第百三十話 不合理
更新滞ってしまい本当にすみませんでした。
最近風邪で寝込んだり、忙しかったりなどありますが、次回以降は頻度を早められると思います。
「一体……何を……」
リンがライトの言葉にうろたえ、僅かに後ずさると同時にライトが距離を詰めた。
「ずっと腐っていた俺と違って、お前はずっと努力してきただろうが! その頑張りを、過去のお前を! 否定するんじゃねぇよ!!」
リンと刀を合わせライトは叫ぶ。少し力を込めれば、ライトを弾き飛ばせるというのにすぐに実行に移すことはできなかった。
(恐らく……ただ倒しただけじゃ無理だろうな)
リンと競り合いながら熱くなる人格がある一方、並列思考を行う人格は冷静にリンの状態を分析していた。魔力視を使えば分かる。元々の彼女の魔力と、浸蝕してるロズウェルの魔力、この二つは容易にはがせないほどに融合してしまっている。
今まで洗脳されていたプレイヤーらは、倒すというショックで洗脳のコアをはじき出すことができた。だが、今のリンほどにまで混ざってしまうと外部からのショックで洗脳を解くことは難しい。少なくとも、ライトにはできない。
(となると、あとは凛の精神力しだいか)
外側からが無理となれば、あと可能性があるのは内面からの刺激。
「さあ、こいよ。俺が言うのもなんだが、久崎流の力はこんなもんじゃないぞ」
かつての自分は精神的に腐り、極めることすらしなかった事に全力を注げていた彼女の力はこんなものではない。あんな男に屈するような彼女ではないと信じているからこそ、久崎流を使って立ち上がるのだ。
刀を振るい、血でできた紅黒の糸が振るわれるたびに頭の奥からズキンとした痛みが走る。今まではこの力を使うたびに痛みを伴ってきたが、それ以上に
(胸が、痛い……)
久崎流の技を見る内に感じていた胸の奥の熱さは、次第に痛みすら感じさせてきていた。その痛みと共に、自分のこの力の源が薄まってしまうような感覚。それによって太刀筋が鈍るのを感じ、無理矢理威力を高めようと彼女は、無意識にロズウェルの浸蝕を深めていく。
「気づいてるんだろ」
「何をっ!?」
力負けしないように刀を受けながら、ライトは口を開く。
「リン、お前。どんどん弱くなってるぞ」
「!?」
確かに出力だけで見るなら、リュナ戦よりもリンの火力は上がっている。だが、それを当てるための技術はどうだろうか。リュナ戦での狂気と理性のバランスはとうに崩れ、技のキレが落ちた結果。分身も使っていないライトに攻撃を当てることすらできなくなっているのだ。
とある酒場。試合を移すモニターに客たちが集まり、立ち上がって歓声を送るなか。
「ここまで来たんだ。少し計画が狂うけど。コレにはどう対応するかな」
一人、そう小さく呟いて指を鳴らす金髪の男がいた。
「グッ……が、ぁ」
(なん、だ? リンの魔力が、膨れ上がっている)
リンの説得を進めている最中、彼女から噴き出るオーラが爆発的に増えた。持久戦で減らしてきたオーラであったが、どうやら外部からの供給を受けたようである。
「う……あぁ、あ」
リンの目には正気どころか意思の存在すら確認できなくなっていた。他の洗脳者と似たような症状、恐らく最初は洗脳の力を取り込めるだけの精神力があったが、過剰なまでの力の追加に耐えられなくなったのだ。
あのまま舌戦に持ち込まれては、洗脳を剥がされるとふんで、それならば意思のない手駒にしたほうがよいとでもあの男は考えているのだろう。
『おおっと、これはリン選手! 前の試合で見せた大技の構えかぁ!! しかし! その圧力は前以上!!! さあ、ライト選手はどう防ぐのでしょうか!!』
リンの持つ刀に、新たに追加された魔力が集まっていく。その、刀を納刀した構えは、リュナとの試合を決めたあの技と同じもの。だが、今込められている魔力はそれを軽く凌駕する。
納刀の隙に攻撃しようにも、紅黒のオーラがそれ阻む。いくら高速で突っ込んでも、一瞬の停滞と同時にやられるのがオチだ。
「…………フーーッ」
その圧倒的魔力を前に、ライトは刀を構え小さく、長く息を吐いた。あと少し、久崎凛の心を刺激することができれば、あの洗脳は解けるかもしれない。
ただ洗脳に吞まれているのならば、光一も諦めたかもしれない。だが、リンはこの場面でわざわざ大技を選択した。そう、洗脳に使われる魔力を大幅に使用する大技をだ。
それは、間違いなく彼女の意思が、正気がほんの僅かでもこの狂気に抗おうとしている証拠に他ならない。
だから彼は刀を握り、久崎流の技で立ちふさがる。それがとびきり不合理であったとしても。
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