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第百五十五話 奪還会議

 会議室の空気は重い。一度は見ているロロナのダメージは小さいが、アマネラセとキアンのメンバーは信じられないといった表情でしばらく黙っていた。


「どういうことだよっ! なんでライトがこんなことしてんだ!」


 未だ状況が飲み込めていないのだろう、震えた声を上げながらケンが立ち上がった。


「その反応からして、コイツはあのライトってことでいいようだな」


 声を荒げたるケンを見て、納得したように眼鏡を上げるとヴィールはパチンと指を鳴らした。


「この映像が届いたのは、ほんの一時間前のことだ。お前らも知っての通り第六のボスの最速討伐ログが回った件について斥候を派遣した結果だ」


 ヴィールの言う件とは、ついさっき第六の街のポータルにあるボスの討伐者の欄に、いきなり“ライト”の文字が追加されたという件である。ロズウェルを追ったはずのライトが、いきなり未だ討伐記録のないボスに挑み最速討伐をやってのけているのか。

 このことは掲示板でも話題になっており、普通に攻略しているとする説が大多数だがいやな予感がしたヴィールが調査を指示したところ、このような衝撃映像が取れたのである。


「おいおい、もう少し丁寧に扱ってくれよ。かよわい囚人だよ」

「チッ! ヴィールさん、連れてきましたよ」


 ヴィールの合図と共に開かれた扉から入ってきたのは、二人の監視に分厚い手錠をかけられた金髪の男。


「お前は!」

「大丈夫だ、今のこいつは契約で縛ってある」


 その男の姿を視認すると同時に、攻略組を除く全員が立ち上がって武器を構え、それをヴィールが制止する。それもそのはず、ヴィールの隣に座らされたこの男こそ、甚大な被害を出したポータル防衛を引き起こした張本人であるロズウェルなのだから。

 

「なんでアンタがここにいるんだ」

「そう睨むなよ。あの戦いはキミらの勝ちさ、ポータル陥落もできず彼に負けたからボクはここにいるんだから」


 両手にかけられた手錠を見せながら、ロズウェルは深く椅子に座り足を組む。


「昨日の夜にこいつが収容所ジェイルハウスにいるのが確認されてな、ライトの状況に一番詳しそうなこいつを連れてきたんだ」

「ま、ボクもヒマになったところだし。彼が飲まれてくところやキミらがあがくとこを見るぐらいしか楽しみもないしね」


 ロズウェルのような意図的にPKなどの悪質行為を繰り返すプレイヤーは、レッドプレイヤーという犯罪者のような扱いを受け、デス時には他のプレイヤーのようにポータルで復活するのではなく収容所ジェイルハウスという場所にしばらく閉じ込められるのである。

 ただし、ある程度大きいギルドであればレッドプレイヤーを能力を封じる手錠と監視付きで連れ出すことが可能であり、ライトがボス部屋で陣取るという不可解な現象を究明するために呼んだのである。


「ふーん、なるほどね……」

「何か分かったか」


 先ほどの映像を見ながら、時折頷いては置かれたティーカップに口をつけるロズウェル。そして、映像を全て見終わると同時に紅茶を飲み干して口を開いた。


「何でこうなったかの説明は省くよ、言ったところで理解できないだろうし」

「御託はいいから早く話せ」

「もう手遅れじゃないかな。ここまで浸蝕が早いだなんて、意外とメンタルが弱いんだね、彼」

「なんだって!?」


 軽く笑いながら話すロズウェルに、思わずセイクは声を上げていた。声を上げたセイク以外も大なり小なり驚いているなか、ヴィールだけは冷静にロズウェルに言い放つ。


「続けろ」

「続けろって言われてもね。今の彼はこの世界から力を吸い上げているようなものでね、そのうち逆に取り込まれるって言ってるのさ。大いなる力に飲まれていく、そこに三人も経験者がいるんだからそっちに聞いたほうがいいんじゃないかな?」


 ロズウェルの言葉を聞いて、一同の視線はリンとティーダ、ミストたち三人の方に向いた。彼女らもかつてロズウェルの力に飲まれ強大な力を手にしていた時期がある。


「たしかに私はお前の力に飲まれたことはあったが、今ではこの通り正気に戻っているぞ!」

「嫌がらせで適当な事を言っているのではないですか」

「私だって結構な間洗脳されていたけど、手遅れになんてなってないわよ」


 三人がそれぞれの反論をぶつけるも、ロズウェルには全く響いてないようである。


「キミらに使った洗脳は大した強度でもないからね。それに対して、彼にかけた洗脳は僕の全力さ、それにしても早いけど」


 憎たらしく足を組んで頬杖をつくロズウェル相手に、反論できず黙るティーダたち。洗脳を受けていたからこそ分かる、自分が自分でなくなってしまうようなあの状態。それを大した強度ではないと言われたのだ、それならば全力の洗脳を受けているライトがこの速さで浸蝕されいるのも納得できる。


「それは違うわ!」

「と、トイニちゃん待って……」

「フェ、フェディア!? それに君は」 

 

 扉を勢いよく開き、暗い沈黙を破るように現れたトイニと彼女について飛んできたであろうフェディア。全員の注目を集めながら、ずんずんとロズウェルの前まで進むトイニ、


「なに適当なこと言ってるのよ、ライトはあんたの洗脳になんて負けないんだから」

「吠えるだけなら誰でもできるよ。ボクからしたら今にも彼の意識は消えかけてるんじゃないかな」

「証拠はないわ。けど、ライトは私を逃がしてくれた。まだライトの心はあんたに屈してなんかいないわ!」


 足を組んで椅子に深く座るロズウェルに強く言い放つトイニ。それを聞いて、何かに気づいたように小さく呟いたフェディア。


「確かに、心が浸蝕されきっているのならトイニちゃんが出てくるようなこともないはず……」

「それは本当か! つまりライトのやつはまだ」


 フェディアの両肩を掴んで声を上げるセイクに、顔を赤くしながらも言葉を続ける。


「は、はい多分あと一日か二日も持たないかもしれないですが」


 その言葉を聞いてヴィールが立ち上がった。


「決まりだな」

「無駄だと思うけどね。ま、キミらの絶望顔でも想像して待ってるよ」

「知らんのか? 不利なギャンブルってのは燃えるもんだぜ」


 座ったまま捨て台詞を吐くロズウェル残して、ヴィールは最後に部屋を出るのであった。


 





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