第百五十話 追跡
「力を合わせるのだ! 我らが鈍色鉄団の結束を持ってこの街を救うぞ!」
第三の街ではオバンドが率いるギルドを中心に上手く組織的に動くことでかなり安定した戦線を保っており、有力なプレイヤーを隣接した街に送る道もできつつあった。
「ミリィ、行くわよ!」
「バフかけます! それにしてもキアンさんはどこに行ったのでしょう?」
「やることがあるってメッセージは来てたけど、また何かに首突っ込んでるんでしょ」
第五の街ではミリィやティファなどの攻略組にこそ入っていないが、有力なプレイヤーが集まりその高い地力を持ってポータルを防衛していた。
「おい、本当に行くのかよ。確かにちょいと不安かもしれないが、俺らが行ったところであっさりやられるのがオチだぞ」
「それでもです! 近くまで案内してくれれば後は一人でいきますから」
一方で第三の街の外れ。モンスターの気配が消えた不気味な森の中をキアンとジェインの二人は走っていた。
(何か嫌な予感がする)
ライトがロズウェルを追ってその場を離れたその時、キアンは嫌な予感を感じとりライトを追って会場の外に出ていた。走り去っている方向こそ目星はついたが、ただの戦闘員の前衛であるキアンではライトの足取りを追うことはできず、森の前で立ち止まっている時に近くにいた、大きめの紙コップを片手に持った男、ジェインに話しかけられたのだ。
「どうした? 少年、こっちはポータルとは別方向だぜ」
「分かってます。ちょっと探してる人がこっちに来ていて……」
そこまで声にしたところでキアンは気づく、ここに来るまで他のプレイヤーと会うことはなかった。プレイヤーの動きとしては隣のフィールドに移動しにいくか、ポータルの守りを固める、一部の例外としてそれらを妨害に走るといったところである。
この森はそれらの場所から遠く離れており、ここに来る時点で目的はかなり限られる。
「まさか、あなた管理教団の関係者ですか」
キアンは一歩引いてジェインと距離を取ると同時に剣を抜く。この状況なら管理教団の援軍の可能性は十分にある。警戒を最大限に高めたゆえの行動であったが、目の前のジェインは片手に持った紙コップの中身を煽ると、ゲップ混じりに笑う。
「クク、そんなわけねぇだろ。俺はちょいと逃げてきただけさ、こいつも飲み終わっていないしいきなり闘えって言われても怖ぇしな」
(うっ、酒臭い。ただの酔っ払いか)
ジェインは売店で買ったビール片手に先ほどの決勝戦をコロッセオで観戦していたのだが、唐突に始まったポータル防衛線でできた人の波に飲まれるのを嫌って、ここでとりあえず飲み食いする間にどうするかを決めていたところであった。
「くそっ! 無駄な時間を使ってしまった。ライトさんは大丈夫だろうか……」
「ライトって、あんた大将の知り合いなのか?」
懐から出したスナック菓子を袋をひっくり返して食べていたジェインが、キアンの独り言を聞いて突っかかる。
「知り合い……まあ、そうですね。あの人は僕らのパーティーの恩人です。あなたこそ知り合いなんですか」
「ソロ仲間ってところだな。たまにボス攻略手伝ってもらってるぜ」
ニヤリとジェインは笑うと、紙コップを握り潰して森の方を向く。その目はうっすらと緑色に光りなにかしらのアーツを使用しているのが分かる。キアンは少し警戒したが、特にこちらに何かをしているという訳でもないらしい。
「大将ならこの森の先、南西に五キロぐらいのところに反応あったぜ。まだ動いてるみたいだから早くいった方がいいぞ」
「え?」
ジェインはアーツを解除すると、やるべきことはやったと言わんばかりにその場を離れようとする後ろ姿を見て、キアンは思わずその手を掴んでいた。
「ちょちょっと待ってください! 感知系のアーツが使えるんですか!?」
「そりゃソロだからな。速めにモンスターとか見つけられないと死ぬだろ」
「案内してくれませんか」
「嫌だね。カワイコちゃんならともかく野郎に手を握られても嬉しくないね」
手を振り払うジェインを見て、キアンは思い出した。前にライトと話した時に話してくれた、センスはあっても女癖の悪いソロのフレンドの話を。間違いない、目の前の男こそがその時話題にしていたプレイヤーだ。
(それなら)
「ライトさんから聞きましたよ。ジェインさん、あなた精霊の里に行きたいと言ってましたね」
「おう、そこで俺好みのグラマラスな妖精とオトモダチになってあわよくば……」
だらしなく表情を緩ませるジェインを無視してキアンはさらに言葉を続ける。
「今度うちのパーティーが精霊の里に行くイベントがあるので、連れていくと言ったらど」
「乗った!!」
キアンが言い終わる前に叫ぶジェイン。大丈夫かという不安を胸に抱えながら、キアンはジェインの案内で森に入っていくのであった。