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第百三十六話 決勝戦

 二人の距離は十数メートル程度、ライトの速度なら瞬時に移動できる距離。これまでの相手と同じように、セイクが何かアクションを起こす前に高速移動からの一撃が決まると思われたが、


「ここっ!!」

「! ッチィ、流石に対応してくるかよ」


 ライトの姿が消えるかのような高速移動を見て、いや、それを見る前からセイクの振るう剣にライトの初撃は阻まれた。魂喰らい(ソウルイーター)で防御したのでダメージこそないが、いきなり主導権を握るのは失敗してしまった。


輝星・三矢(トゥインクルシュート)


 距離が開いた僅かな隙に、詠唱省略で放った魔法の矢と共に今度はセイクが攻勢にでる。三方向から囲むように矢が迫り、ライトの左右の逃げ道を塞ぎ、正面は自身の体で蓋をする。後ろに引くことはできるが、それで距離が空いたところで魔法による追撃が激しさを増すだけだ。

 ライトが選択したのは、正面からの迎撃。左手の魂喰らい(ソウルイーター)を戻し、右手に短刀、左手は素手の構え。


「ステップ」


 ただの初期移動技でさえ目で追うのは難しい速度、それを持ってライトはセイクの制空権へと進入する。


(見える!)


 セイクにとって幸運だったのは準決勝でロロナと戦っていたこと。彼女の速度もまた、AWO内では最上位クラスであり、高速戦闘を主体とする相手と戦うのには少しばかり慣れているのだ。

いつもより短く持った剣を横に振りぬき相手の接近を拒否し、一方的に攻め込める距離を維持しようとしたのだが、


簓木(ささらぎ)、重いが強化もされてないならギリギリ流せる!)

(入られた!)


 簓木(ささらぎ)を使用して、ライトが迫る騎士剣を上に受けながら低い姿勢でセイクの懐に入る。さらに一歩踏み込むと同時に左足でセイクの足を踏み、距離を取られるのを防ぎながら正面を向く時の勢いのままに掌底を脇腹に見舞う。

 ダメージの少なさからセイクは脇腹の一撃を気にもせず、力任せに踏まれた足を引き抜き後ろに跳ぶ。あっさりと拘束から解放されたセイクだったが、後ろに跳んだと同時にライトが組み付き重心の乗った足を刈って投げる。


(朽木崩しかっ!)


 記憶復元メモリーリペアによる久崎流の再現、相手の重心が乗った足を完璧に刈ることでセイクはバランスを崩して転倒する。騎士剣を降って暴れようとしたセイクだが、その予備動作を見たライトは剣の持ち手を踏み付けて防ぐ。

さらに、踏み付けの衝撃で騎士剣を落としてしまう。セイクに徒手空拳での攻撃手段スキルはない。集中コンストレイションで早まった思考で瞬時に判断すると、剛体を発動しツイストやスラント等のアーツで一気に攻め立てる。


「レイ、バースト!!」

(チッ、このまま攻めさせてはくれないか)


 連撃を受けたものの、黙って受け続けるセイクではない。威力こそ高くないが、全身から魔法の光を照射することでライトを無理やり遠ざける。


(それに、このままのペースだと削り切れるか不安だな)


 ライトのSPに関しては魂喰らい(ソウルイーター)での回復が間に合うものの、今の流れで削れたセイクのHPはゲージの数ドットが精々。これがただのボスなら時間をかけて押し切れるだろうが、相手はライトの速度にすら慣れてきている。


(だったら、早めに削るだけだ)


 一度魂喰らい(ソウルイーター)をしまい、少しでも体を軽くし集中コンストレイションの出力を上げていく。セイクの方は距離が空いた隙に、詠唱短縮で強化魔法をかけつつライトにとって有効な追尾魔法を発動しようとする。


「縮地」

「!」


 それは許さないとばかりにセイクの顔が上に蹴り上げられた。ロロナのトップスピードとほぼ同等の一撃、ギリギリで魔法の完成を阻止しただけでなく、二体の分身を出し、蹴り技の攻撃アーツを重ねてセイクの体を空高く打ち上げていく。

 地に足がつかない状態では、いくらセイクといえどまともに動くことは厳しい。対してライト側は空歩という空中を歩けるアーツで機動力も抜群。


「クソッ!」


 セイクは半ばやけくそに剣を振るいながら、再度レイバーストで状況の打破を狙おうとしたのだが、


「落ちろ!!」


 分身含む三体のライトによる渾身の蹴りによって、凄まじい勢いで地面に叩き落とされた。


『初撃を防がれた時はどうなることかと思いましたが、やはり序盤の流れをとったのはライト選手です!!! しかし、これはライト選手新技でしょうか、今までよりかなりのダメージを与えているようです』


 実況の話す通り、セイクのHPは一割弱程度削れていた。多くの観客はそのカラクリに気づいていなかったが、目の肥えた一部のプレイヤー達は少し考えた後に気づく。


「落下ダメージか、考えたな大将」


 席が取れず立ち見となっていたジェインが、ビール片手にそう呟く。彼が賭けているのは知り合いであるライトの方、このまま落下ダメージを交えた戦法で押し切って欲しいところである。


 高所からの落下などそうそう起こる事ではなく、ダンジョンで落下しなければならない場所があるのならば、引き返して対策を練るのが普通であり、一対一で落下ダメージを利用するなんて実行しようと考えるプレイヤーなど他にいない。

 そもそも普通のプレイヤーが相手を高く打ち上げることができるならば、そのリソースを攻撃に費やしたほうがよっぽどダメージを稼げる。だが、極端にSTRの低いライトにとってシステム的に一定のダメージを与えられるのは大きい。


 再度落下ダメージを利用しようと、縮地での接近を狙うライト。しかし、


「白き暴風《アルブスフルグレオ》」


 ライトが自身を中心とした光の竜巻を発生させる。竜巻に突っ込むわけにもいかず、それどころか竜巻から吹き荒れる風によって接近ができない。速さを求めた末に自身を軽くしすぎたツケがここにきて現れた。


(この硬直はまずい!)


 この試合を通して二人の間に最大の距離が空いた。それは、詠唱を用いた呪文の一つくらい余裕で完成させられる距離。いくらライトの速度でもここからセイクの詠唱を止めるのは不可能。

 しかしながら、セイクが何の呪文を唱えているかは分かる。光の竜巻によって自分の体が傷ついてまで作った時間で詠唱した呪文。それならば、ライトのできる最良の手は()()()()()()()()()()()


 そう、


「「妖精召喚!!!」」


 二人の傍らに小さくも確固たる意志を持った妖精が現れ、闘いはさらなる高みにへと激化していく





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