百四十六話 世界設定(ワールドコンソール)
大変申し訳ございません、テスト期間で間が空きました。ここからはペースを戻していきたいと思います
ライトが投げた棒手裏剣とロズウェルのトランプが互いに弾かれると同時に、ライトは距離を詰めようと駆ける。ここに来るまでに自己強化系統のアーツはかけきた、過剰集中が使えない今、小回りの利かない縮地よりも素の移動の方が良いと判断しての行動。
「こんな状態でもここまで動けるなんてね。キミの能力はやっぱり電算系かな? 僕の能力に少しでも対応できるのは褒めてあげるよ」
「自分のことをペラペラ喋る趣味はないんでね。自分から不利になるとかマゾか? お前」
ロズウェルの言葉に煽りで返すライト。何も恨みつらみだけで煽っているのではない、ロズウェルの動きはあまり武術的に洗練されているとは言えない。そこに煽りによってメンタルを揺さぶることで、大振りを誘い懐に潜り込んだのだ。
「ちょこまかと……っ」
イラついたロズウェルに連撃を入れるライト、ここまでは先ほどと同じ、
「ま、よくやったよ。でも、これでお終いだね」
一度は苦い顔をしたロズウェルがニヤリと笑って指を鳴らすと同時に叫ぶ、
「世界設定!! ここからは、ボクの世界だ」
その瞬間、周りの世界の空気が変わる。ライトの動きは格段に鈍り、寸前で避けたロズウェルのトランプから明確な死の匂いが香る。
「世界設定ね、それがお前の神の従者としての能力ってか。いいのか? 名前だけでも能力の推察ぐらいはできるぞ」
「いい名前でしょ、ボクがつけたんだ。推察できたところでこっちの優位は揺らがないからね、余裕さ、これは」
ライトの投げた棒手裏剣をあっさりと二本指で止めたロズウェルは、勝利を確信した表情で語り続ける。
「もう少しヒントでも出そうか? 今のボクは気分がいいからね、そうだな……」
「世界の改竄、だろ」
「!?」
ロズウェルの顔が大きく歪んだ。今までの突発的なイラつきや痛みで表情が崩れたのとは違う、自身の根幹に関わる何かを揺さぶられたような動揺のしかたであった。
「もう少し詳しく言ってやろうか。さっきコロッセオ内でやったのも、今ここで起きているデバフも世界の改竄だな。その内容はAWOを現実にだろ。元々徐々に現実化は進んでいたみたいだが、お前は一定範囲……半径十五メートル程度ってところか、その範囲でほぼ完璧な現実化をやってのけたんだ。勿論、お前自身は除いてな」
一気に話したことで乾いた口内を潤すようにライトがポーションを飲み干し、空き瓶をロズウェルの足元に弾く。このゲームでは、中身の無くなった瓶は手から離れると消滅するはずだが、消えなかった。
今のライトの推理が当たっているのならば、今までのこと全て辻褄が合う。ライトやセイクのステータスはあくまで現実のもの、特にセイクは全身を鎧に包み、騎士剣を装備しているのだ。現実でそんなものを身に着けて俊敏に動けるわけがない。
自分以外には現実という世界を設定し、自分はゲーム内のステータスそのままで闘っているのだ。世界設定、彼の前では全てのプレイヤー達はただの人間となる。
数多のプレイヤー達が必死に自己の力を高めている傍らで、その力を一方的に奪うことができるという切り札を持っているんだぞ、とほくそ笑むことでロズウェルという男は精神的に安心を得ているところがあった。だが、誰にも明かすことのなかった秘密をあっさり見破られ、激しく動揺したのだ。
「そ、それがどうしたっ! 世界設定の一端を見破ったところで、攻略法があるわけでもあるまい!」
声を荒げながらロズウェルがトランプを投げた。雑に投げただけのそれは、ライトに直撃こそしなかったが、後方の木をあっさりと両断し、ロズウェル自身もライトに迫る。
確かにロズウェルの戦闘はスタイルはゲームに慣れているタイプのものであり、ステータスでのゴリ押しの面が強い。ここまでのパワーにスピードを持った相手に現実で対抗しなければならないのだ、普通ならまずできない。
「攻略法? そんなもんいらねぇよ、正面からぶっ倒すまでだ」
「がっ!?」
だが、今ここに立っているのは、その普通から大きく逸脱した存在、谷中光一なのだ。
ロズウェルの切り上げを半身になって避けると、ライトがカウンターでロズウェルの腹に拳をめり込ませていた。普段のライトならば一撃入ったところで、衝撃こそあれ大したダメージを入れることは叶わない。が、ロズウェルは顔を見開き、横隔膜がせり上がる痛みに耐えている。
「世界設定だっけ、手の内をいたずらに晒すのは嫌いだが、余裕の表れとまで言うなら名前だけは教えてやるよ」
腹部の痛みに耐えながらライトの中段蹴りをガードしたロズウェルだったが、その体が威力を支え切れずにふわりと浮かぶ。
(やつの能力はなんだ!? この世界で活躍できるあたりゲーム、ないし機械に干渉できる力だと踏んでいたが……直接戦闘に耐えうるものとは想定してないぞ!)
混乱する思考をなんとかまとめようと、アイテムボックスから出したポーションを飲みHPを回復させながらロズウェルがライトを注視すると、彼は静かに口を開いた。
「自身操作。たった今考えた、これが俺の能力だぜ」