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第百七十話 肩の荷

「話すのは構わんが、先に話すのはそっちだぞ」

「仕方ないね、そこは敗者として受け入れるよ」


 ロズウェルは長く息を吐き、風呂のへりに体を預けリラックスした姿勢を取りながら話始める。


「ボクがこの力を貰ったのは二年ほど前の事さ」


 


 二年前、現実世界のロズウェルは体の弱い少年であった。幼い頃から入院しがちで、はげしい運動などは医者の制止が出てやった記憶がない。さらに、親も転勤が多い職についている関係で、まともな友人関係を築くこともできなかった。

 

(暇だなぁ……)


 用意していた本も読み切り、ゲームもあらかたクリアしてしまった。暇を持て余した彼は、せめて楽しい夢でも見せて欲しいと願いながら、ゆっくりと目を閉じて眠気に体を任せるのであった。

 

「こんにちわ。いや、初めましてと言うべきかな」

「うわっ!?」


 次に彼が意識を取り戻したのは、見渡す限り真っ暗な空間であった。どこを見ても一面黒だというのに、目の前でふわふわと浮かぶ少女だけは不自然なまでにくっきりと認識できた。


「私の名前はオネイロス。夢と現実の挟間を司る神だよ」

「神?」


 目の前の少女は何を言っているんだろうか。いくら夢と言えど、神を自称するなんてうさんくさい宗教家か中二病のどちらかぐらいしか思い当たらない。


「この世界は私の力を増幅してくれる世界、あなたがどんなことを想像しているかくらいお見通しさ」

「!?」


 ほんの少し視線を横に移しただけだというのに、次の瞬間オネイロスと名乗った少女は数メートルは離れた場所から一瞬で自分の前に移動していた。それだけでも人外だが、さらに少女は重力すら問題にしていないかのように上下逆さの姿勢で彼の眼前で浮遊していた。


「まあ、私は神様だからね。ちょっとした人間の失礼くらいで腹は立てないさ。仏の顔も三度までだっけ? 人間たちの間で有名な言葉。だから一度目は許すよ」


 まるで、大人が小さな子供を相手にするような余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった態度をとりロズウェルの頬に手を添える。


「これは契約さ。私の従者となって働けば、そのうち君は新たな神として迎え入れられるだろう。そうでなくともベットの上からロクに出れない生活からは解放されるはずさ」

「……」


 黒とショッキングピンクが混ざったような瞳に見つめられたロズウェルに、首を横に振る選択肢は残されていなかった。







「ボクと彼女の出会いはこんなところさ、それから色んな人の夢に潜って肩慣らしをしてから今に至るってわけさ」 

「なるほどな」

 

 身の上話を終えたロズウェルは、大きく伸びをして遠い目をしていた。ライトと同じく神の従者の事を誰にも明かしてこなかったのだろう。それを話せる相手ができて肩の荷が下りたのかもしれない。


「でもポイントの使い道と言われてもあまりピンと来るものもなくてね、回収した神の力(ゴロゾア)を通貨みたいに扱うのは分かるけど、取れる恩恵の詳細が分からないんじゃあね」

「俺は……特にそのあたりを交換したことはないな」


 そういえばそんなこともあったな、とロズウェルの言葉で思い出した。神の従者にも人間でいうところの賃金のようなものがあったことを。そうはいっても、光一はまだ交換をした経験どころか、いま現在どれだけの貯蓄があるかすらも知らない。そもそも、ただの一般人モブであった自分に従者として期待をかけてくれている現状に満足しているのだが。


「へー、それじゃあ最初に貰った能力だけであの強さなんだ」

「戦闘に使えるのはメインで貰った能力ぐらいだけどな。後は完全翻訳とかだから」


その言葉に何かロズウェルは違和感を覚えた。


(恩恵の交換をしていないのに、完全翻訳という二つ目の能力がある? となれば神が直接介入した? 戦闘力を上げたり最初に貰った力を補助するのなら分からなくもないが、恐らくそれでもない。この神は一体何が目的なんだ……)

「何かあったか」

「いや……そろそろのぼせてきたからボクは上がろうかな」

「俺はもう少し浸かってから上がるさ」


(彼は気づいているのだろうか、その妄信とも言える信頼が異常であることに) 


 ロズウェルは最後にちらりとライトの方を見ると、まるで狂人を見るような目をしてその場から去るのであった。


 


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