表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/220

第百七十四話 お祝い

 オオベンケイを撃破したカガ達は疲弊した顔をしながらも、仕事を終えるためにヴィールが泊まり攻略組の仮拠点としている旅館にへと向かう。これまでの街とは違い、日本風の建物や景色の懐かしさに大抵のプレイヤーは辺りを見渡しながら歩くものだが、カガ達は数時間単位で四畳もないようなスペースに押し込められていた疲労でそれどころではないようである。


「ヴィールさん……これが今回のボスの行動動画です」

「おう、お疲れ」

「ヴィールさーん、こうなること分かってて記録役押し付けたでしょー……」

「もう体バキバキだよ……中断もできないからずっと気を張りっぱなしだったし」


 いつもは元気のいいムードメーカーなシラとキサも疲労が隠せないようで、》運び(キャリー)ついでにボスの記録役を押し付けられたのを愚痴っているくらいである。


「それで、あの男の強さについては何か分かったか?」

「前に話した通りですね。大会データからの分析から大きな違いはないかと」

「そうか、それならいいんだ。後はこっちでやっておくからもう今日はいいぞ、温泉でも入っていけ」


 ヴィールがこの旅館の部屋鍵を投げ渡すと、シラとキサは軽いお礼を言って勢い良く温泉の方に駆けていった。


「ちなみに、もう何回か運び(キャリー)と記録役を頼みたいっていったら……」

「断ります」


 去ろうとするカガにヴィールが再度依頼をしようとしたが、食い気味に否定されてしまうとそれ以上は追求せず、メニュー画面を開くと戦闘装備に切り替え街の外に向かうのであった。





 ライトが攻略組の運び(キャリー)を引き受けて数日の間、最新の街に入ることのできるプレイヤーも増えている一方でセイクらはというと。


「やっと夜明け(アマネラセ)が集合で来たな」

「ヴィールがボスの行動パターンまとめ動画をくれたからな」

「ライトに付き合わされた人達はかわいそうだけどね」

「それもそうね。私ならあんな狭いところで数時間も待てないわよ」

「私もあんなに待つのはちょっと遠慮したいですわね……」


 夜明け(アマネラセ)のメンバー全員でのオオベンケイ撃破を成し遂げていた。ヴィールからオオベンケイの行動パターンのデータを貰い、全員で分析をした結果一度も大きなピンチもなく撃破を成し遂げたのだ。

 フルパーティーということもあり、ライトの討伐よりもかなりの速さでの撃破を達成し、これは攻略組含めても最速タイムという偉業であった。


「今日は北の方に行くんだっけ?」

「今のところ西と東は捜索が進んでるけど、東の方はさっぱりなんだよね」

「あそこが一番レベル高いからフルパじゃないときつそうなんだよね」

「ヴィールさんたちも、もう少しメンバーが揃って来てからじゃないと行かないと言って

いましたわね」


 ヴィールたち攻略組は予定より早くに第七の街に入ってしまったことから、今だいつものメンバーでパーティーが組めない以上、運び(キャリー)を繰り返し少なくとも攻略組の幹部と一軍クラスが揃ってからではないと本格的な攻略には繰り出さないと宣言しているのだ。

 

鋼鉄の呼び声(アイアンコール)!」

「断空!」


 鬼のような外見に武者のような鎧を着たモンスターの群れに襲われたが、その武器がほとんど鉄製であったのが幸いし、ケンのスキルが持つ磁力を操る力で弓矢に刀、槍の動きを制限することで安定した戦闘をこなしていた。


「意外となんとかなりそうだな」

「近接組はいいけど、私たち後衛は割と消耗が多いわよ……」

「そうですわね、強めの魔法じゃないとダメージの通りも悪いですし」

「結構奥までこれたし今日はもう帰ろうか、そんなに無理する場面でもないしさ」

「そうね、私もMPポーションの残量が減って来たし戻りましょ」

「早く帰って温泉入りたいわね、ここのお風呂はすごいわよ」

「ホント!? ここに来てから温泉入れるなんて夢みたい」


 アイテムボックスの中身もドロップ品で埋まり、温泉街としての第七の街の観光スポットについて盛り上がりながら帰る一同。この時までは、ポータル防衛戦という大きなイベントも乗り越え、新たな街も解放されてプレイヤー達の士気はかなり上がっていた。


 しかし、それは長くは続かなかった。


「おい……なんだよ、これ」


 セイクたちが街に戻って来たその時、街のポータルの上空に黒いフードを被った巨大な人影が出現していた。この世界のプレイヤーが一度たりとも忘れたことのないその人影、


『あー、あー、聞こえているかな……よし、大丈夫みたいだね』


 ただ、その声は違っていた。この世界のデスゲーム化を伝えたあの声は加工されてはいたが、男の声であったが、今の声は加工すらしていない女の声であった。


『ポータル防衛クリアおめでとー、色々あって遅れちゃったけど祝っておくよ。第七の街に入ったプレイヤーも多いみたいだし、これはそのお祝いさ。それじゃあみんな頑張ってねー』


 あまりにも軽い声と共にフードの奥で何かを操作するとプレイヤーに向けて、運営からのメッセージが届いたと思えばそれを確認する頃にはフードの人影が消えてしまっていた。


「『メモリートレード』だと?」


 ヴィールが開いたそのメッセージには、『メモリートレード実装のお知らせ』という題目で新たな要素の追加が書かれていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ