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第百七十ニ話 記録

「それじゃあ先にこれ渡しとくから、そっちの判断で消費しといてくれ」

「これは?」


 ボスが出現する前にライトはアイテムボックスから一つ袋を取り出すと、カガに押し付けるように渡してから前に出る。

 濃霧の先、山なりの構造をした橋の頂点にオオベンケイの気配を感じたライトは、短刀を構え集中コンストレイションを発動して戦闘に備える。



「シラ、ハイドの魔法を」

「え? で、でも」

「いいから」


 ライトが戦闘の準備を始めるはるか後方、カガはシラに気配を消す魔法をかけるように指示をする。やはりサポートなしで戦うのは無茶だと思っているシラは、一度は反論しようとしたがリーダーであるカガに押し切られて魔法を発動する。

 シラたち四人を覆うように半透明の壁が四方に出現し、よほどの事をしなければこの壁の中のプレイヤーに相手モンスターが気づくことはない。その一方で、壁の外に攻撃をしようとすれば強制的にこの魔法は解けてしまうのでライトの戦闘サポートはかなり難しい。


「いいのか、カガ」

「あいつがいいと言ったんだろ。それよりも、望遠結晶と記録結晶の準備はいいか」

「オッケーだよ」


 四畳半ほどの小さな空間で、キサとネロの二人は映像を記録できるアイテムとズームができるものを組み合わせたものを設置していく。攻略組では強敵の行動データをとることも重要な仕事であり、今回は運ばれることが最重要であったが、この仕事もこなせるのなら大きな成果となる。


(ヤツの妙な自信を暴けるのなら、ヴィールさんへのいい手土産になる)



「貴様、良い刀を持っておるな。その獲物、ワシのコレクションに加えてやろう」


 オオベンケイがお決まりのセリフを話すと、辺りの濃霧が晴れだしイベントの拘束が解かれてライトの体が自由に動くようになる。


「剛体」


 まずは身体強化のアーツを使いオオベンケイの初撃を大きく飛んで避ける。さらに後ろに飛びながら、取り出した白い球を投げる。そんなものは食らわないとばかりに、オオベンケイは薙刀でそれを叩き落す。が、それは煙玉であり一瞬とはいえ敵からの視線を完全に塞ぐ。


「ぬぅうん!」 

 

 オオベンケイはそれがどうしたとばかりにライトがいるであろう辺りめがけて、身の丈ほどもある長刀を振るう。


「むっ?」


 その薙刀がライトを捉えることはなく、それどころか切り裂かれた白煙の中から五人のライトが短刀を手に襲い掛かってきた。

 

 ある分身は首に刃を突き立て、ある分身は甲冑の隙間である関節部位を執拗に攻めて機動力を削ごうとする。とにかく高機動を活かした徹底的な立ち回りは、オオベンケイの鈍重な動きでは捉えることができない。


「遅い」


 苦し紛れとばかりに突き出された薙刀は避けるどころか、その上に乗って回避されまたオオベンケイの首に赤いエフェクトが舞った。今まで目視できないほどしか減っていなかったHPが、指先程度には減った。致命判定が出やすい人型であるというのが幸いして、他のボスよりは削りやすいというのがライトの判断である。

 甲冑部分を除けば、ライトの体術でもダメージを与えられるのが幸いで、いつかのギガントゴーレム戦のようにそもそもダメージを与えられないという事態にならないだけマシである。





「ねぇ、カガ。今どのぐらい時間たった……」  

「今ちょうど三十分ぐらいだな」

「普通、運び(キャリー)って二時間はかからないぐらいじゃない……」

「今のところ一割削れたかってところだな」

「こ、こんなペースでリソースが持つとは思えないんだけど」

「青っちめー、これ分かってたから今回譲ったんだなー」


 記録用の結晶の調子を見ながら、キサとシラの二人はつまらなそうに話す。運び(キャリー)は確実に勝てるという戦力があって初めて実現するものであり、ここまで時間がかかりそうなのは前代未聞である。そもそもプレイヤーのリソースは有限であり、あまりに時間をかけすぎては倒せないという事態に陥るのが普通である。


「今からでも援護しにいかない? 今の五倍は火力でそうだけど」

「却下だ。そもそもボスの行動パターンも知らないのに適正レベル以下で戦うなど論外だろいう」

「そうだけど……このままじゃ私のMP無くなっちゃうよ。そしたら嫌でも戦う羽目になりそうだけど」

「それも見越してるみたいでな、これ見てみろ」

「うっわ、リジェネポーションと携帯食がこんなに。どうしたの、これ」

「さっきアイツから押し付けられた袋の中に入ってた。長丁場になるから食っとけ」


 ライトが戦闘開始時に渡した袋。その中には大量のポーションと携帯食の類が入っていた。ポーションはリジェネ式と呼ばれる回復量こそ多いが、時間をかけて回復する関係上フィールド探索中の安全地帯セーフゾーンでもないと使えない代物だが、この状況では最も効率の良い回復薬と言えるだろう。






「主の力を軽んじていたようだ。ここからは全力でお相手しよう!!」


 しばらく戦闘を続けていると、オオベンケイが叫ぶと同時に背中の籠からいくつかの武器が放出され宙に浮かびながらライトを襲い出す。


「うわ、あの形態変化はめんどくさそうだね」

「これだとパーティーの手数でも手こずりそうだ」

「帰還石使う? 一人であれは難しそうだし、硬いタンク役集めてからじゃないと厳しいでしょ」 


 シラたちはオオベンケイの第二形態を見て、帰還石を手に持つ。ライトの戦闘スタイルが圧倒的な速さと分身の手数で攻めるというのは理解できた。だが、あの第二形態はその手数の差を埋めてしまうようなものであり、ただでさえ削るのに時間がかかるというのにこのままではSPもMPも持たないだろうと判断したのだ。


「……待て」


 たが、その動きを望遠結晶を覗いていたカガが静止する。


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