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第百四十九話 ポータル防衛

「誰かー! 回復役ヒーラーで余裕あるやつはいないか!?」

「居るわけねぇだろ! ポータルが使えない以上、援軍だって一層ずつこなくちゃいけないんだぞ」

「誰かあの猪倒してくれぇ! 仲間の記憶を持ってやがるんだ!」 


 第四の街、トレイルでは街の中にモンスターが溢れかえり、甚大な被害が出ていた。decided strongestの方に多くのプレイヤーが行っていたこともあり、この街は他の街よりもプレイヤー数が少なくかなり不利な状況に陥っていた。

 階層の移動は、基本的に街のポータルで行うのだが、このイベント中には使用が封じられており、移動手段はボスのいる箇所のゲートを通らなければならない。しかも、第四の街のプレイヤーは運の悪いことにこの街で攻略を止めてスローライフな生活に浸かった者が多く、まともに対策もできずに街の中央に戦線を下げていた。


「な、なあ。ポータルが落ちたらどうなるんだろうな」


 プレイヤーの一人が震える声で呟いた。HPがゼロになったプレイヤーは基本的に同階層のポータルにて復活リスポーンする。そして、このイベントではモンスターたちは街のポータルを目指して襲ってくるとNPCの説明ではなっている。


『ポータルが陥落した場合、プレイヤーの皆様方は通常より重いデスペナルティとこのイベント終了まで復活ができなくなります』


 近くにいた冒険ギルドのNPCが、抑揚のない声で話す。ただのゲームであった頃と一言一句変わらない説明なのだが、デスゲームとなった今ではその意味は大きく違う。

 記憶を失うことで、ある一定回数は復活リスポーンできるということがプレイヤーの心の拠り所であるというのに、このイベントではそれを封じている。


「ここが陥落したらここのモンスターはどうなるの!?」

『隣接した階層に移動します。現在解放されている階層全てのポータルが陥落したときが、プレイヤー様方の敗北となります』


 女性プレイヤーがNPCに詰め寄り、解放された情報を咀嚼するのにかかった時間は一瞬だが、それを聞いていた者たちはほぼ同時にとある思考にたどり着いた。

 

 プレイヤーが敗北したときに復活リスポーンを封じられる。つまり、()()()()()()()()()()()()という思考に。


「う、嘘だろ……」

 

 第四の街が最も厳しい状況にいるのは間違いない。だが、周りの街も大きく余裕があるわけでもない、普通に各階層が仕事をすればプレイヤー側が負けることはそこまでないイベントなのだが、そこに他階層のモンスターまで加わってしまえば物量で押されかねない。

 雪崩のように各階層が崩壊していく最悪の図が浮かび、とある魔法使いのプレイヤーが数歩あとずさりすると、背中にポータルが触れた。


(嘘だろ、もうこんなに近くに!?)


 前を見ればモンスターの群れはすぐ近くまで来ていた。リスポーン地点の近くなだけあって、第四の街にいるプレイヤーの殆どがここにいるが、その目は恐怖に押しつぶされそうな弱弱しいものばかり。


(だれか……ッ)


 剣を持つ手が震え、懇願するように目を閉じたその瞬間、まるで雷が落ちたような轟音が響いた。


「な、なにが!?」


 突然の衝撃に驚きながら目を開けると、目の前に迫っていたモンスターの群れに大穴が空いている。


「ゲホッゲホ。まったく、もう少し丁寧に運べないのか」

「ヴィールは文句が多いネ。コレでも全力で飛ばしたんだから」


 プレイヤー達は見た、二本の刀を刺したスーツ姿の男と両手の手甲ガントレットから雷を纏った黄色の炎を噴出させている少女の姿を。


「あ、あんたらは……」

「もう大丈夫、私たちが来たネ」


 ロロナは両の拳を打ち鳴らしてモンスターの群れに突進する。雷炎を纏った彼女は凄まじい速度でポータルに迫るモンスターの群れを殲滅していく。


「おい。お前ら、まだ闘う意思はあるか」


 まるで花火でも見ているかのようなオレンジの光に見とれていると、呆然としていたプレイヤー達にヴィールが話しかけてきた。


「それは……もちろん」

「だったら何故お前らは震えている。レベル的にもここまで追い詰めれるようなほどじゃないだろ」


 歯切れ悪く答えるプレイヤーに厳しく言い返すヴィール。大半のプレイヤーは、痛いところを突かれ口をつぐんでしまうが、


「あんたらには分からないだろうな! 怖かったんだよ! 少しのミスが命取りになって自分が自分でなくなってしまう。そんな闘いが怖かったんだ! 俺だって戦えるなら戦いたいさ。でも、体が震えて動かないんだよ!」


 一人のプレイヤーがヴィールの胸倉にすがりつくように叫んだ。情けないことを言っていることは重々承知の上で、それでも情けない自分に腹が立って、行き場のない感情が爆発したような叫び。


「それだけ叫ぶ元気があるなら、グレンデン辺りのモンスター程度に遅れは取らないだろう」


 ヴィールは縋り付いてきた男を軽く振り払うと、二本の刀を抜きながら話す。確かにここのプレイヤーからすれば第二の街、グレンデンのモンスターの攻撃程度なら精神的にもかなり優位に戦えるだろう。しかし、


「グレンデン辺りって言うけどよ、一体どうやって行けって言うんだよ! ポータルは使えねぇんだぞ」

「簡単さ、歩いていけばいい」

「簡単って……」


 男が何か言おうとするのも無視してヴィールが二本の刀を構えると、その刀に暴風が巻き付いていく。その風とヴィールから発せられる圧力に、周りのプレイヤーは気づけば息を吞んでいた。


「豪風断波!!」


 両の剣を交差するように振られた剣から発せられた暴風が、一撃で地面を抉り第三の街方面までの道を切り開いた。

 あれだけ苦戦していたモンスターの群れがあっさりと壊滅し、これなら歩いてでも第三者の街に行けるだろう。


「ロロナ、こいつらを先導してやれ第三の街の奴らに事情説明すればこいつらでも戦力になるはずだ」

「イイの?」


 無言でアーツを使うヴィールの姿を了承と捉えたロロナが、未だ彼らの迫力に呆然としているプレイヤーたちを先導していく。


「お、おい! それじゃあここのポータルはどうやって守るんだよ」

「この程度、俺一人で十分だ」

「ほら、ミンナ行くよ」


 ロロナに急かされるまま、プレイヤー達はポータルから離れていく。








「なあ、ホントに大丈夫なのか? いくらあいつが攻略組だからって一人じゃ」

「大丈夫だヨ」


 プレイヤーの一人が不安から先導するロロナに聞くと、彼女は間を開けずに答えた。その声は疑いの色が微塵も感じさせないものであった。


「でも、あの人大会だと一回戦で負けてたよ」

「確かに、なんか不安になってきた」

「それでもだよ。最近運営ばっかりで鈍ってたみたいだけど、ホントならヴィールってスッゴく強いんだから」


 波のように広がる不安をかき消すようにロロナは口を開く。それと同時に、ポータルのあたりから凄まじい音とともに雷と風がまざった竜巻が巻き上がるのが見えた。既に結構な距離を進んだが、それでもその凄まじい威力は感じ取れた。


「ほらネ」


 ロロナがそう言ったのを最後に、プレイヤーたちはもう不安な声を上げることは無くなったのであった。




 

 

 


 


 




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