第十六話 第二の町へ
宿屋を後にしたライトは、町の中心に位置する広場へと来ていた。そこはあの神が、このゲームがログアウト不可になった事を宣言した場所であり、人々にとってもあまり良い思い出はない。
しかし、その広場にも恩得はある。それは、各町のポータルの役割を果たしていると言うことだ。
各町の広場に入ると、プレイヤーのメニュー欄に【ポータル】の欄が追加される。最初は何も書いてはいないが、ボスを討伐する事に次の町の項目が追加されていく。
それにより、この広場はポータルの役目を果たし、一瞬で町から町への移動が可能となる訳だ。
(特に予定もないし、とりあえず次の町にでも行くか)
ライトは、メニューから【ポータル】を選択。そして、新たに追加された【グレンデン】の項目をタッチする。
すると、
「うおっ!」
一瞬の浮遊感を感じたと思うと、ライトの目には先程とは違う光景が広がっていた。
ざっと見た見た目は余り変わって様子はないのだが、よく見れば建物の色合いや配置などは大きく変わっている。
さらに、一番の違いはというと、
「あんまり人がいないな。やっぱり、まだあのボスゴブリンを倒したプレイヤーは少ないってことか」
プレイヤーの数が圧倒的に少ないということだ。
全く居ないという訳ではないが、現時点で【グレンデン】にたどり着けているプレイヤーは、殆どが攻略組のプレイヤーである。ちなみに、ソロプレイヤーとしては、ライトが最も早く第一のボスを倒したプレイヤーである。
「さーて、どうするかな」
特に考えがあるわけでもなく、何となく【グレンデン】へと来たライトは、少しの間顎に手を当てて考えていたが、
「ま、歩きながら考えるとしよう。ここにいても仕方がないしなな」
そう楽天的な予定を立てると、グレンデンの町を散策していく。
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それからしばらくして、ライトはある建物を見つけた。
看板を見ると【job】としか書かれておらず、何をやっているのかが気になったライトは、店内へと入る。
中にプレイヤーはおらず、数人のNPCが居るだけであった。ライトは窓口に座っている、従業員らしきNPCに声をかけた。
仮に店内が込み入ってるのなら、このように質問するのは少し気が引けるが、これだけガラガラならその心配をすることもない。
「すみません、ここは何をする場所なのでしょうか? 外からだとよく分からなくて」
「あら、久しぶりのお客様。ここは職業変更案内所ですよ、冒険者の方々はここで職業を変えたりするのですよ」
「職業変更所か……」
従業員が、ライトに話しかけられパッと顔を明るくしながらした説明を聞いて、ライトは少し考え込んだ。
職業の変更。現在の職業である【盗賊】に不満はない。むしろ今のソロプレイでは、一番適していると言ってもいいかもしれない。
「すみません、自分は今の職業で満足しているので。変更は結構です。では、これで失礼します」
今の自分には特に関係がない。そう結論づけて、ライトがその場を後にしようとしたその時。
「ちょ、ちょっとまって下さいお客様! 今の職業に満足されているのなら中位職への転職はどうでしょう」
「中位職?」
久しぶりの客を逃さないといったばかりの勢いで、従業員がライトを呼び止める。その、『中位職』という聞き慣れない言葉に、ライトは足を止めて再度従業員の方を向き直る。
「聞かせて下さい。その、『中位職』とやらについて」