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第百六十一話 かつての力

 リンというプレイヤーは、近接で物理無効などのギミックがない前提であればこのゲームでも指折りの実力者である。ゲーム知識こそ殆どなかったものの、久崎流という古流武術の筆頭後継者として現当主直々に修行をつけられた実力は本物だ。

 decided strongest前に神の従者であるロズウェルと相対し、一度は敗北したものの、ロズウェル自身現実世界でも実力者である彼女にはヒヤリとさせられた瞬間があったほどである。


(……やばいわね、このままだと勝ちの目が見えない)


 それでも、今のライトを相手するのには分が悪すぎる。分身のコンビネーションを警戒するために、散り散りになったこの即席パーティーだが、リンが相手していた本体に最も距離が近い分身。つまり、その力も本体に一番近い。

 大会のようにわざわざ久崎流の剣技で闘ってくれるわけもなく、全力で向かってくるライトの攻めに防戦一方とはいえついていけるだけ大したものだが、それでも全てを防ぎきることは出来ずガリガリとHPは削られていく。


(こっちは消耗する一方だってのに、あっちは違う……これがソロでやってきたアンタの本気ってわけね)


 戦闘スタイルの違いもこの防戦に拍車をかけている。パーティーで闘うプレイヤーなら、当然のように役割分担をしてできることとできないことが分かれているものである。特に補助分野においてその差は顕著だろう、リンの回復手段はアイテム頼りであり、HPだけでなくSP,MPもアイテムを使えば使うだけ残存戦力は減っていく。

 その一方で、ライトはソロで闘うという上でリソースを循環させるスタイルを確立していた。HP回復もほぼ使わない上に耐久力的にその機会がなかったとはいえ、近接戦闘のアーツには僅かにHPを回復するものもあり、SPとMPについては魂喰らい(ソウルイーター)の吸収がある。


 ただ、これだけのものを揃えていながら、これまでライトの戦法は完全な循環とはいかなかった。相手の攻撃に被弾せず、減ったリソースは吸収で回復。言葉にするのは簡単だが、それを実現するプレイヤースキルが、谷中光一という少年には足りなかったのだ。

 過剰集中オーバーコンストレイションを維持する魔力だけは、ゲームの中で賄うことができずそれが切れてしまえば、リンのような強者の攻撃を見切れずにいつか切り伏せられる。魔力という制限があるからこそ、ひたすらボスに挑まずゲーム内の実力を上げるという作業が谷中光一には必要であったのだ。


 しかし、世界設定ワールドコンソールを限定的に取り込んだ今、その弱点すら消え去り、ライトは無制限の戦闘時間を手に入れたに等しい。さらに、世界設定ワールドコンソールを取り込んだ影響はもう一つある。

 暴走以外は普段通りのスペックであったロロナと対峙していた個体は、火力と防御不足の弱点を克服していないいつものライトであったが、本体とリンが対峙している個体は例外で、現実世界とゲーム世界の自分をスイッチすることができる。

 ロズウェルが行っていたような、都合のいいところだけを切り取れる程高性能ではないものの、現実世界の光一の方が魔力で身体を強化すればスピード以外のスペックは上回っている。つまり、攻撃の瞬間だけ現実世界の体になることで、火力という数少ない弱点も克服してしまっているのだ。


「がっはっ!」

(もし……今の私にあの力があれば)


 切り上げを下からの斬撃で受け流すと同時に、大勢を崩し懐に潜り込んだライトの拳がリンの腹部にめり込み彼女の体が吹き飛ばされる。普段のライトではありえない一撃に、辛うじて飛刃をまき散らすことで追撃を防ぐがもう既に回復ポーションも心もとない。

 圧倒的に不利なこの状況、ふと頭に思い浮かぶのは大会で使用したあの力。ライトと同じ高速戦闘を得意とするリュナを屠り去ったあの力、ロズウェルに利用されていたとはいえ洗脳が解けた今でも記憶は残っている。だからこそ、“あの力があれば”と、いけない事だと分かっているのに、そんな事がチラついて離れない。


「瞬身」

(やばっ!)


 余計なことを考えたせいで、一瞬反応が遅れた。無防備な背後に回られた挙句回避が間に合わないタイミング。少しでもダメージを抑えようと、剛体を使い来るべき衝撃に備えていた。だが、次に彼女が感じたのは衝撃ではなく、揺らぎ。

 自身の影が不自然に揺らいだ次の瞬間、その影から人影が現れライトの体を切り裂いた。


「……大丈夫?」

「あ、アンタ……何でここに?」


 リンが振り向くと、そこに居たのは、自分と同じくロズウェルに洗脳を受けて利用されていた過去を持つリュナであった。ライトと似た戦闘スタイルをものにしている、リンとはまた違った意味での天才の一人。


「やったの?」

「いや……浅かった。それに、手ごたえも何か変」


 ざっくりと胸を切られ、そこからだらだらと赤い液体を垂れ流しながらライトはゆっくりと立ち上がる。


「詳しいことは後で話す、今はライトを何とかするのに協力して欲しい」

「分かったわよ。後でしっかり説明して貰うからね」


 増えた敵に動揺する様子もなく、ただ無機質にこちらを見つめて短刀を構えるライトを彼女たちは真っ直ぐにに見つめ返す。

 かつて、自分を洗脳から救い上げてきたライトがそうしていたように。 






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