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第百五十三話 復活と契約

「あれ、私。どうしたんだっけ」


 トイニが目を覚ましたのは、見渡す限り白い大地と黒い空が広がる世界であった。記憶ではフェディアと壮絶な相打ちを繰り広げたはず。

 契約に縛られた妖精は、世界からマナを吸収して生まれ里で復活する。信頼関係がなければ復活せず、復活しても全快となるには時間がかかるなど言われていたなとトイニが思い出していると、


「繋がったか」

「ライト、大丈夫だったの!?」


 いつのまにか後ろに立っていたライトに話しかけられた。ただ、ライトの顔は目に見えて疲弊しており、明らかに様子がおかしい。


「そういえばここはどこなの? 私は里に出ると思っていたのだけど」

「ここは俺の精神世界とトイニの精神世界の挟間はざまだろうな。俺とトイニは一度融合している影響で干渉してしまってるんだ」


 辺りを見渡しながら話すライト、その顔には余裕がなくトイニが見たことのないような表情をしていた。

 

「今、俺の精神世界は汚染され始めている」

「え」


 ライトの口から出た言葉に対して、トイニは素っ頓狂な声を上げた。トイニからすれば先ほどまで大会決勝でフェディアとセイク相手に激戦を繰り広げていたというのに、いきなり精神世界の汚染言われれば驚きもする。


「手短に言うぞ。このままじゃトイニの精神まで影響を受けかねない。だから、一時的に契約を解除するのとミオの契約者を移しておく」

「ちょ、ちょ、待って!」


 顔を赤くしてうろたえるトイニをよそに、まるで騎士が姫に忠誠を誓うように、膝をついて手をとるライトが呪文を唱えると軽い熱さと共にトイニの手に魔法陣が刻まれていく。


「もう時間だな」

「契約を解除するって、ライトはどうなるのよ! 戻って……くるんでしょ?」


 おずおずと聞くトイニ。かつての自分を助けてくれたように“心配するな”と言ってくれることを期待していたが、ライトはトイニに背を向けると、


「無理に俺を助けに来ようだなんて思うなよ」

「そんなっ!」

「もう時間だ。それじゃ、元気にな」


 その予想を裏切るように言い放つ。世界が足元から崩壊し、トイニがライトの背中に向かって手を伸ばすが、その手が肩越しに小さく笑うライトに届くことはなく落ちていった。








「……はっ。こ、ここは?」

「おお、トイニ。やっと起きたのう、フェディアはもうとっくに起きとったぞ」


 里の最奥にある妖精の泉と呼ばれる、里の魔力が自然と集まる小さな泉の中でトイニは蘇生した。髪から水を滴らせながら首を振るが、心配そうにこちらを見るオンニがいるだけでライトの姿は見えない。


「あれ、私どうしたんだっけ?」

「decided strongestとやらで無茶したのじゃろ、フェディアから聞いたぞい。じゃが、よく頑張ったの、あそこまで人族を信じれるとはよい出会いと鍛錬を積んでいるようで安心したぞ」


 まるで、寝起きのようにぼんやりする頭を抑えるトイニ。何か大事な夢を見ていた気がするが思い出せない。


「熱っ……これって」


 右手の熱さに気づいて目線を移すと、そこには召喚者に刻まれる契約の証が光を放っており、それを見た瞬間に蘇生前にしたライトとの会話を全て思い出した。

 

「ト、トイニ。どこに行くんじゃ!」


 オンニが引き留めようとするのも無視して、全速で飛ぶトイニ。どこに行くべきかはっきりとした予想が立っているわけではないが、それでも病み上がりの体に鞭を打って飛ぶのであった。









(モンスターのリポップが鈍くなってやがるな。何かが起こってるのか?)

「ヴィールさんどうしました、難しい顔して」

「別になんでもねぇよ。それより、発生スポーン結晶クリスタルの方はどうなってる」


 第四の街で数人の攻略組と共に、ポータル防衛にあたっているヴィールは違和感を感じていた。出現するモンスターの発生頻度が最初より下がっている。

 過去、ベータテスト版のポータル防衛では発生スポーン結晶クリスタルと呼ばれる、モンスターを無限に生成するアイテムがフィールドのどこかにあり、それを全てのフィールドで破壊すればクリアであった。

 しかし、今回のポータル防衛では発生スポーン結晶クリスタルを破壊しても同じフィールド内に新しい発生スポーン結晶クリスタルが出現してしまい、いつまでもイベントが終わらずにいた。


「それが、発生スポーン結晶クリスタルの再発生が無くなったみたいで」

「なんだと? 原因は」

「それが不明で、他のところも急に再発生が起こらなくなったらしい」


 移動スキルを使って、伝達役をしているプレイヤーから同等の報告を受けていたが、発生スポーン結晶クリスタルの無限湧きが急に起こらなくなり低階層のフィールドではクリア報告まで出ているとのこと。

 何かこの世界で異常な事が起こっていたというところまでは、気づくプレイヤーは数人いたが、裏でどのような闘いが起こっていたのかを完全に理解しているプレイヤーはまだいないのであった。

  


 





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