第十七話 【中位職】
「分かりました。では、中位職についての説明をさせていただきます」
「お願いします」
ライトが説明を聞いてくれるのが嬉しかったようで、少し緩んだ顔になっていた事に気づくと、従業員のNPCは一つ咳払いをしてから説明を始める。
「まず、今の冒険者様の職業は『下位職』と呼ばれるものになります。下位職は種類が少なく、ステータスの補正もあまりかかりません」
下位職とは、最初のステータス設定で選ぶ職であり、種類も『戦士』『魔法使い』『盗賊』『狩人』.の四種類しかない。
AWOでは、職事にステータスの延びかたに優劣がつくシステムがあるのだが、下位職と中位職ではその補正の量も違う。
「しかし、中位職は『剣士』や『武道家』『騎士』などの職業に、ステータスによっては、なることができるようになります。また、ステータスの補正も大きくなるので、なって損はないと思います」
(中位職か……説明を聞いた感じだと特に断る理由はないかな。単純にステータスの強化は嬉しいし、やっとゲームらしくなってきたかな)
「じゃあ、その中位職になるためにはどうすればいいのですか?」
中位職へ転職する事を決めたライトは、どんな職になるのかを想像しながらそう質問する。
「はい、それはーーーー」
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「自分で各転職場に行かないといけないとはね。RPGの町探索クエスト見たいなものなのかね、このイベントは」
職業案内所を後にしたライトは、そう呟きながら林の中を歩いていた。
あの従業員NPCから教えてもらった、中位職への転職条件。それは、
「中位職への転職は、転職をさせてくれる他のNPCに会いに行って下さい。ステータスさえ足りていれば、大体は転職できる事となっております」
つまり、剣士なら剣士への転職を司る人の元へ。魔術師なら魔術を司る人の元へと行かなくてはいけないわけだ。
剣士や魔術師は、剣術場や魔法ギルドといった特定の場所に転職をさせてくれるNPCがいるのだが、
「そういうのはなんかなー。もっとこう、速い職業ってのはないのかね」
ライトの戦闘スタイルは、高いAGIと集中を生かした高速戦闘。ただの剣士などでは、その理想とするスタイルとはやや外れてしまう。
ライトはあの後から、しばらく転職先について考えていたのだが、特に良い考えも浮かばなかった。
そこで、この辺りの敵モンスターについて調べておこうと、町を出て来たのだ。
「よっと。流石に最初の町よりは強くなってるが、それでも、まだ苦戦する程ではないな」
ライトは今しがたエンカウントした、コボルトと言うモンスター。犬の顔に体は人間と、ゲームでは割りとよく見かける敵モンスターであり、手には短い剣を持っていたが、ライトの敵ではない。
そうして、一時間ほど林を歩いていると、周りの林が段々と普通の木から竹へと変わっていく。
そして、周りが完全に竹林になったころ
「ん? なんだあれ」
ライトの行く先に、小さな茅葺き屋根の小屋が現れた。
「うーむ。何かのイベントでもあるのか? 何にせよこのままじゃ何も分からない…………なッ!」
「……ッ!」
ライトが小屋を調べようと、一歩踏み出したその時。突如横から短刀を構え、顔を覆面で隠した人物がライトに迫る。
その短刀をライトはナイフで受け止めると、襲撃者を蹴りで迎撃する。
「誰だお前」
蹴りを受けて、襲撃者は地面に転がされたが、直ぐに起き上がる。ライトは、直ぐにでも戦闘に移れるように構えながら、そう問いかける。
襲撃者はその問いかけに対して、言葉は発しない。しかし、自身の頭の後ろへと手を回そうとする。
何をするのか分からない動きに、ライトはさらに腰を落としたが、
「合格じゃな。どうじゃ、お主『忍者』にならんかの?」
襲撃者は覆面を外しただけであった。
そして、シワの刻まれた初老の男のいきなりの勧誘に、
「は?」
ライトはそんな間抜けな声をあげてしまった。