第百四十三話 まさかのタッグ
観客たちがざわめく、技の応酬に感嘆していた今までとは違う、困惑からなるざわめき。
「おや、久しぶりだねライト君。流石僕と同じなだけある、こんな大会なら決勝まで来ると思ったよ」
「テメェ……何でここに」
ライトが睨みつけるのも構わず、決勝戦の舞台に割り込んだロズウェルはぐるりと観客席を一瞥する。
「なに、キミらがこうして一ヶ所に集まるのが都合よくてね」
「何を言って……」
「忘れたのかい? 僕の神様は元々あったイベントを開始させることぐらいならできることを」
何を言っているのかセイクは分からなかった。自分よりは事情を知っていそうなライトの方を見るも、彼も全てを知りえる訳ではなさそうである。
それよりも目の前のロズウェルの動きに関してライトとセイクの二人は気を張っていた。最大規模のPKギルドの長であり、大会中のこのフィールドに何故か割り込んできた。そのカラクリについても、ロズウェルの目的についても何も情報がない。
目の前のロズウェルから発せられる妙なプレッシャーを跳ね飛ばすように、剣を持つ手に力を込めた時、
(システム……メッセージ?)
脳内に響く“ピロン”という機械的な音。これはシステムメッセージの音である、レベルアップやフレンドコールなどが行われた際に鳴る音であり、それ自体はありふれたものだ。
だが、今は事情が違う。今現在のAWOは「Decided storngest」というイベントの真っ最中、レベルアップをすることもなければ、セイクにフレンドコールをかけてくるプレイヤーもいるはずがない。ならばこのシステムメッセージは何の音なのだろうか、
ロズウェルへの警戒を解かぬよう、ちらりとセイクはメッセージの方へ目をやる。そこに書かれていたのは、
「ボス襲来イベント……!?」
口に出したのはライトだった。どうやらセイクとライトに、いや、全てのプレイヤーにこのメッセージは送信されている。こんなことは、大規模イベントでもないとあり得ない。
『セイク! 大変だ、街にモンスターがポップしだしてやがる!』
「まさか、本当にあのイベントが!?」
このゲームでは基本的に街にいる限りモンスターがポップすることはない。ただ、セイクは一つだけその例外を知っている。βテストの最終日に行われたイベントであり、街を背負って今まで闘ってきたボス含むモンスターらと全プレイヤーが一斉に闘う、という最終日にふさわしいお祭りイベントであった。
この世界がただのゲームであった頃は、皆で一致団結し何度かデスしながらも闘うのは楽しいものであった。だが、半ばデスゲームと化したこの世界、しかもβテストの時はほぼ全てのプレイヤーが戦闘に好意的であったが、現状のプレイヤーの中で攻略及び戦闘に前向きなのは半分もいない。
戦闘の恐怖に怯え、攻略から遠ざかったプレイヤー達は街に籠り日銭をのんびりと稼ぎながら、ある程度の金が溜まった者は攻略組へ依頼してボスを倒すパーティーに入れてもらい次の街へ行く。こんな生活をしていれば戦闘の勘は嫌でも鈍り、そんなプレイヤー達を強制的にボスと闘わせるなど地獄絵図になることは間違いない。
「キミたちはよくやってるよ。こんなデスゲームでも、できるだけ人が死なないように組織を作り攻略している。僕の目的はキミらの魂から莫大なエネルギーを精製すること、そのためには希望と絶望、その振れ幅が大きいほど質もがいい神の力が手に入る」
ロズウェルが語る。観客たちのざわめきは次第に大きくなり、中にはボス襲来イベントのメッセージを見て、早々に会場から出ていく者もいた。それでも大半はロズウェルの言っていることが理解できず、心ここにあらずといった具合に呆然としていた。
「ボス襲来イベントで引きこもりプレイヤー達は神の力になって貰うとして、残りのプレイヤーにも絶望を与えないとね。攻略組らじゃ管理教団には敵わないっていうね」
そう言って、ロズウェルは懐から数枚のトランプを出す。
「そうそう、このボス襲来イベントはボクを倒しても止まるからね。まあ、無理だろうけど」
ただのトランプではない、ロズウェルは武器を抜くと、次の瞬間にはセイクの目の前でトランプを振りかぶっていた。
(重っ!?)
セイクの手にのしかかるのは、まるで大斧を相手にするような重量感。疲弊している今、競り合いすら持ちそうにないと弱気な事が浮かんだと同時に、ライトがロズウェルの横腹を蹴り飛ばしていた。
「油断するなよ、セイク。相手はAWOをこんな風にした元凶に一番近い男だぜ」
「ああ! すまない。一緒に闘おう、ライト」
お互いの体は決勝戦の影響で既にボロボロ。だが、それでもこの二人、現状AWOの世界において間違いなく最高クラスのタッグがここに結成された。
話の切り方の関係上短くてすみません
その分次話は早めに投稿します