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第百六十九話 温泉

「よっと……」


 深夜、静まり帰った旅館。障子を開きのっそりとライトは廊下に出た。食事の後に解散となり、病み上がりのライトは今日は部屋で待機していろと言われ、一人部屋で時間を潰していた。

 リースもライトの無事を確認すると帰ってしまい、トイニとミオは回復の為に帰還させている。複数人で使う目的の部屋に一人でいると、静けさで耳が痛いくらいである。少し前ならばそれほど気にもせず、とっとと寝るか他の事でもしていたのだが、嫌というほど寝ていたので眠気は微塵もない。

 

 自身操作マインネッターを使って無理矢理に眠気を誘発することはできるが、ここまで大きな宿に泊まったことは現実含めてもそうそう経験があるものではない。調べるといくつかの施設はまだ空いているようなので、夜の散歩としゃれこもうとばかりに部屋を出たのだ。


(さすがに閉まっているところが殆どだな)


 旅館内には様々な施設があるが、深夜というのもあって開いている施設は僅かである。軽い軽食を出すバーのような場所で適当につまむとこの時間でも入れる温泉の方に向かってみることにした。


(よく考えると、この世界で湯船に浸かるなんて初めてかもな)


 この世界では湯船がある宿屋はかなり金額が上がる割に、特に効果があるわけでもない。金銭的な問題はともかく、ライトはそのあたりに頓着する性格でもないのでシャワーが付いている宿屋ばかりに泊まっていた。そんな彼でも豪華な温泉となれば多少は興味が出るものである。


「ふー、こんな豪華な風呂を貸し切りなんて贅沢だな」


 ゆったりと湯に浸かるとそんな効果があるわけではないのに、体の芯から疲れが溶けていくような気がしてくる。湯船のヘリに体を預け、空を見上げると雲一つない夜空に浮かぶ満月があり、いつまでも見ていられそうな気がしてくる。


(誰だ……?)


 しばらくのんびりしていると、遠くの方で誰かが湯船に入る音が聞こえた。自分のように、寝れずに風呂に入って来たのだろうか。この街に来ているプレイヤーはごく僅かであり、その中ではヴィールあたりが入ってきそうだなんてことを考えながら近づいてくる水音の方に目を向ける。


「やあ、こうして話すのは久しぶりだね」

「何しに来た」


 近づいてきた影はロズウェルであった。ヴィールからの報告で街に来ていたことは知っていたが、まさか同じ宿屋に宿泊しているとは思わなかった。それでも、瞬時に集中コンストレイションを発動し立ち上がると構えをとる。鈍い痛みが目の奥に走ったが、ロズウェル相手にそんなことを気にする余裕はない。


「おっと、そう殺気立たないでよ。別に事を荒立てに来たわけじゃないんだからさ」

「どうだか」

「そもそも宿屋の中じゃ同意なしに戦闘はできないでしょ」

「あ」


 剛体のスキルが不発になったところで気づいた。特殊な状況を除き、宿屋などのセーフゾーンと呼ばれる場所では戦闘スキルを発動する事も、ダメージを与えることもできない。その辺りのルールを破れるのが神の従者なのだが、目の前の男はそういった力を使う気もないらしい。


「ボクがいなきゃキミ、死んでいたんだから恩人には優しくしてほしいな」

「その原因を作ったのもお前だろうが」

「バレた? それよりも座ろうよ、男二人で向かい合うのも変だしね」


 いい加減冷えて鳥肌が立ってきたのを感じて、ゆっくりとしゃがむ二人。傍から見れば話すことなどなさそうな二人だが、神の従者という共通点からロズウェルが口を開く。


「いやー、ここはいい湯だね。他の樽みたいな湯船じゃ疲れが取れないし、やっぱり手足の伸ばせる温泉じゃないとね」

「早く本題に入れ。お前と無駄話に花を咲かせる気はないんでね」

「そこまで邪険にしなくてもいいじゃないか。他の神の従者に会うのは初めてでね、色々話したいこともあるのさ」

「……俺は他の従者と会ったことあるけどな」


 ロズウェルの言葉に思わず反応してしまった。ライトの言葉に興味深そうにこちらを見る視線に“やってしまった”と後悔してももう遅い。


「へー、キミの方が先輩なんだ。それじゃあボクが勝てなくても仕方ないかな。それよりも、もう少し話を聞かせてよ、スキルビルドとか聞きたいしさ」

「先輩って……」


 じりじりと近づいてくるロズウェルを見て、強引にでも上がってしまおうかと思ったが、今度は他のプレイヤーがいるところで神の従者の話題を出しかねないことを考えると、ここで彼の用事とやらを済ませておかないと不味いことになりそうだ。ライトは一つため息をつくと、ロズウェルの言葉に耳を傾け始めるのであった。








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