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第百九十二話 時代劇

 人外の存在そのものはこの世界において特段珍しいものではない。現にセイクが連れているフェディアは妖精であるし、それ以外にも今までの街やクエストで獣人のような人外と会ったこともある。

 だが、疑問なのはこの朧街で人外がいるということだ。ワギサリの話ではこの街は全体的に人外のことをよく思っていないとのことだが、周りの視線はフェディアの時のような不信感の籠った目線ではなく、恐怖の割合の方が多いように感じた。まるで地震や台風に対して、恐怖に震えながら耐えるしかないと言ったものであった。


「そんな……困ります。先月の納付分はもう収めましたし、今月はまだ期限が……」

「先払いってやつよ先払い。ちょっと博打で負けが混んじまってな~、お前から取り立ててる毎月土地代をちょっーとばかし早めに取り立ててやるって言ってんだよ」

「そうそう、早めに支払いが終わってラッキーじゃねーか。ま、あと五百年は返済にかかるけどな!」

「ちげぇねぇ!」

「「ギャッハッハッハッ!!!」」


 人外二人に詰め寄られ、抵抗しようたした店主のか細い声はあっさりと笑い声にかき消されてしまう。

 その光景を見てセイクが割って入ろうと、腰にかけた剣に手をかけて一歩を踏みだそうとしたその時、


「アンタたちさっきから聞いてれば土地代の請求は百歩譲っていいとしても、自分で決めた期限ぐらい守りなさいよ!」


 それよりも早くにリンが人外二人に刀を突きつけていた。


「おいおい、ついにあの用心棒はお陀仏ってわけか!?」

「それとも払う金が無くなったか?」


 リンを見て馬鹿にしたように笑う二人。


「まあいい、そこの女。オレたちと遊んでくれるならここは引き下がってやるよ」

「もし、またあいつが来たら面倒だしな」


 下品な笑みを浮かべながら自分を指さす狼男に対して、リンは突きつけた刀を構えなおしながら一歩後ろに引いて答える。


「断るわ、アンタみたいなのは好みじゃないのよ」

「へっ、そのぐらいハネっかえりのある女を手籠めにするのもいいな」

「最近は従順なやつばかりだったからな!」


 ニヤリと値踏みをするようにリンを眺めながら、狼男は刀と猫男はかぎ爪をそれぞれ構える。戦闘になる気配を感じてセイクたちも加勢しようとしたが、リンが目線で加勢を断るように伝えてきたので武器を持つ手の力を緩める。


「あの……リンさんに手を貸さなくていいんですか?」

「ああ、リンが来るなって合図してたからね。一人で十分だと判断したんだろう」


 まだ日が浅く、アイコンタクトの意味を理解できていなかったフェディアが心配そうに聞いてきたのを見て、セイクは安心させるように彼女の頭に手を置きながら質問に答える。


「リンのやつ随分張り切ってるな」

「そういえばリンって時代劇とか好きだったわよね」

「ああ、それでノイフに来てから妙にテンション高かったのか」


 店の奥から回ってきたケンとシェミルが、そんなことを言いながらセイクの隣に立つ。この世界に来てからは触れることがかなわなくなっていたが、元々リンは祖父の影響で時代劇などが好きであり、時代劇や戦国ドラマのようなものは番組表にかじりついて録画を欠かさないほどである。

 もちろん持ち前の正義感があることは前提として、その時代劇に近いシチュエーションであるこの状態は彼女としても憧れたものなのだろう。


「ぜやぁッ!!」

「しゃぁッ!!」


 獣人二人は、リンを挟んで左右からそれぞれの武器を振り下ろす。身体能力に任せたような振りだが、その身体能力そのものが突出していればそれだけで十分な威力は保たれる。それに、獣人二人は武術の心得は薄くとも、二対一で戦うことには慣れているようで的確にリンの動くスペースを潰すように動いている。


「オラオラッ、威勢が良かったのは最初だけかぁ!?」


 言葉こそ強いが、何度も武器を振るっているうちに獣人の二人にも違和感が芽生えてくる。そう、まともに攻撃が当たらない。それどころか最初のころよりも紙一重で避けられる頻度が明らかに増えている。そして、


「「なっ!?」」


 リンが狙っていたのは、相手の攻めが雑になり挟み撃ちのはずが横に並んでしまったその瞬間。二人の持つ武器を腕ごと跳ね上げる。武器を弾き飛ばし無力化する予定であったが、握りしめる力が強く武器を手放すことができなかったことを確認すると、すぐさま刀を納刀し居合切りの構えのまま二人の間を駆け抜ける。


「斬鉄閃……まだやるかしら?」


 リンが刀を収める音と共に、獣人の武器はカランと音を立てて刃の部分が切断されていた。


「ひ、ひぃぃぃ!!!」

「お、覚えてろ!!」


 目の前で起きた信じられない光景を見て、二人は腰を抜かしてその場から逃げていくのであった。


「大丈夫、店主さん?」

「え、ええ。ありがとうございます。この辺りじゃ見ない顔だけど、強いんですね……なんとお礼をしたらいいか」

「気にしないで、見ていられなかったから動いただけよ」


 その強さに目をぱちぱちとさせながら、お礼を言う店主。リンがセイクたちと合流して再度店内を見て回りましょと提案しようすると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「人外が騒ぎを起こしていると言われて来てみれば……またお前らか」


 セイクたちが後ろを振り返ると、そこには昨夜あったばかりの浪人ことワギサリがため息交じりにいるのであった。


  



 



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