第十五話 酒は恐い
「……ん、朝か」
朝。自身の頭がガクンと落ちるのを感じて、ライトは目を覚ます。
昨夜は椅子に座ったまま寝ていたようで、凝り固まった背中をほぐしながら、起きたばかりで若干ぼやけている視界を目を擦って晴らす。すると、
「ムニャ……もう食べられないよぉ」
部屋のベッドで、毛布を抱いて寝ているロロナの姿があった。
『君たち人間はこういう時には、昨夜はお楽しみでしたね。と言うんだっけ?』
「それはゲームの中だけだ、もう少し人間界を学ぶ物はほかに無かったのか」
ライトが一瞬固まっていると、そうリースの声が頭に響く。
リースの某宿屋の主人から引用したであろう言葉に、頭を抱えていると、
『何言ってるんだい、ここはゲームの中だろう。それなら私の言葉も可笑しくは無いんじゃないかな』
「あぁ、なるほど。……じゃねぇよ、それだと昨夜のお楽しみを肯定してるみたいに聞こえるから止めてくれ。俺はまだ潔白だ」
『ははは、ごめんごめん。ちょっとからかっただけだよ』
リースの誘導じみた言葉に、危うく昨夜過ちが合ったようにされそうになる。
ライトが、そんなたわいもない話をリースとしていると、ロロナがようやく起きてくる。
「ン、ん~~。あーよく寝た」
「よーやく起きたか、この寝坊助」
大きく伸びをしながら体を起こすロロナ。すると、その横に立っているライトと目があった。すると、信じられないといった表情を浮かべる。
「な、なになに! なんでライトがここに。ハッ、まさかボクと昨日……」
「心配するな、お前が考えているような事は一切ないぞ。ついでに言うなら、俺は椅子で寝ていた」
ライトの言葉を聞いて、ロロナはようやく落ち着きを取り戻す。
「ナーンダ、心配して損した。それで、ライトはどうしてボクの部屋に居るのかな? 再戦?」
「なわけ無いだろ。金だ金。昨日俺が勝った分の金を貰ってないんでな」
そう、ライトがこうしてロロナと同室にいた理由は昨夜にさかのぼる。
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昨夜、ロロナを見事ライトは下した。
酒場の客の喚声と落胆の声を浴びながら、ライトは倒れているロロナのところへと近づく。すると、
「……きゅう」
ロロナは目を回して気絶していた。漫画なら目が渦巻きに書かれるほど、見事な気絶であった。
それを見てライトは、
「気絶してんのか……めんどくせぇ」
そうため息混じりに呟くと、気絶したままのロロナを抱えあげる。そして酒場のマスターに代金を払い、その酒場を出た。
ライトは、少しふらつく足取りで一番近い宿屋に入る。そして、二部屋分の代金を払うと、部屋のベッドにロロナを寝かせた。
(っち、この代金は明日一括で請求してやるからな)
そう心のなかで愚痴りながら、ロロナをベッドの上に降ろした
。すると、ライトの足はふらついてしまい、椅子にへたりこむように腰を降ろす。
(あー、やっぱ呑みすぎたな。頭ふらふらしやがる。……ちょっと休憩して、から……俺の部屋、行こ……)
少し酔いざましに休憩するつもりで座ったのだが、それに反してライトの瞼は段々と下がっていく。そして、ついには落ちるように眠ってしまった。
これが、ライトとロロナが同室で寝ていた理由である。
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「あちゃー、やっぱ忘れてないかー。ここはボクの寝顔の代金って事で千Gは……」
「びた一文負けてやる気はないからな。さっさと払え。あれだけ稼いでれば十分余裕はあるだろ」
「ちぇー、ケチ。ケチな男はもてないぞー」
「侵害だな、そこは金にしっかりした男と言って欲しいものだ。普通、金にだらしない男はもてないと思うが」
「ぐぬぬ」
ささやかな言葉の抵抗すらあっさり返されたロロナは、悔しそうな顔をしていた。が、ライトは気にせず部屋から出ようとする。
「ちょっと待った! まさか勝ち逃げするなんて言わないよね」
「勝ち逃げもなにも、今のお前じゃ何回やっても俺に勝てないと思うが」
「ぐっ、痛いところを。だったら、いつか強くなったら必ずリベンジするらネ!」
「はいはい、その時を楽しみに待ってるよ。じゃあ、俺はもう行くぞ。精々精進しな」
ロロナのリベンジ宣言を背中に受けながら、ライトは飄々とした返事をすると、そのまま部屋のドアをくぐる。
そして、一人となったロロナは、ベッドの上で
(あれ? ボクどうやって宿屋に着いたんだ? あのあとは気絶していたみたいだし)
昨夜の事を必死に思い出そうとしていた。
自身は気絶しており、朝起きると目の前にはライト。その朝の状況から答は明白であり、それに気づいたロロナは、
(ライト……ボクを運んでくれたのか)
「でも! それとこれとは話が別! 待ってて。必ず強くなってリベンジするからネ!」
ガバッっと勢いよくベッドから飛び下り、窓を上げながらそう空に大声で宣言する。
その、やや赤くなった顔に、朝焼けの光が当たりさらに赤くなっていた。
余談だが、このあと隣の客に怒鳴られたのは言うまでもない。
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