第百九十一話 道具屋
「それで、これからどうする気なの?」
セイクたちがワギサリに言われたとおりに街道を歩いていくと、周りの平屋と違いやや豪勢な木造の二階建ての建物が現れた。ノイフの宿屋とは比べ物にならないほど質素なものであったが、ゆっくりと休むことができるだけで回復ができるのでありがたい。
「またあの道辿って帰る? 回復させてくれれば多分開けるけど」
「この街も転移石が妨害されてるみてぇだから、帰るならあの道からだな」
「私も里に帰るための魔法使えませんからね……」
すっかり日も落ちた宿屋の中で、セイクたちはこれからのことについて話していた。手詰まり気味であった第七の街での探索に、大きな進展が出たというのは間違いない。
その一方で、宿屋でとりあえずのHPMPなどは回復できても消費アイテムは切れかけているのもあって、ここで引き返すのも手だというのもある。
「ちなみに帰ったとして、またここに戻れる保証はありそうなのか?」
「えっと……それは厳しそうです」
「入ってきた亀裂ですが、魔力の流れから見つけたものです。あの迷路のところまではいけそうですが、そこから先は再度隠蔽のための処置をされていても不思議ではありません」
つまるところ、あの迷路から先に行って戻れるかの保障と、また亀裂を見つけてここに戻ってこれる保障はないとフェディアとフェニックスの二人は言っているのだ。
「それなら明日はここらの探索としないか? 多分だけど、また何度でも入れる出入口ぐらいあるだろう。それを見つけてからでも遅くはないさ」
「確かにそれもそうだよな。せっかく一番乗りしたんだ、楽しまなきゃな」
「リーダーの決定とあれば従わなくちゃね」
セイクの決定を聞いて、パーティーメンバーたちは嫌な顔一つせずに従う。この閉じ込められた世界と化した今でも、このゲームを楽しむ気持ちを第一に考えて進むからこそ、彼らは攻略組の第一線で戦い続けられているのだろう。
次の日、すっかり回復した夜明けのメンバーはこの朧町を散策することにした。入ってきた穴から、ワギサリの家までは歩いたおかげで街を横断したが、街の左右に関しては全く見て回れていない。もう一度ワギサリに案内してもらおうかとも思ったが、早朝にワギサリの家に行っても彼は居なかった。
「それにしてもこの視線はどうしたものかね」
「ううっ……私がいるからですかね……」
「そんなことないさ、フェディアは悪いことしてないんだから堂々としていればいいさ」
しょんぼりと肩を落とし、隠れるようにフェディアはセイクの服の端をつまんで歩いていた。ワギサリの話によると、この街の住人は人外に対して不信感と恐怖を持っているようである。そのため、フェディアの対しての目線は、ただのよそ者に対する不信感を超えたものを持っていた。
心臓に毛が生えたようなメンタルをしているのならともかく、里を出て一年も経っていないフェディアにとって、待ちゆく人に怪訝な視線を浴びせ続けられているこの状況は、たとえ自分が悪くなくても滅入るものがある。
「ね、ここ道具屋みたいだよ」
「……いらっしゃい」
しばらく歩いていると宿屋ほどではないが、ただの平屋よりは活気のある建物が一つ目についた。看板の文字は墨が掠れてよく見えないが、道具屋の文字と棚に広げられた消耗品から店の正体を断定できた。
やつれた頬に無精ひげを伸ばしたままの店主は、一度フェディアを見て怪訝な視線を見せたがそれを感じたセイクが精いっぱいの睨みを効かせるとそそくさと視線を外した。
「助かった、もうHPポーションの在庫もなかったからな」
「私もMPポーションは残り一つでしたわ」
「逃走補助系のやつも買っておきたいわね」
回復薬などのストックがもうほとんどないのもあって、ケンたちは助かったとばかりに店内に入っていく。だが、ここでひとつ違和感があった。
(なんだか妙にグレードが低くないか?)
セイクが店の奥に入り手に取ったのは至って普通のHPポーション。効果自体はノイフでも売っているものだが、その効果値は三つ四つほど前の街の店売り品と変わりないものであった。いくらNPCの店売り品だとしても、ここまでグレードが下がるのは不自然なものがある。
効果の割に割高ではあるが、ワギサリの話を考えればこの貧しい街ではこのレベルでもないと生活ができないのだろうと想像を巡らせ、納得するとセイクは必要な分の消耗品を購入しようとしたその時、
「おうおう、相変わらずシケてんなぁ! この店は」
「いつものやつ頼むぜぇ~!」
店先からそんな声が聞こえた。もちろんパーティーメンバーの誰かの声でもない。セイクがその声に釣られて見てみると、二人の男が道具屋の店主を店先で脅していた。
だが、その二人の外見はまるで狼男という外見の男と猫のように吊り上がった目と獣耳を持つ人外としか言えないものであった。