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第百七十一話 運び手

 ライトが温泉から上がるころにはロズウェルの気配は無かった。浴衣姿で牛乳片手に温泉宿の中を歩き回ってみたが、それでも彼の姿は見えなかった。一度は共闘したとはいえ、最も危険とされるPKギルドの長だ。攻略組の幹部が二人もいるこの宿には泊まっていないのだろう。

 それから三日の時が経った、魂に負荷がかかったとリースから言われていたがようやく彼女から能力使用の許可が出た。それでも過剰集中オーバーコンストレイションを長時間使うことはまだ止められているが、集中コンストレイション並列思考パラレルソートを使う分には痛みもなく使える。


「体調はもういいのか」

「ああ、とりあえず八割がたな。あの時の力は使えないが、ほぼ全快だ」


 早朝に光一はヴィールの部屋を訪れていた。ロズウェルの力に飲まれた時に、そのまま消滅する覚悟すらしていた光一を助ける計画を建てたのはこのヴィールなのだ。正確に言うならライトがロズウェルに単身戦いを挑みにいったのを知ったセイクやロロナが、ヴィールに相談して救助隊を作ったのだが、ライトにはヴィールが先導して救助したように伝わっていた。

 ヴィールからしても、攻略組に入る気はないのに高いプレイヤースキルを持つライトに恩を売るのは悪くないと思って特に訂正はしていない。


「それじゃああの件については了承してくれたってことだな」

「一応恩人だからな、これぐらいの恩は返さないと」

「それなら攻略組に入って貰ってもいいんだが。ロロナのやつも喜ぶぞ」

「そんなこと言ってないヨ!」


 ヴィールの言葉を食い気味に叫びながら、部屋の襖を開けてロロナが入ってきた。


「ちょうど来たか。案内頼むぞ、ロロナ」

「モウ……また誤魔化して。ライト、案内しながら説明するから着いてきて」


 ヴィールに言い返す気も無くしたロロナは、一度ため息をついてからライトについてくるようにジェスチャーをして部屋から出ていく。他の街に残した攻略組との情報交換で忙しいのか、ヴィールはそれ以上何も言わず部屋を出ていく二人に視線を向けることなくチャットウィンドウとにらめっこをしていた。



「ライトはキャリーの仕事ハ初めて?」

「一度だけやったことはあるが、その時は一人だけだしキャリーというよりパーティー組んだ感じだったな」


 攻略組などの大きなギルドではキャリーと呼ばれるテクニックがあり、これは生産職などの非戦闘員を次の街に送るための行動で、ボスを十分に倒せるプレイヤーが非戦闘員をパーティーに一時的にいれて、代わりにボスを倒すというものである。

 

「コノ街だと結構いい素材はとれるんだけど、それを加工する人がいないんだよネー」

「前の街に素材だけ送るんじゃ駄目なのか?」

「最新素材は最新の街の設備じゃないと加工できないんだヨ。知らなかった?」

「ソロの戦闘職だと知る機会もなかったんでな」


 ロロナの案内でひとつ前の街に戻ると、ボス部屋前の広場に四人のプレイヤーが待っていた。


「げっ、もしかして今回の運び手(キャリアー)ってアンタもっすか!?」

「ヴィールさんにしてはなんか文面が変だと思ったんだ……」

「ロロナさんだけならまだしも、何故こいつが」


 その内三人はいつか見た黄、赤、緑色の髪をした男たちであった。かつてライトからマップデータをカツアゲしようとして、返り討ちにあったパーティーのメンバーであり、いまでもそのことは根に持っているようである。


「今回のキャリーの補助役のシラだよ。なんだかネロたちが睨んでるけど知り合いだった?」

「ヴィールからの依頼できたライトだ。いや? 特に知っている仲ではないが」


 しかし、ライトからすれば特に覚えている必要もないので、記憶復元メモリーリペアを使わなければ思い出せない程度の相手なのだが。

 シラと名乗った白髪の少女が差し出した手を握り返し、軽い挨拶をしている間にもライトのことを睨んでいる男たちをいい加減にしろばかりにロロナが睨むと、彼らはしぶしぶと自己紹介をしだす。


「攻略組のネロだ。ジョブは狩人で獲物は弓だ、後方支援なら任せてくれ」

「同じくカガだ。ジョブは魔導士で補助系もいけるぞ」

「ボクはキサだよ。ジョブ怪盗シーフだよ、逃亡の時ならバッチリサポートいけるからね」


 そんな自己紹介を受けている間にロロナはヴィールへの連絡を済ませたようで、後は任せたと言わんばかりに親指を立てるとまた第七の街の方に戻っていった。


「じゃ、ここでぐだぐだしててもしょうがないし行くか」

「え? も、もう行くんですか?」

「まずは作戦を練ってからだろう。補助の合図やカバーのことについても話合わないと……」


 元のパーティーでもリーダーであったカガが、これからの話し合いを仕切るようにライトを静止する。


「そんなことするのか? 普通に倒せるんだから、お前らをあっちに送り届けて任務完了だろ?」

「またまたぁ、いくらヴィールさんのお気に入りだからってそんな強がり言わなくていいっての」


 ライトからすれば、ソロで倒せたのだから残りのメンバーを無視して倒せばいいと考えているのだが、それは少し違う。攻略組でもキャリーとはよほどレベルに差がある場合を除いて、あくまでパーティーで倒せるプレイヤー数人と運ばれるプレイヤーが協力してボスを倒す行為のことを指す。

 カガ率いるパーティーは、ロロナやヴィールのような攻略組の幹部クラスかつ単独戦闘力が凄く秀でているわけでないが、戦闘慣れもしており統率力もあり攻略組一軍と呼ぶにふさわしいパーティーである。


 だからこそ、ライトと組ませ協力すれば最新のボスでも十分に倒せると踏んで、ヴィールは依頼を出したのだ。


「……いや、そこまで言うならアンタに従おう。どうせキャリーされるのはこっちなんだからな」

「ちょっとカガさん!? そんな無茶な」

「それじゃあとっとと行こうか。補助は火力アップにつながるやつだけかけてくれ、それ以外はいらない」 


 カガは少し考えるような間をとったが、すぐにライトに同意するとボス部屋に向かう彼の背中を追った。


「ねえカガ、こんなことになっていいの? 全滅しても知らないよ」

「心配するな、ここでやつの自惚れを正しておこうと思ってな。帰還石は人数分用意してある、危なくなったら全員で帰還するさ」

「カガも意地が悪いな、いよいよとなったらそれを交渉材料にやつを引き込む気だろう」

「バレた? だが、それが出来ればヴィールさんも俺たちのことを認めてくれるだろ」

「それもそうだね。今からアイツが慌てる姿を見るのが楽しみだよ」


 ボス部屋に入るまでの間、小声で会話する三人がそんな想像をしているとはつゆ知らずライトを先頭に彼らは石の鳥居を潜るのであった。




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