それじゃ、私は一旦帰ってるよ。終わったら感想でも聞かせてよ」
「ああ、じゃあ一、二時間後ぐらいに呼ぶよ」
そう言って、リースの姿は消える。
再び一人となった光一は、見覚えこそ無かったが、何故かあったパルスギアを取り出す。電源を入れ、ソフトのチェックを素早く済ませると、ベットに仰向けで寝転び、
「ダイブ、イン」
そう仮想世界へ行くためのキーワードを口にした。
光一の異世界での話や、テロリストでの話を読みたい方は、私の前作をどうぞ
※読んでいなくても、話が分からなくなるということはないようにします。