第百三十ニ話
瞬きするほどの間に、数十を超える斬撃の音が響く。互いの斬撃の速さに周りの砂が巻き上げられ、二人の姿が隠されてしまう。
『侍VS忍者! この剣術対決は一体どっちが勝ったのでしょうか! 実況席からは見えませんが……おおっと、土煙が晴れてきたようです!!』
実況が叫び、それからすぐに景色は晴れた。観客の目に映ったのは、膝をついたたライトの姿。
『こ、これは!? ライト選手が膝をついています! 対するリン選手は……立っています! これは決まったか!!』
そう実況される通り、リンの方は膝をついたライトとは対照に刀を納刀した状態で悠然と立っているように見える。だが、そう見えたのも一瞬。
「……見事!」
そう、小さく呟やきリンが前のめりに倒れた。
「最後の最後で、久崎流の筆頭後継者に戻っていたよ、お前は」
『き、決まりました!!!! 準決勝、第二試合。勝者! ライト選手!!!』
ロングエッジを解き、短刀を腰に差しながらハートのAを懐にしまったライトは、観客たちの歓声をその背に受けて会場を後にするのであった。
「あ……れ。私、どうしてたんだっけ」
リンが目を覚ましたのはどこかの個室。起きたばかりで頭が上手く働かない。というより、ここ最近のこと自体霞がかったようにしか思いだせない。
とりあえず個室に用意されていたお茶を飲みながら、ゆっくりと思い出していると、
「そうだ、私。誰かにやられて……それから、大会に出て、それから……」
朧気ながら思い出してきた。記憶が曖昧な期間は十日ほど、古い記憶はほとんど思い出せないが、意識を失う寸前のことははっきりと思い出してきた。
急いで外の状況を確認しようと扉に手をかけた瞬間、その向こうからノックが聞こえた。
「起きたみたいだな。ちょいと入らせてもらうぞ」
「ラ、ライト!?」
扉を開けると、そこに居たのはライトだった。彼からすれば、先程まで顔を合わせていたのだろうが、リンからすれば数ヶ月ぶりに会ったようなものだ。
部屋の中に入ったライトは、じろりとリンの全身を観察する。リンが突然の来訪に面をくらっている間に、ライトは目的を終えたようで外へ出ようとする。が、
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 色々聞きたいことあるんだから!」
引き止められてしまった。ライトがここに来たのは、ロズウェルの洗脳が完全に溶けているかの確認をする為である。魔力視で見ても、ロズウェルの魔力の影はない。あまり長いして、彼女のパーティーメンバーと顔を合わせるのも気まずい。
「何が聞きたい」
「アンタの強さの秘密」
「断る。そういうのなら帰るぞ」
「冗談よ、冗談。……私に何が起きていたの」
軽口が叩ける程度には回復したようで、これは何か話さないと返してはもらえない雰囲気である。神の従者関連のことは話しても信じてもらえるかは怪しい上に、あまり話したくもない。
「……というわけだ。記憶の欠片が飛んでいるわけではないだろうし、時間をかければ思い出せるんじゃないか」
「確かにそうね。現にさっきの試合ぐらいは思い出せてきたわ」
とりあえず管理教団と、そのリーダーに洗脳されていたことに関して話す。洗脳の方法と、なぜそんな事をできるのかは分からないで通したが、
「なるほどね。そのロズウェルとか言うやつ、今度会ったらただじゃおかないんだから!」
リンはロズウェルへの怒りでそのあたりは詮索しないでくれた。
「それにしても、いつのまにあんなに久崎流を使うのが上手くなったのよ。最後の一撃も効かなかったし、もう私より剣術上なんじゃないの」
「最後のアレなんて、一戦目と同じ軌道で打っておいてよく言うぜ。勝つ気なら、もう少し変化いれてるだろ」
最後の連撃についても、半ば無意識にリンは止められる事を望んでいたようで、システムに任せただけのアーツであったお蔭でぶっつけ本番の奥義が間に合ったのだ。そこから久崎流の力を再確認した彼女は、自らの精神力でロズウェルの支配を跳ね除けたのだ。
その隙をつく形で倒したものの、互いに正気のまま全力でぶつかっていればまた違った試合内容であっただろう。
「そろそろ帰らせてもらうぞ。試合前に相手と鉢合わせるのは不味いからな」
「分かったわよ。セイクには言わないでおくわ」
「助かる」
今度こそ部屋を出ようと立ち上がるライト。リンがフレンドメッセージを見ると、パーティーメンバーは向かっているらしく、そろそろ出ないと鉢合わせるのは明白である。
ライトは、決勝戦前に余計な情を入れるのすら嫌っている事を察したリンは、もう止めることはしない。
「今度はお互いに全力でやりましょうね。久崎流、筆頭後継者の力、見せてあげるんだから」
「そうだな、楽しみにしてるぜ」
振り返る事はせず、ライトはそう返して部屋を後にした。その顔が、どんな表情であったかを知る者は、誰もいなかった。
【Decided strongest】
決勝戦
セイクVSライト