第十九話 新アーツ
ライトが中位職へとなった次の日、彼はグレンデンの町の外にいた。
グレンデンは町の外に出る道が二本あり、片方は山道もう一方は林道となっている。昨日のライトは林道の方を散策し、忍者になるためのイベントを発生させた。
なので、今回は山道の方を散策していた。道中は順調であり、その理由は、
「やっぱ取って良かったな『短刀』のスキル」
ライトが昨夜新しく取得したスキル『短刀』の恩恵が大きいだろう。
このAWOでは新たにスキルを取得する方法として、スキルツリー型を採用している。
スキルツリー型とは、levelアップなどで貰えるポイントを使ってスキルを取得したり、上位の物を取得したりする方式である。
例えば魔法のスキルしか持っていない者は、いきなり剣の上位スキルである刀を取得できない。刀のスキルが欲しければ、まず剣のスキルlevelを上げてからでなければ取得はできない。
ライトは、昨日ソウジに譲って貰った短刀を使えるようにするためにも『短刀』のスキルを取得する必要があった。
なので今朝今まで集めた、levelアップでのポイント(AWOではEXPと呼ばれる)を使って短剣の上位スキルにあたる『短刀』を取得したのだ。
「さて、新しい武器の試し切りは終わった。次は、新アーツの試運転だな」
今しがた襲ってきた鳥形のモンスター、ロックバードを倒したライトは、そう呟いて辺りに敵が居ないかどうかを確認する。
今からライトがしようとしていることは、忍者になったことにより増えた新アーツの試運転である。
何が起こるかが詳しく分からないので、こうして辺りに敵が居ない事を確認していたのだ。そして、敵が居ない事を確認し終えると、
ライトがその新アーツ説明に書かれたとおりに、左手を拳を握った状態から人指し指と中指を立てた状態にする。そして、そのまま左手を自身の前に持ってくると、
「『分身』」
アーツを発動させる。すると、
(ん? こんな所に鏡なんてあったか?)
ライトは思わずそんな事を考えた。今、自身の目の前には自分と同じ姿をした男が立っており、ライトが右手を上げればその男も右手を上げる。
そして、ライトがその場で後ろを向いたその時、
「!……そういう事かよ、中々に面白いアーツじゃねぇか」
視界が増えた。というのも、そのとおり前と後ろが同時に視界に入ってきていたのだ。
ここでライトは理解した、『分身』というアーツを。
このアーツは使用したプレイヤーの分身を作り出し、その五感は全てリンクする。それが分身の本質であり、だから視界がリンクした分身の視界がライトに流れ込んできた。
これがライトの視界が増えた原因である。
「このアーツ……面白いけど、普通だと使い物にならんな」
ただ、分身の最大の問題点とも言えるのは、その五感のリンクである。
いきなり視界が二つになれば人は混乱し、まともな戦闘は行えない。それどころか日常生活すら難しいだろう。
ただ、この男、谷中光一は既にそんな『普通』では無くなっている。ここに居るのは、普通だった少年『谷中光一』ではなく、神の従者『谷中光一』なのだから。
ライトはその場で座り込むと、下を向いてしばらく何かを呟きながら動きを止めてしまう。
ライトの座り込んだ回りを、同じ姿の分身がときおり歩いたり、走ったりと動く姿は中々に不思議であった。そして、五分ほどだろうか、ライトが座り込んでから。
それぐらいの時間が立ったところで、ライトは急に立ち上がる。
「……よし、完成」
そう、小さくため息のように呟くと、ライトはその場から手頃なモンスターを探す。
すると、二十メートル程先にロックバードの姿があった。ライトはそれに狙いを定めて投石の構えをとると、思い切り石を投げる。
投げられた石は、ロックバードの鼻先を掠め、少し怯ませることに成功する。それに怒ったロックバードはライトへ向けて突進を仕掛けようと体の向きを直そうとする。
しかし、
「グッ……ギィ!」
「遅い」
怯んだ隙に、ステップからスラントさらにステップという三つのアーツをチェインして、高速で接近したライトに先に攻撃されてしまう。
あくまで攻撃は、通常の切りつけだったのでロックバードのHPはまだ残っている。ロックバードは攻撃後で、隙のあるライトの背中に突進をかまそうとした。が、
「ギャ!?」
その背中を何者かに深く切り裂かれた。その一撃はロックバードの残りHPを削りきり、ロックバードは消滅する。
「ふむ……やっぱり忍者になって正解だったな」
そう、小刀を背中の鞘に差し込みながらライトは呟くとまた歩き出す。
そしてその後ろを¨もう一人のライト¨がついて歩いていた。
先日PVを見たら、千を越えるアクセスがありました。
これもこの作品を見てくださる皆さんのお陰です、ありがとうごございます。
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