百三十七話 二人の妖精
「回復します、セイクさん!!」
「頼んだ!」
セイクが飛び出すと同時にフェディアは後方で回復魔法の詠唱に入る。ダメージを与える手段が少ないライトにとって回復されるのは避けたい事態である。
「させないわよ!」
事前にトイニが話していた通り、フェディアはまず回復ないし防御上昇のバフをセイクにかけようとするはず。それを阻止するため、ライトはハイステップで一気にフェディアの後ろにまで移動する。いくらステータスが優秀だろうとも、純粋な魔法職である彼女は反応が完全に遅れてしまう。さらにトイニも無詠唱で最も早く出る魔法の矢で、フェディアの阻止に動いた。
「フェディア、下がるんだ!」
「チッ、そうそう上手くはいかねぇか」
トイニの矢は当たったものの、妖精は元々魔法防御が高いのもあって大きなダメージは見込めない。ライトの接近はギリギリでセイクに防がれてしまう。
ライトの足とセイクの剣が競り合ったのも一瞬、分身がセイクに左右から襲い掛かりフェディアとの距離を離していく。ライトがセイクにかかりきりになっている今、フェディアは回復は諦めて魔法による攻撃を選んだのだが、
「ライトに攻撃はさせないわよ」
「私こそ、セイクさんはやらせない!」
トイニがそれを阻止しに動く。互いに妖精の象徴である羽根を広げ、魔力を惜しまず大技の詠唱を始めていく。その煌びやかな魔法の嵐をバックに、二人の男が刃を散らしていくさまはまさに決勝戦にふさわしい。
「白き槍よ、目の前の敵を討て その九槍!!!」
「氷の盾よ迫りくる脅威を退けよ!!!」
フェディアが光の槍を生成し、トイニが氷の盾でそれに対抗する。拮抗したのは僅か、フェディアの槍が氷の盾を砕きトイニに迫る。
(やっぱり……正面からだとフェディアの方が強い!)
光の槍が直撃する寸前に魔力を放出することで、致命傷は避けたトイニであったがこの数撃のやりとりで悟った。魔法の質、威力に関しては自分よりフェディアが上。潜在能力では互角の二人であるが、その差は主人の差である。
妖精契約を結んだ妖精は主人から魔力の補助を受けることができるが、それは主人の魔法の能力に依存する。正規の手段で契約を結び魔法系統のステータスも高いセイクを主人に持つフェディアと、イレギュラー的な手段で妖精契約を結んだ上に魔法系統のステータスが貧弱なライトをマスターに持つトイニでは差が埋まれるのは当然。
(トイニ、できればもっと公平な条件で闘いたかったけど、この場ではセイクさんの為に全力で頑張らせてもらうよ!)
砕けた氷が振るなか、フェディアはさらに魔法の詠唱を重ねていく。今度はさらに多くの魔力を練りこみ、例え氷の盾を貼られようと貫通してトイニを貫けるだけの術式を組んでいく。
「白き暴風《アルブスフルグレオ》!!」
発動するのはセイクも得意とする魔法。ただし、万能職である彼ではなく妖精であるフェディアが発動するそれはまさに暴風。たとえトイニが防御魔法を発動しようとも貫通せしめる威力がある。
「紅き暴風」
(迎撃? でもそれは悪手よ、トイニ)
トイニが選択したのは逃げでも防御でもなく、迎撃。フェディアが発動した魔法と同種のものであり、貫通力に優れ威力も申し分ない。だが、先の打ち合いで分かった通り正面からの打ち合いではトイニが不利であることは明確。事実、白と赤の暴風は一瞬拮抗したものの白が赤を飲み込んでいく、その瞬間。
「螺旋大暴風風!!!」
トイニがさらに魔法を重ねた。右手から炎の竜巻、左手から暴風。一つ一つの魔法の威力は負けていようとも、炎が風を巻き込み獄炎と化していく。
「なっ! まずっ、押し返され……」
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」
獄炎を纏った竜巻は、一度は押されていた白き暴風を赤に塗りつぶしフェディアをも飲み込んでいく。
魔力の質も量も負けているトイニが、魔法の面で唯一勝っている点。それは属性の多様差である。フェディアは珍しさでは二大巨頭である光と闇属性の魔法を扱うことができるが、この二つの魔法は相性が非常に悪い。それに対して、トイニは炎に風、氷、土、雷と多彩な属性を使い分けることができる。そうして相性の良い魔法を同時に使うことで、単属性では敵わない魔法を打ち破ることに成功したのだ。
「やった……の?」
タイミングは直撃、ある程度魔法防御力に優れているとはいえ、妖精の防御性能はあまり高くない。トイニはの魔法が直撃したのなら、フェディアはひとたまりもないはずである。
「フェディアが教えくれた二重魔法、やっと成功したよ……」
肩で息をしながらトイニは呟く、この大舞台でずっと肩を並べていた親友と決着をつけられたのだ。土煙でフェディアの姿は見えないが、心の底からじわじわと湧き上がってくる達成感をかみしめていた。が、
「トイニ! 油断するな、まだ決まってないぞ!!!」
「え?」
ライトが大声を上げる。彼が闘っていたはずのセイクの姿はなく、棒手裏剣をフェディアがいたはずの所投げていた。
トイニが気の抜けた声を上げた、それと同時に土煙と獄炎の残り火があった筈の場所から激しい光と魔力の奔流があふれ出した。
「「さあ、続きをはじめようか(ましょうか)」」
人妖合身、主人公がもう一段本気になった瞬間である。