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第百八十四話 特上の宿

「どういうつもりだぁ!? せっかくいい気分で喧嘩できていたのに」


 ライトとしてはこれ以上の闘いになると過剰集中オーバーコンストレイションの札も切ることになりそうだったので、中断は願ったりかなったりである。が、獅子目はそうではない。喧嘩に水を差されたことで、イラつきながら声の主の方にずんずんと歩いていく。


「どういうつもりだはこっちの台詞セリフだ。街中で貴様が全力を出したらどうなるかくらい分かっているだろう」

「うっ……」


 しゃくを持った女性が獅子目に告げると、痛いところを突かれたとばかりに彼女は言葉に詰まる。

その女性の後ろに、部下らしき男性の獣人が二人ほどいるがそちらは獅子目の威圧に若干怖気づきながらライトの方をチラチラと見ている。


「それに、人間相手に全力を出すなどらしくないな。喧嘩は楽しむがお前の心情じゃなかったのか」

「だからだよ、こいつには全力出せる相手だと思っただけだ」


 その言葉を聞いて、信じられないといった様子でその女性はライトの方を見る。連れであろう妖精たちと話している姿を見ても獅子目が本気になるほどの実力があるとは感じられない。


「喧嘩が途中になって悪かったな、織枝おりえのやつが水を差さなきゃもう少しやれたんだが」

「別に気にはしないが、宿と説明の約束も流れたってことでいいのか?」

「いや、こっちの知り合いが迷惑かけたからな、最高の宿を紹介するぜ」


 織枝と呼ばれた女性を、背中越しに親指で指差しながら獅子目は謝罪をはさみ歩き出す。何やら獅子目に耳打ちした後に、織枝は一度苦い顔をしため息をつくと歩き出した。獅子目はこちらについてこいと目線で合図をすると、織枝の後ろをついて行く。


「ね、ついて行くの? 行かないのもできそうだけど」

「とりあずついて行きたいとは思ってるぞ。今から他の宿探そうにもめんどくさいし……それに」 

「人間の姿が見えないことも気になるからね。私もついて行くに賛成だよ」


 日が落ち始めたことで調子が出なくなってきたのか、背中にもたれかかるように飛びついてきたトイニをライトは背負う。野次馬たちも解散しだし、人の波から出てきたリースは獅子目の後について行きたいとばかりに歩を進める。

 ライトからすればリースがそう言うのであれば、それが一番だとばかりに歩を進めようとしたが、一応人混みの中でリースを守ってくれていたミユの方にも目線を向けると『私はご主人様(マスター)に従うだけです』とばかりの目をされたので腹は決まった。




「着いたぞ。しばらくはここに泊まるいい」

「うわ、すっごいおっきい」


 獅子目が立ち止まったのは街の中心に近い場所。いくつかの関所のような門をくぐった先にある巨大な屋敷であった。どう見ても宿屋のようには見えない巨大な門がライトたちの前に立ち塞がり、その大きさに見上げていると獅子目がそれに片手を付けると、まるでそこらの扉でも開けるかのように門は軋みながら開く。


「姉御! こっちから開けるって言ってるじゃないですか」

「うるさいなぁ。だったらもっとシャキシャキ開けな、私一人で開けられるような扉なんだからさ」


 門を開くと、街にいた亜人よりはきっちりした服装をした男たちが獅子目を迎えしれその流れでライトたちも屋敷の中に案内されるのであった。


「こちらが客間になります。お手洗いはそこの扉を出て左となりますので」

「あ、どうも」


 屋敷の中に入ると今度は着物を着た女性、その額には小さな角が見える亜人が案内を担当し部屋に案内された。こちらは宿屋の一室というよりは、名家のお屋敷にある上等な客間の一つといった印象を受ける部屋であった。


「お嬢様が呼んでいますので、荷物を置いたのちに松の間に来るようお願いします」


 それだけ言って案内女性はどこかに言ってしまう。松の間に関しては、ここに来るまでに一度案内されたので道は分かるが、わざわざ呼び出すとは何の用なのだろうか。



「よ、早かったな」

「特に荷物が多いわけでも無いんでね」

「それじゃあ始めるか、肴にするほど気持ちのいい話ではないのは先に言っとくぜ」


 松の間に入ると、人数分の膳が置かれたその上座に獅子目が巨大な瓢箪を片手に座っていた。どうやら、ようやくこの街の謎について知れるようだ。




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